「おまえら、そこに並べ!」
三年生のキャプテンをやっているヤマさんが言った。
「おい、こら!、どこ行ってた」
ヤマさんは更衣室の中で我々を一列に並べた。
バスケットボールをチェストパスの要領で、至近距離から並んで立たされている我々四人の顔めがけて順番にゴンゴンと当てて来た。
バスケットボールは結構重い。
ゴンゴンとやられると頭がくらくらしてくる。
「おい、イチ。どうなんや」
「おう、ジュン・・・・カズ・・・・ヒョロ」
ヒョロとは俺のことだ。ひょろ長いからヒョロと呼ばれて気が悪い。
私は答えた。
「はい、女子更衣室まで・・偵察に行ってきました。」
「なんやとー・・・・」
「なにー」
周りにいた三年の連中が色めき立った。
しかし、怒った顔をしているが、どこかおかしかった。
「それで・・・、どうやったんや?」
「どうって・・・・・だれも・・いませんでした」
「ほんまやなぁ」
「うそつくなよ」
「にやけた顔して降りてきたやないか」
またヤマさんがボールをゴンゴンぶつけてきた。
(ちくしょー、いつかぶち殺してやる・・・)
この気持ち、わかるでしょうか・・・・。
「どうなんや、ホンマのこといわんかい、え、ヒョロ」
「ほんまです。行くだけでもスリルがあってドキドキしてました。」
「こらー!。お前ら、何やったかわかっとんのかー」
「そやそやー」
「ほんまにー」
「なにやっとんねー」
「・・・・・」
「ジュン、お前が先頭やったんやな」
「はい」
「ジュン、今から俺らを案内せー」
「えっ?」
「案内せーよ」
「ホンマに・・・案内せー」
「・・・・はい、わかりました。」
「ヒロとイチとカズは更衣室で誰も来んように見張っとけ」
「返事はー!!!!」
「はい・・・・」
(ほら、やっぱり)
予想通り、先輩方は見に行く気だった。
我々は先輩7人が加わって、とうとうオーシャンズ11になった。
悪乗りとはこういうことだろう。
私はジュンに(イクナ!)と目配せした。
ジュンは察したみたいだった。
私と同じ思いだったのだろう。
ジュンはとりあえず天井に登った。
先輩は順番にニタニタしながら登ってゆく。
天井裏で、ジュンは小声で先頭のヤマさんに言った。
「静かにお願いします。沢山行って天井が抜けたらやばいんで、私はここで合図役をしますから」
「あそこやな、よし、ここで何かあったら合図せー」
かくして7人の先輩はゾロゾロと天井の梁(はり)をしゃくとり虫のように進みだした。
我々は更衣室の裏側のドアロックを外しておいた。
そしてジュンに
「降りろ」
と言った。
ジュンもすぐに降りてきた。
かくしてオーシャンズ11は直ぐに瓦解した。
先輩達が女子更衣室の上まで来たころに、女子が練習を終えて更衣室にぞろぞろと戻ってきた。
「キャー」
だれかの悲鳴が聞こえた。
天井から、ゴトゴト・・・・バリッ。
と音がした。
体育館から
「ダレヤァー、その足ー」
と先生の声がした。
「あほっ・・・・おい、逃げろ!」
我々は、裏のドアから一目散に逃げた。
逃げて逃げて、学校の裏口から正門横の駄菓子屋のおばあちゃんの部屋の中にどこどこ入って卓袱台に並んで座った。
「どないしたんや、えらい慌てて」
「なんでもないねん。」
「また、なんぞ悪さでもして逃げてきたんかいな」
「またーって・・・・・おばあちゃん、コーラもらうわな」
「はいはい、おおきにテレビでもつけたるわ」
先輩達は、更衣室まで逃げ戻った時に下にいた先生に捕まったようだ。
(ざまーみろ!)
その後、先輩達は、職員室に呼び出されこっぴどく説教されたらしい。
先輩は我々のことは隠してくれた。
それで、先輩を見直した。
しかし、練習では、このことがあってからけっこういびられた。
「お前らは、一回でも巻けたら丸坊主にせえ」
(いつか負けるじゃないか・・・先輩なんか一杯負けてるくせに・・・)
結局県大会のあと丸坊主になった。
学校の近所にある床屋さんにずらっとならんでバリカンで刈られた。
床屋のおっさんは一度に12人を相手にして、大喜び。
俺なんか頭の右半分だけつるっぱげに刈っておいて、そのまま放ったらかされて隣のカズの頭を剃りだすんだから。
「ちゃんとそってーなぁ! ・・・ うっ・・プッ!」
「おまえら、そのまま明日学校にいったらどーや」
「そんなん、あかんでぇ、ちゃんとやってーなぁー」
「ぎゃはははは」
「あほー、おまえももうすぐなるんじゃぁ」
鏡越しに自分で自分の頭を見て吹き出したのは後にも先にもこのときしかなかった。
でもいいさ。
俺達の学年はチームワークが取れていた。
府大会では3位だったけど、市内では負け知らずだった。
2年全部で12人。
俺達はオーシャンズ12だ。
(反響を見たいだけなのでジャンルは気にしないでください)