今日は幼なじみでお隣さんの一翔かずとと一緒に初詣に行くことになっている。
 着慣れない着物をお母さんに手伝ってもらいながらなんとか着て、あとは一翔を呼びに行くだけ。
 いつものように気軽に行けばいいのに、なんだか今日は行きづらい。
 理由は自分でも分かってる、今からしようとしてることに緊張してるんだ。

 今日、私は一翔に告白する

 出会いは私がまだ小学3年生だった頃、この町に引っ越したのがきっかけだった。
 引っ込み思案な私をクラスに馴染ませてくれたのが一翔だった。

 お隣さんだった分、友達になってからは頻繁に遊んでお泊まり会なんかもした。
 そんなことをしているうちにいつのまにか私の中では一翔の区分が友達から初恋の人に変わっていた。

 それから私が一翔を意識し始めてから8年。
 この気持ちは私の心の中でずっと眠っているだけで本人に伝えたことはない。
 いつか伝えなきゃと思いながらも全て失敗に終わってしまっていた。

 どうせ伝えられないならこの気持ちはずっと心の中で眠らせておいた方がいいと思っていた。
 今の関係を壊したくない。
 友達のままでもいいから一翔のそばにいたい。

 そう思っていたのにあと3ヶ月もしたらこの気持ちを伝えることもできなくなる。
 一翔がここから遠い大学に合格し一人暮らしをすることになったのだ。

 もう一翔の隣にいることはできない。
 友達としても一翔の隣に居ることはできない。

 そう思ったらもういてもたってもいられなくなった。
 長年、私の奥底にしまい続けていたこの思いを爆発させようと思う。

 「すいませーん、恵美めぐみいません?まだこっちに来てないんですけど」
 「恵美?まだ部屋にいるのかしら。ちょっと恵美、一翔君来てるわよー」

 そんな大きな声で叫ばなくても聞こえてる。
 「ガンバレ私!ファイトだ私!」
 この機会を逃すわけにはいかない。

 「お、どうしたんだその格好。珍しいな」
 「う、うるさい。それよりも今日は冷えるねー。私、手がかじかんできちゃったなー……なんて」
 「…………俺のカイロはやらぬぞ」

 一翔はこういう人間である。
 絵に描いたような鈍感男、鈍感レベル100のエキスパート。
 これまでも幾度となくアピールしてきたけど全て気づかず失敗におわる。

 今だって、ホントは手を繋ぎたかったのに全然気づいてくれないし……
 もう一翔のバカ!!

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 一翔と言い争いをしながら神社に行ってみると人で溢れていた。
 どこを見ても人、人、人。都会の満員電車みたいだ。

 「うわ、マジかよ。元日は昨日だったから少しはすいてると思ってたんだけどな。出直さね?」
 「なに言ってんの。せっかくここまで来たんだからお参りしていかなくちゃ。一翔の悪い癖だよ」
 「だってお賽銭入れるだけでも何時間も待たなくちゃいけないんだぜ。すいてるときのほうがいいだろ」
 「だーかーらー、さっきも言ったけど一翔のその考え方がいけないんだって。こういうのは並ぶことに意味があるんだよ」

 またどうでもいいことで言い争いになる。
 昔はこんなことですぐに喧嘩になっていたが今では冗談としてお互いこの喧嘩を楽しんでいる。
 私たちなりの言葉のキャッチボールと言ったところだろうか。

 「分かってないなあ一翔は。ラーメンと言ったら醤油に決まってるでしょ」
 「分かってないのはお前のほうだろ。醤油だぁ?そんな外道なものと一緒にするんじゃねぇよ、ラーメンと言ったら豚骨だろ」

 いつのまにか話がそれてなんの話をしていたのか分からなくなるのもいつものこと。
 それだから一翔と一緒にいると時間が早く感じてしまうのかも。
 いつのまにか私たちがお参りをする番になっていた。
 何時間、二人で言い争っていたのだろう。

 「いいか、2礼2拍手1礼だぞ。ここテスト出るからな」
 「そんなん子供じゃないんだから知っちょるわ!そもそもなんの教科で出るのよ」

 一翔に余計な茶々を入れられて噛み付いたが心の中ではナイスフォローと感謝していた。
 なんだかんだいって神社にお参りなんてそう頻繁にあるものではない。
 お参りするときの作法なんて記憶の片隅にも残っている訳がなかった。

 一翔は分かってやってるのか知らないがこんな風に私を助けてくれることがある。
 道を歩くときもさりげなく車道側を歩いてくれるし、急に雨降ってきて傘を借してくれたり。
 一本しかない傘を借してくれたから次の日に一翔は風邪で寝込んじゃったおバカさんだけどね。

 そんな自分のことをお構いなしに私を助ける一翔が大好き。

 だからお願い神様。一翔に告白する勇気をください。
 返事がもしノーでもいいから、告白する勇気だけもらえればそれでいいから。


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 「そんなに大学受験厳しそうなのか、すごい長いあいだお願いしてたみたいだけど」
 「バ、バカにしないでよね。一翔みたいに頭良くはないけどちゃんと頑張ってるんだから」

 ここであんたに告白する勇気をもらってたなんて答えられたら苦労しないんだけどなぁ。
 もう、私の意気地なし……

 「そっか、なんかあったら俺に言えよ。できることならなんでもしてやるから」
 「そ、そう。なんでも、なんでもねーー」

 ここで私が付き合ってください!!なんて言ったらどんな反応するのかな。
 喜んでくれるのかな……OKって言ってくれるのかな……それとも困った顔されるのかな………………
 あぁぁぁぁぁ、なんだか告白するのが怖くなってきた。

 告白するのは別に今日じゃなくても…………ダメダメダメ。
 それでこれまで先延ばしにしてきちゃったんじゃない。
 告白しようと思ったの体育祭の日だよ。それから4ヶ月も先延ばしにしてきたんだよ。

 …………それに、一翔はあと2ヶ月もしたら遠いところに行っちゃうんだよ。

 これ以上先延ばしにしたらもう日付がなくなっちゃう。

 「おい、急に立ち止まってどうしたんだ。腹でも壊したとか」

 言わなくちゃ、この気持ち。伝えられるときに伝えなくちゃ。

 「も、もしもだよ。もし私が…………その……一翔のことがす、好きだって言ったら付き合ってくれる?」

 ……………………言ったァァァァ。
 つ、ついに長年のこの気持ちを言ってしまったぁぁぁぁぁ。

 怖くて瞑っていた目を恐る恐る開けてみるとそこには涙を浮かべている一翔の顔があった。

 そうだよね、私なんかが告白しても迷惑だよね…………
 一翔は優しいから他の子達にも人気あるもん。
 ずっと一緒だった幼馴染に告白されたら誰だって困るよね…………

 「ご、ごめん。今のなし。冗談……だから」
 「…………冗談にしてはすごい泣いてんな」
 「バカ、違うもん泣いてないもん。これは緊張して出てきた汗だもん」

 なんで私泣いてるんだろう。この気持ちは一翔に届くことなんて最初からないのに。
 心のどこかでもしかしたらこの想いが届くんじゃないかって期待してたってこと?

 バッカじゃないの、私なんかが一翔の隣に居ていい訳ないじゃない。
 私よりもっと可愛い子の方が幸せに決まってるのに、なんで一翔の幸せを優先してあげられなかったかなあ。

 「はぁ、もうお前ってやつは。そのなにもかもマイナスに考える癖やめろ」
 「びゃ、びゃってかびゅとが……(だ、だって一翔が)」
 「あぁもうめんどくさい。俺が泣いてたのは……その…………う、嬉しかったからだっての」
 「…………う゛ぇ?」
 「俺も恵美のことが好きだ。ずっと前から。
 俺が帰ってくるまで待っててくれるか」

 一翔が……私のこと、好き?
 さっきの涙は嬉しくて泣いてくれてたの?
 そ、それってりょ、りょりょ両思い!?

 「グス、ずっと待ってるから。あんたが戻ってくるまで私、ずっと待ってるから」
 「待っててくれて俺も嬉しい。けど、辛くなったら待っていいから」
 「それでも私待ってるから。何があっても、絶対にここで待ち続けるから」
 「…………そっか、それなら俺も安心だ。好きだよ、恵美」