約束の一打席 第1話『もうすぐ夏が...』
“カンカンカンカン…”
踏み切りの音が駅のホームにも響きわたる。
小っちゃな港町の無人駅に
今日も2両編成のおもちゃ箱のような地鉄電車が行き交う
“ガタンゴトン、ガタンゴトン、、、、ガタン、、、、、ゴトーー
ーン、……”...
20:24、電車から降りるのは二人
前の車両から、佐伯浩二(ある高校の野球部)
後ろの車両から、毛利さおり(ある高校のテニス部)
このお話しは、幼なじみである、高校3年生二人のお話しです。
◆◆◆◆◆◆◆◆
私と佐伯君は幼なじみ、小・中学校はずっと同じクラスだった。
中学校では佐伯君は野球部でエースで4番・主将の女子の人気者っ
て感じだった。
中学卒業時180cmを超える身長は学校のなかでも、スゴク目立
っていた。
っていうかモテテいた。
高校へ進学して、甲子園を行くんだと意気込んでいたのだが、腰椎
の椎間板ヘルニアの影響で、満足に練習できない日々が多かった。
・・・・・・・・
ある日の帰り道、
いつもの20:24着の電車から佐伯君と私が降りる。
電車の中ではお互いの友達と一緒なので、話すのは、いつも電車を
降りてから。誰もいないホームを歩く佐伯君の足取りは重い・・・
『どう?腰の状態は??』
『・・・まぁまぁかなあ・・・』
『練習できてるの?』
『・・・うん』
・・・・元気の無い佐伯君、、、、
『練習は出来ても、試合には出れないから』
『えっ?』
『レギュラーは、もう無理かなって感じ』
『まだ、夏の大会まで時間があるじゃん』
『後輩の調子がスゴクいいんだ。この前の練習試合でも2本もホー
ムラン打ってたし』
『でも、監督は約束してくれたんでしょ』
『そんな約束、もう忘れてるよ。きっと。雰囲気的に。。。。。』
腰の怪我で満足に練習出来てない時に、佐伯君の野球部の監督が、
<<「腰の状態さえ良くなれば、1打席のチャンスをあげるから、
くさらずに頑張れよ!」>>って言ってくれた。
そのことを嬉しそうに私に話してくれたこともあった。
でも、そのチャンスはなかなか、練習試合でやってこないという。
『でも、最後まで頑張らなきゃ』
私は、こんな言葉で励ます
そんなことしかできないから・・・
『お前の調子は?』
『どうだろ?いい方かな』
私は、県予選で優勝して、全国大会出場を決めていた
『スゴイよなぁ、全国大会にいくんだもんなぁ』
『まぐれが出たんだよ』
『中学の時とは立場が逆転しちゃったな』
『立場って、何?。そんなの関係ないじゃん。そんなことより、今
日も自主トレ、頑張らなきゃ!』
・・・・・・・・
夕食後、
近所の小さな漁港で、二人はそれぞれのトレーニングとなる。
中学の頃に、女の子が一人で港で行くのは危ないからと、私のお母
さんが、佐伯君に頼んで。佐伯君と一緒ならという条件で、夜の自
主トレが始まった。
といっても、銘々が素振りをしたり、防波堤の上を走ったりして、
帰るのもそれぞれ勝手に帰ったり。話しもしないのが、ほとんど。
でも、気づかないうちでも二人一緒にトレーニング
佐伯君が腰の状態が悪いときでも、鉄アレイでの上半身の筋トレで
私に付き合ってくれていた。
私が全国大会に行けたのも、このトレーニングと、そして、それに
付き合ってくれた佐伯君のおかげ。
だから、佐伯君にも最後の夏には頑張って欲しい。
なかなか照れくさくて、そんな思いは言葉に出来ないけれど、、、
、
私が、フォームを確認しながら素振りをしている時、港の岸壁をダ
ッシュしている佐伯君。
確かに、腰の状態はだいぶ良くなってきたみたい。
全力疾走の様子がわかる。
最後の夏、
まだまだ、強いモチベーションを持ってる佐伯君・・・
第2話【梅雨の候】に続く・・・・