Cside
自分の欲に負けた。
だってずっとお慕いしていたユノ様からのお言葉と…あんな風に求められたら負けるのは当たり前。
でも執事としては、
「失格だよね……」
まだ身体が熱い。
この身体の熱を冷ますために僕は少し冷たいシャワーを浴びている。
本当は頑なにお断りをしなければならなかったと思う。
ユノ様は一国の王。
たとえ現代で王族の立場が昔に比べて低くなったとはいえ、王族に変わりはない。
「少しの間だけ…夢を見させてくださいユノ様……」
どうせすぐに終わる関係だ。
『おはよチャンミン♡』
「おはようございます王様」
『……………なんか違うんだけど?』
「違うと…は?」
『う〜ん?』
いつも通り朝お迎えしユノ様と2人で送迎車までの道のりを歩く。
ユノ様の語尾に♡が見えたが、見えていないよう努めた。
『わかった!言葉だ』
「お言葉が何か…?」
『その丁寧語?尊敬語?止めてよ』
「そのようなことはでき兼ねます」
『だって恋人同士だぞ?おかしいじゃん』
「恋人!!?!」
『そうだろ?付き合うことになったんだから』
「お言葉を慎んでください!」
『………………違うの?』ムッ…
あぁ、ご機嫌を損ねてしまったかもしれない
「このような公共の場で軽はずみな発言は慎んでいただかないと」
『公共の場って家だけど?』
「たとえ家の中だとしても、知られて良い内容ではございません」
『………堅苦しいなぁ。まさかウニョクの前でもか?』
「勿論です」
『げーっ!』
「ご了承ください」
ハァァァァァ
大きな溜息をしたユノ様。
嫌われてしまっただろうか。
『わかったよ。
その代わり部屋で二人きりだったらいいだろ?』
「………………」
『誰かに聞かれることもないんだから、
あとチャンミンは俺にタメ口を使うこと!』
「無理です!絶対無理です!!」
『だーめ!これは命令!』
「…………命令はしないとおっしゃったじゃないですか…」
『………ッ言った……じゃあできる範囲でいい。恋人なんだから』
「……………努力、します…」
『ありがとう♡』
目尻を垂らし僕の髪を撫でてくださったユノ様。
僕の顔覗き込むように見つめてくださる瞳は今までで1番お優しい。
「王様……」
『チャンミン……』
ユノ様が僕の唇に視線を移された。
駄目!こんなところでキスだなんて……
あぁ、どうしよう。
頭では駄目ってわかっているのに、身体が阻止できない……
ゴホンッ!!!
"おはようございます!!"
「!!!!!ウニョクさん!!??!」
『ウニョクおはよう。どうした?車じゃなく廊下にまでお出迎えなんて珍しいな?』
"お時間になってもいらっしゃらなかったので心配で参りました"
『そっか、それは悪かった』
"…………………何か問題でも?"
『いや、問題なしだ。行こうか』
"チャンミンは問題ありそうですが?"
「!!!問題なしですよウニョクさん!」
"………………ならいいんだけど"
「行きましょう!王様、ウニョクさん!」
あっぶない!
廊下でキスだなんて言語道断。
あり得ないを通り越して、呆れてしまう。
そもそもユノ様はキスをしようとしていたのだろうか。
僕の思い込みとかかも…?
だったら恥ずかしすぎる〜///
『邪魔者のせいで残念だったなチャンミン♡』
「え?」
『もう少しで朝からキスできたのに』
「………////」
"邪魔者で申し訳ございませんね"
『ん?なんのこと?』
"丸聞こえですよ?"
『ん〜?』
ユノ様が僕の耳元で囁いてくださったお言葉が、ウニョクさんに聞こえてしまったようでウニョクさんは呆れて溜息をついていらした。
僕はユノ様とウニョクさんのやり取りよりも、やっぱりキスをしようと思ってくださっていたことが知れて安堵した。
「僕だけが盛り上がっていたわけじゃないんだ…///」
Eside
本当に王様は自覚が足りていない!
王様だけじゃない。
チャンミンも執事って自覚がまるでない。
家の中とはいえ廊下でキスをするなんて…ハァァ ま、間一髪のところで阻止できたけど。
この雰囲気から察するに、
2人は昨晩付き合うことになったんだろうな…
チャンミンなんてたった1日だけ拒んでいたけど、王様のアタックに負けたようだ。
もっと意思を固くいてほしいよチャンミンには。
でもまぁ、ずっと好きだった王様が自分を好きになったなんて奇跡だよな〜
友人としては拍手を贈ってあげたいところだけど、
執事としては今後が思いやられる。
まずは本人たちにもっと自覚をさせるのは必要だ。俺がいないところで好き勝手されたらたまったもんじゃない。
"ほどほどにしてくださいよ"
『何が?』
"人前でイチャイチャしないよう努めてくださいってことです"
『イチャイチャなんてしてねぇよ?』
"………してるだろ!さっきだって俺が声をかけなかったら絶っっっ対にキスしてただろ?自覚しろ!回りに気を使え!"
「…………ウニョクさん…あの、お言葉が…」
『あーはーはー悪かった悪かった』
"言われる前に気付け!"
『わかったよウニョク』
王様だろうが言いたいことは言わせてもらう。
"王様だけじゃなくて、チャンミンもだからな"
「え?」
"チャンミンも隠す努力をしないと。
さっきのキスだってチャンミンにも責任はあるから!"
「!!!!!」
"……………………"
「隠せていると自負していました」
"……………無自覚"
チャンミンは俺の言動に相当ショックだったようで、まさにシュンと文字が見えるほどに落ち込んで下を向いている。
王様だけでなくチャンミンまで指導しないといけないとか、
気が遠くなる。
でも、
"まぁ、それでもユノよかったな。
チャンミンも長年の気持ちが伝わってよかった"
俺がそう言うと、
二人は見つめ合って、
ユノは切れ長の目が線になるぐらいに笑い、チャンミンは顔を赤らめながら花が綻ぶように微笑んだ。
そんな二人を目の前にすると、友人として心から良かったと思えた。
"ユノ、チャンミンおめでとう"
俺も執事としては駄目執事なのかもしれないけどね。
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