ビートルズ風のコード進行と言われるコード進行の大半は「ジョン風」のコード進行です。これを真似すること自体は理屈がわかってしまえばさほど難しくありません。実際、「ビートルズ風」の曲を作曲しようとした場合、多くの人はポールの作風ではなく、ジョン・レノンの作風を真似します。とりわけ、OASIS等後世のブリティッシュロックや奥田民生の作品のコード進行に強く影響が見られます。

今回はなぜジョンらしさとはなにか、初期の代表曲HELPの分析を通じて解説します。
 

HELPの構成は歌詞で言えば “Help! I needsomebody”と歌い出す冒頭部、”When I was younger..”の部分、”Help me if you can..”の部分、そして短いコーダの4部分からなっています。

冒頭をサビとする解釈もあるでしょうが、僕は冒頭部は「イントロ」だと考えています。なぜなら”Help”というコーラスが入るセクションは冒頭と終わりの一度ずつしか使われていない上に、コード進行が”Help me if you can”のセクションを縮小したものであるからです。

したがって、この曲は ”When I was younger..”のセクションを[A] “Help me if you can”のセクションを[B]とした二部形式として分析を進めます。

・ジョン・レノンらしさのエッセンスbVII

結論を先に言えばHELPがいかにもジョンの作品らしい理由はbVIIのコードが使われていることです。HELPの調性はKey of Aなので bVIIのコードはGです。実はこのコード、ありとあらゆる「ビートルズ風」の曲に頻出します。

 

しかし、そのようなコード進行を真似てもどうしても「ジョンらしくならない」そんな体験をした方は多いのではでしょうか。実はコード進行を真似ただけではジョンらしくはならないのです

次の譜例をご覧下さい。これはHelp!の旋律の装飾的な音やリズムを取り払って旋律の骨格を浮かび上がらせたものです。すると驚くべきことに気がつきます。[A]はほとんどCisの音一つでできているのです! 他の音はCisの周りを行ったり来たりしているだけで中心音はあくまでCisのみ。

このような、メロディの音はかえずに、コードをかえることでサウンドに変化をもたらすという手法はI Am The WalrusやJuliaにもみられる手法で、ジョンの特徴の一つといえるでしょう。

続いて[B]を見てみましょう。[B]もやはりE-D-Cis-Hという骨格をコードが変わってもそのまま繰り返しています。面白いのがフレーズの頭のE音とコードの関係です。Bmコードが鳴り響いている時に歌われるE音は非和声音であり、11thのテンションにあたり、かなり強烈な響きがします。Helpの[B]の「ジョンの心の叫び」が強く印象付けられるのは11thのサウンドによるところが大きいとおもいます。
 

さてコードがGに変わるとEは6thの響きになります。11thほど強烈ではないにしろ、「ビートルズの6」と言われるぐらい特徴的なサウンドです。 そして三回目、コードがEにかわりようやくフレーズのはじめの音がルートに落ち着き、フレーズの最後のHがコードの5thにあたるので、三回目がもっとも安定した響きになります。その後に最も高いA音に跳躍して分散和音の形で下のAに落ち着く。とてもうまくできていますね。

 

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