SF短編をいろいろなところに発表してきた作家伴名練(はんなれん)氏による初めてのハードカバー短編集です。

 

8月の発売前に重版が決定し、その後すでに5刷を重ねるという人気ぶり。タイトルと表紙絵もステキで、購入してみました。

 

 

6作品が収められています。

 

「美亜羽へ贈る拳銃」

主人公の名前、ミアハと聞けば、伊藤計劃ファンとしては彼の「ハーモニー」を思い浮かべるわけですが、この作品、「伊藤計劃トリビュート」に掲載されたとのこと。1988年生まれの伴名氏、きっと伊藤計劃LOVEなのだろうなーと思ってしまう。

脳へのインプラントで特定の人を愛するようにする装置の話。切ない恋物語になっていてウルウル汗

 

 

表題作の「なめらかな世界と、その敵」

(本文より)

『そうか。交通事故で4年前にお父さんが亡くなった、そんなこともあったかなあ・・・ 

 

え  ?? 4年でそれはないでしょ?!10年経っても20年経っても父親の死に対してそんな言葉は無いでしょうあせる

 

と 実はこの世界では「乗覚」という感覚?をもって並行世界を移動できる、つまり都合のよい世界に移って生きることができる・・・なんとなめらかなゆるい世界。しかしてその「敵」が・・・

けっして理詰めではなく、とても美しい文章でつづられていて面白いです。

 

 

「シンギュラリティ・ソヴィエト」

AIが人類をリードするシンギュラリティの時代の、米ソ冷戦の話(歴史改変もの的な)。

人工知能の天才アラン・チューリングが、彼の同性愛性癖を告発する西側を離れてソ連に受け入れられ、その力によってソ連が米国に先立ってシンギュラリティを達成していた。

全てを支配する超スーパー人工知能と、そのもとで自由に生きている・・・つもりの人類。

ちょっと伊藤計劃「ハーモニー」のその後の世界的な?

こちらも非常におもしろかったです。

 

 

「ひかりより速く、ゆるやかに」

修学旅行の高校生を乗せた新幹線が、突如として、何だろ?説明しづらいですが、時間の流れがまったく異なってしまった話。

その列車だけ超低速で動いているので、たとえば次の駅に到着するのは(こちらの世界でいうと)数千年後になってしまうww

そこに止まって見える列車内の人々はまるでストップモーションのよう。果たして彼らはもとの世界にもどれるのか。

 

 

どの作品もそのSF的発想もおもしろく、また文章も抒情的で美しく、ウルウルする箇所もいくつもありました。

 

ただ、蛇足的に個人の勝手な感想としては、例えて言えば彼はケン・リュウ・かなと(アメリカのSF作家) 魅力的なプロット、物語性そして美しい文章。

ユーリの憧れるSF作家はテッド・チャン。それはもう物語を超えて哲学書、神秘の書。読んでいると今いる現世界が捲れてくるような魔力。

 

というわけで、久しぶりにSF世界に浸って今、テッド・チャンの17年振りの新作短編集の翻訳を待ってじりじりするユーリなのでした。

 

EXHALATION EXHALATION
1,995円
Amazon

 

あー原書で読めたらいいなーあせるあせる

 

 

とまた違う方向へ行ってしまいましたがww