相続税の土地評価は、誰が評価しても同じにならなければなりません。
評価する者によって評価額が異なるのでは、租税の原則である納税者間の公平が保たれないからです。またそのために国税庁の評価基準が定められているのです。
しかし、広大地の適否はまったくあいまいなものとなっています。
現行の取扱いは、納税者、課税庁、ともにメリットはありません。
広大地は、
(イ)その地域における
(ロ)標準的な宅地の地積に比して
(ハ)著しく地積が広大な宅地
をいい
(ニ)マンションに適した土地には適用できません。
何が標準的なのか、著しく地積が広大とはどの程度をいうのか、マンション適地とは何なのかがまったく不明確です。
そのため、実務では、広大地が適用できるかどうかは、
・その地域における標準的な宅地の地積は何㎡かを調べ、
・都市計画法に基づく開発をすると、何区画の開発が想定されるかを調べ、
・道路の新設が必要なのかどうかを調べ、
・マンションの需要があるのかを調べ
・周辺地域における最近の開発状況は、道路を新設した開発事例なのか路地状敷地を組み合わせた開発なのか、マンションなのかを調べます。
これでは、誰が評価しても同じになるとは思えません。
実務の対応としては、広大地を適用して納税・申告する際には、
(イ)不動産鑑定的な手法でその要否を判断するための専門機関への高額な費用負担が生じるといった状況や、
(ロ)当初広大地を適用しないで申告し広大地を適用して更正の請求を行うといった時価が二つあるともとれる状況、
(ハ)当初申告により適用した広大地が、税務調査で否認されて予期せぬ多額の納税が必要となるといった状況が生じています。
税理士事務所の中には、当然に適用できる土地を、あたかも税理士の努力によって評価額を減額させ、その分の報酬を上乗せする事務所もでてきています。
そもそも広大地というのは、要件がそろっていれば適用するのが当たり前なのです。
税理士の努力によって評価額が減額するわけではありません。
(当初申告で適用していないものを適用して税金を還付したとか、税務調査で否認されたものを覆したというのは、それに見合う報酬は発生しますが。)
広大地の規定は、平成6年に新設され、平成16年に改正されました。
新設以降、納税者と課税庁との間でトラブルが絶えないものとなっています。
平成16年の改正理由は、広大地の判断に苦慮することが多かったために、改正後は、地積のみで評価ができるようにするとされています。
しかし、現在でもその判断に苦慮することに変わりがなく、ましてや事例の積み重ねにより一層その判断を困難なものとしています。
専門家にとっては、確かに面白い論点です(否認されたら目も当てられませんが)。
しかし、納税者にとっては、適用できたにも関わらず適用しなかった過大納付、否認されるリスク、広大地判定の費用など、税法の趣旨とは離れたところでおかしな現象が起きています。
したがって、広大地は、例えば、一定の面積を超える場合には、一律に2割の減価を行ったうえで、不整形地補正や無道路地補正などの補正率の重複適用を認めるとか、マンション適地の判断を撤廃し、容積率のみで一律に適否がわかるなどと、簡便的な評価方法に改めるべきではないでしょうか。
(参考)
風岡範哉「判例・裁決例からみえてくる広大地質疑応答事例の問題点」『月刊税務事例』〔2011年12月号〕財経詳報社