鶴光のオールナイトニッポン・サンデースペシャル、懐かしのコーナー紹介も再開します。
今回は、「鶴光の昭和任侠伝」
このコーナーは、AM4:30頃、「愛の告白コーナー」に代わって'78年に放送されていました。
ちょうど榊みちこがアシスタントをしていた頃と重なります。
物語は、任侠の世界に生きるマサが、ツル兄ィこと鶴光に語りかける感じで進んでいきます。
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ツル兄ィ
この暑いさ中、いかがお過ごしでやんすか。
ああしらやさぐれにとっては、毎日毎日が仕事の連続。
それでねえと、銀シャリにはお目にかかれないんでやすよ。
そんなあっしらにも、たまには骨休めのできる日があるんでやす。
ついこの間んのこと、久しぶりの休みに街の焼鳥屋で、きすぐれてたんでやんす。
あっしが安もんの冷酒をなめてやすとね、ちょいと見たところ歳の頃なら三十五、六の
やつれたオンナが、子供を連れて連れて飛び込んできたんでやす。
息を切らしたその女は、何か追われている様でした。
それでも、しばらくすると落ちついたのか、あっしの横のイスに腰かけたんでやす。
店のオヤジの問いかけにも、力なくうなづき、蚊の鳴くような声で注文してるんでやす。
「おじさん、すみません、今日持ち合わせがないんだけど、おにぎり五つほど、
にぎってもらえないでしょうか。必ず月末にはお返ししますから・・・」
「困りまんなー、キヨさんよ、一回や二回やおまへんさかいな。
他にも、ダンナのツケだけでもなんぼたまってると思いまんねん。
先月の分、全部払うてもらうまであきまへんな。
ま、ま、悪うおまっけど堪忍しとくんなはれ」
「おじさん、そんなこと言わないで。せめて、この子の分だけでもいいんです。お願いします」
「アカンちゅうねン。とにかく今日はおことわりや」
「おかぁーちゃん、おなかすいたよー」
「おねがいします。おねがいします」
「しつこいな、ホンマに。帰りいや」
義を見てせざるは勇なきなり。
「オウ、オヤジ、この人の銭はあっしが払おうじゃねえかい。さ、さ、早くにぎってやんな。
おっ、ついでに、味噌汁と漬もんもだ、
−ぼうず、たんと食いなよ」
「・・・すみません。どこのどなたとも知らない方に・・・」
「いいってことよ。どんなわけがあるかは知らねえが、困った時はお互い様よ」
「ありがとうございます・・・」
あとは涙で、その声は聞き取れやせんでやした。
「ほほぅ、ぼうずは正直だ。ほうら、どんどん食いなよ。
足んなかったら、おじちゃんがたのんでやっからな」
「ウン、おじちゃん、ありがとう」
「あっしみたいなので、よかったら話してくれやせんか」
話を聞くところによると、十年前に惚れあった男と所帯を持ち、子供にも恵まれたそうでやんすが、
ある日突然、その男がよそに女を作り、蒸発してしまったそうでやんす。
ま、よくある話でございやすが、幸せな日々から一転して暗闇の世界へ。
この世知辛れえ世の中の荒波を、女の細腕で渡っていくには、あまりにもこいつは酷というもの。
夜の世界に身を沈めるうちに、今の男と知り合ったそうなんで。
その男てえのがひでえ野郎で、飲む打つ買うはお手のもの、酒癖が悪く酔うと子供にまで手をかける。
おまけに、その女の稼いだ金は、全部遊びで使ってしまい、今までずいぶんと苦労したんだそうでやんす。
何度も逃げようとおもったそうでやんすが、そのたびに連れ戻され、殴る蹴るの乱暴をし、
今じゃ怖くて逃げだすこともできねえんだそうでやす。
ケッ!世の中にはダニみてえな男がいるもんでございますねぇ。
そこまで話した時のことでやす。
一人の男が飛び込んできたした。
「オウ、こら、ワレ、こんなとこにいてけつかったんか、よぉ。またこのガキゃ悪い考え
起こしとんのやろ、ワレ。オウ、早ういなんかい、コラ!」
「あ、あんた、今この子にごはんを食べさせてるんです。食べ終わるまで、待ってください」
「なんやとー、コラ、ワレ、オネーオネぬかしとったら、頭カチ割ったろか、こらワレ。いっしょに来んかい!」
バチーッ!
「痛い!あ、あんたっていう人は・・・」
店のおやじ、他の客も唖然としておりやす。
「コラ、このガキ、こっち来んかい」
「ウェ〜ン」
「おぅ、おぅ、兄さん。やめねえかい。女子供に手をあげるなんざ、男のするこっちゃねぇよ」
「オウ、なんやと、コラ、文句あんのか、ワレ。いっぺんうわわしたろか、ワレ」
「ほう、うたわす・・・。上等じゃねえか。弱い者いじめしかできねえ野郎にゃ、体で教えて
やらねえとわからねえみてえだな。顔貸してくんな」
「なんやと、ワレ、オモロイことのたもうてケツかんのぅ。表出たろうやないけ」
こんなチンピラに負けるわけございやせん。その野郎は血ヘドを吐いて、歯を折ってぶっ倒れやした。
その時でやす。
店の中から女が飛び出してきやした。
バチッ!
「な、なにをするんでぇ!」
「あ、あんた。大丈夫、大丈夫、あんたぁ・・・」
男はぶっ倒れたままでやんす。
その男に、女はすがるようにしてやした。
「バカッ、お父ちゃんに何するんだ。お前みたいなヤツは、死んじまえばいいんだ、ボケェ」
追い打ちをかけるように子供の声。
「す、すみませんでした。こんな人でも、あたしにとっちゃ一人の亭主・・・。また、たった一人のこの子の父親。お金はお返しします。お名前とおところを・・・」
「い、いいってことよ」
あっしは相当複雑な気持ちで、その場を離れやした。
心の中で叫びやした。
「アホだした。このワテがアホだした。情けをかけて、銭まで使うたこのワテがアホだした」
ツル兄ぃ、女心ってもんは不思議なもんでやすねぇ。
外は雨が降り出しやした。
その夜飲んだ酒は、本当に苦え味がしやした。
end