奈良県上川村、その山あいのダムの奥の集落。昔は林業で栄え、登山客なども多く、映画館さえあったこの地も、今は住む人も疎らである。ここに今でも営業を続ける老舗旅館がある。そこの一人娘のイチカは、母・咲、祖父・シゲと暮らしていて、シゲの息子である父・良治は旅館を継ぐ気はないらしく、更には咲とも上手く行っておらず別居しているが何かにつけて顔は出している。旅館を切り盛りしているのは咲とシゲ。イチカは小学校を卒業して春からは中学生になる、その春休みの数日間の物語。淡々と過ぎる日々の中、ある日何の前触れもなくシゲが姿を消してしまう。


NARAtiveプロジェクトと言う、なら国際映画祭主催の映画制作プロジェクトによる7作目の映画だとか。プロジェクト自体を知りませんでしたが、観初めてすぐに「河瀬直美っぽいな」と思ったら、エグゼクティブプロデューサーに名を連ねてましたね。あれは土地柄が醸し出すナニカなのだろうか…河瀬直美が醸し出すナニカなのだろうか…どちらにしてもスゴイ事です。

ドチラデモナイカモシレンケドナ…

ともあれ、映画の成り立ちから考えれば、多少なりとも奈良の(川上村の)PRが入ってきそうなモノですが、敢えて言えば"綺麗な川の流れ"のカットがあった程度で、建物内などは自然光の撮影で、つまり、所謂"盛った"ところはありませんでした。まぁ、そこが余計に郷愁を誘うし、あの旅館の、風でガタガタ音を立てるガラス戸なんて、それ自体が映画を観て訪ねて来る観光客を生む可能性ありそうですけどね。


もう終わりが近い事を感じている祖父・シゲ、直接血が繋がっている訳ではないが、嫁入りしてからずっと女将として他を顧みずに頑張ってきた、その越し方を後悔などしていないが行く末を思い迷う母・咲、家族が嫌になった訳ではなく、しかし己に正直になれば、家族と離れざるを得ない父・良治、祖父を慕いつつ、父の事も母の事も自分なりに理解して、前を向こうとするイチカ。

どんなに美しくかけがえのない日々でも、どんなに願おうとも、世界はうつろう。

ここから先は霧の中。人は皆その淵を歩いている。