妖怪 「酒呑童子」(その27)-片 腕- |         きんぱこ(^^)v  

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  きんぱこ教室、事件簿、小説、評論そして備忘録
      砂坂を這う蟻  たそがれきんのすけ

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酒呑童子(しゅてんどうじ) 大江山の首領。鬼・妖怪と呼ばれる。
虎熊童子 酒呑童子の四天王 (23)「対決」で逃げる
星熊童子 酒呑童子の四天王 (23)「対決」で死ぬ
金熊童子 酒呑童子の四天王 鬼ヶ城で死ぬ
石熊童子 酒呑童子の四天王 (23)「対決」で死ぬ
羅刹童子 酒呑童子の重臣  (23)「対決」で死ぬ
夜叉童子 酒呑童子の重臣  (17)「亀山の怪」で死ぬ
茨木童子 酒呑童子の重臣  若いが力があり副将となる
栗童子   茨木童子の臣   
夕霧   葛城氏の姫。茨木童子の妻になる。鬼ヶ城で死ぬ

源 頼光  清和源氏三代目、摂津源氏の始祖。
渡辺綱   頼光四天王 先祖の源融は『源氏物語』の光源氏
碓井貞光  頼光四天王 別称 平 貞光
卜部季武  頼光四天王 別称 平 季武
坂田金時  頼光四天王 まさかりかついでキンタロウ
安部清明 陰陽師 大江山鬼退治を薦めた
冷泉院  時の天皇。奇行が多く変わった天皇その後上皇
藤原実頼 冷泉院の奇行により関白として摂政

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「うっぎっ、おのれっ」

 渡辺綱は立ち上がって血のついた刀を振り払い、なめし皮を取り出して拭き取った。酒呑童子を退治して以来、その刀は鬼丸と呼ばれた。




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鳥山石燕『今昔百鬼拾遺』の羅城門の鬼。私のイメージとは違います。私は鬼は化けられるのでもっとしっかりした身なりをしているイメージです。皆さんはどんな鬼のイメージを持ちますか。


「ふっふ、鬼でも痛いと見えるの」

「ぐーっ、当たり前だ。おのれ」

「まだやる気かっ」

 はそういって茨木童子に向け殺気を放った。数え切れぬ程人を斬って来た男の殺気は恐ろしい。腰を低く構え、すり足で除々に童子の方へとにじり寄る。肩の力は抜け、顎は引け、目は細く瞳は小さい。一度剣を振り始めると目にも留まらぬ速さで伸びてくる。

「くそっ、お前だけはっ、絶対に許さん」

 茨木童子は切られた片腕を抑えながら、後ろへと飛んだかと思うと、そこにはもう姿は無かった。




1

月岡芳年の羅城門の鬼退治この鬼は怖いですね。戦いのシーンは私のイメージに近いです。


 綱は羅城門に転げた茨木童子の片腕を布に包んで歩き出した。

「しかたない、首ではないがこれでももって帰るとするか」

 

「くそっ、くそっ」

 茨木童子は羅城門の二階へと舞い戻り、失った腕の肘上を藁紐(わらひも)できつく縛った。

(悔しい。悔しいがあの綱という男、恐ろしく強い。あの肝の前で、俺の術が効くだろうか…)


「おーう、帰って来られたか」

 坂田金時渡辺綱を見つけて声をかけた。綱は黙って皆の前に出て血がにじみ出ている布包みを無造作に床に放り投げた。

「ん、なんだこれは」

 坂田は布を剥がして中を調べた。

「なんだ、腕じゃねーか、鬼の腕か」

「そうだ」

「どんな鬼が住んでいた」

「茨木童子」

「いばらきどうじ」

鬼ヶ城で夕霧の首を刎ねてしまった碓井貞光が驚いた。

「その鬼が『いばらきどうじ』と言ったのでござるか」

「いかにもそのとうり」

「して、その童子は」

「逃げよった。生きているやも知れぬし、都の埃となったやもしれぬ」

「最後の鬼であったか」

 卜部が口を挟んだ。

「あれ以来、冷泉上皇は病がピタリと無くなったそうだ」

「安部清明殿のおかげじゃと、上皇の周りの者は喜んでおるようだ」

「清明殿とは、鬼よりも恐ろしい男だ」

「わしは清明殿は好かん。薄気味の悪い方でござる」

「しかし、わしらは上より言われればその通りに動くまでじゃ」

「こんな政治で世の中は続くのかのう」

「このような政治が一番続くのではないか」

「どうしてそう思う」

「殿上人は詩ばかり書いて女は男を見つけることばかり。政治など二の次だ。都の民はそれを見て気を削がす。地方の民は地方の政治で精一杯。要は今の都を越えて新しい世の中を造れる人物がおらんということじゃ」

「武士(もののふ)がすればよい」

「武士(もののふ)に政治(まつりごと)の力が備わればな、しかし、そこまでの人物はおらんな」
「酒呑童子は丹波丹後の地をよく纏めておったな」

「そうだ、やつは鬼とは呼ばれておったが、武士(もののふ)であったな」

「政治が出来る武士が出てくるとしたら、丹波丹後の地からくるのかもしれんな」(注)

「これでよかったのかのう」

「わしらはわしらの仕事をやってゆけばよいのだ」


 茨木童子羅城門の二階を出た。茨木童子にはいつも子分の栗童子がいた。栗童子は渡辺綱の後を追い居場所を茨木童子に知らせた。

「栗童子、お前は俺よりも若い。生き延びて世の中を見届けよ」

「一人で行きなさるか、俺もついてゆく」

「死ぬかもしれんぞ」

「生きていても張りがない、足手まといにはならんから、一緒に行かせてくれ」

「わかった、では頼みがある。明日までに渡辺綱の素性を調べ、老婆など化けるのに使えそうな者がおるかどうか探してくれ。俺は俺の腕を取り返しに行く。」

「それなら、すぐにわかるだろう。腕が腐らぬ内に、さっそく行ってくる」

「すまぬが頼む」


栗童子は羅城門から蚤が跳ぶように街中に消えていった。


【続く】

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注 後年 足利尊氏が丹波から出て政治を変えた。