「ニッポンが好きだから」 瀬戸内寂聴、櫻井よしこ著  新潮文庫


 瀬戸内寂聴と櫻井さんの対談集です。戦争体験や憲法問題、歴史、文化などを語り合っています。この本の出版は平成14年なのですが、日本はその頃よりさらに悪化してしまったようです。中国の李鵬がオーストラリアで『あの国(日本)は30年後にはなくなっている』とコメントしたことがありました。櫻井さんは李鵬氏がその理由として「誰も国家というものを考えていない。そんな国は滅んで当然だ」と語った話を紹介しています。


 郷土愛、愛国心というものがいかに大切なものであるか、言われてみればその通りです。(ムカつくけど)震災で私達が国家や愛国心について考えだしているのが希望の芽かもしれません。


瀬戸内寂聴が年の功と、自分の体験だけで話をすすめるのに対して、櫻井さんは、その知識だけでなく論理的に自分の主張の根拠を述べていて、終始対談をリードしています。


 1ページごとに「こんなに賢くてエレガントで論理的、冷静で謙虚な女性が本当にいるんだぁ」と感動にもにた気持ちがわきあがりました。


 私は以前、今は休刊になった「諸君」という雑誌で櫻井さんが対談相手の文化人をコテンパンにして対談を終えたのを読んだことがあります。司会者なのにあまり役に立っていなかった宮崎哲也さんがタジタジとなってロクに言い返せなかったばかりか、「そんな怖い顔しないでくださいよ~」という女性と論を戦わせる時、言ってはいけない台詞まで口にしていましたっけ。論戦の最中に、しかも自分が負けてる時に相手の女性を怖がってみせるのは、興奮して言い返すよりもずっとタチが悪いものです。

 でも「ニッポンが好きだから」ではお二人とも終始なごやかな雰囲気で最後は愛や宗教、老い方まで語り尽くしています。何度も読み返したくなる一冊です。













 キャサリン・ヘップバーン信条は「明快であること」と「前向きであること」でした。映画「アビエイター」にキャサリ


ン・ヘップバーンがハワード・ヒューズを自分の家に招待するシーンがあります。見方によっては無礼なほど「明


快に自分の意見を言う」リベラルなキャサリンの家族にハワード・ヒューズが辟易した表情を見せるシーンがあり


ます。


 キャサリンの女優としての評価は最初のころ、それほど高くはありませんでした。「常に一本調子で感情を


表現しようとしている」「実力不足」と評され、男勝りの性格はマナーが悪いと敬遠されました。そんな女優として


の危機が一変したのは「女性№1」でした。第二次世界大戦後の女性の社会進出と、自分で人生を切り開いてい


くキャサリンのパンツ姿はぴったり合ったのでしょう。


 キャサリン・ヘップバーンは自分の自伝の中でいかに自分がラッキーな人間か、何度も書いています。他人か


ら見て本当にラッキーな人は、あまりそのようなことを言わないものです。キャサリンは10代の頃、仲のよかっ


た兄のトムが自室で首をつっているのを発見してしまう、という辛い経験をしていました。晩年、「トムを忘れたこと


は一度もない。なぜ救えなかったのか罪の意識をずっとぬぐえなかった」と語っています。


 キャサリンの「私は本当にラッキー」という前向き人生は彼女の美学に裏打ちされていました。「悲しみを人に


見せるべきではない。自分のみじめさではなく、明るさや喜びを人に伝えたい」というものです。


 その美意識はスペンサー・トレイシーとの恋愛でも貫かれました。敬虔なクリスチャンで妻子があり、離婚する


気はないスペンサーとの恋愛は試練と忍耐の連続だったことでしょう。しかしキャサリンはスペンサーを略奪しよ


うとしたのではなく、幸せにしたかっただけ。週末はスペンサーが家族と一緒にすごせるよう気を配っています。


 そのため、スペンサー・トレイシーの子供は父親との楽しい時間をすごし、キャサリン・ヘップバーンを恨むこと


はなかったようです。スペンサーが亡くなった時も決して目立つ場所には出ませんでした。葬儀は全て妻が執り


行い、キャサリンは車の中から彼に最後の別れを告げました。修羅場を演じるのは彼女の誇りが許さなかった


のでしょう。


 「彼のために働くのが好きだった。彼の気持ちを確かめることはなかったが、27年を共にすごし私にとって至福


の時だった。それが愛」


晩年は大女優として多くの作品に出演し、また生来の「明快さ」も発揮しています。舞台公演中にシャッターをき


ったカメラマンを舞台上から怒鳴りつけたり、若手の女優にキツイ評価をしたりもしています。ジュリア・ロバーツ


のことはお気に入りだったみたい。