最後の直線で4番人気馬と1番人気馬の差は
20mほどあったろう。
それが、ゴールラインで鼻差。
こういうケースはたくさんある。
このあたりに、競馬騎手のプロとしての非凡な感性を感じる。
馬の脚色を計って、ゴールまでの距離を瞬時に計算する。
そして、馬の脚と自分を信じて必死で追い続ける。
普通なら・・・三流騎手や素人なら、
先頭の馬との差を見て諦めるだろう。
馬も最後の100mは限界を超えている。どう走るかわからない。
必死でハミ(馬の口に通す紐。馬はこれをぐっと噛んで歯を食いしばって走る)
を噛んで大きな鼻で息をしながら走る。
ハミは騎手の手綱に連動していて、騎手はハミがきれいにしっかりと
噛めるように何度もかけ直す。
ハミを噛ませて、手綱を引く。
直線で引いていた手綱をぱっと緩める。
すると、馬は本能的にハミを噛んで首を下げて前に全速で走り出す。
騎手は鞭で馬の気迫が萎えないように叩きながら
馬の走りにあわせて、自分の腰も前に振りながら乗る。
馬の走りにあわせて、腰を振って推進力を出させる。
腰を振る騎乗。
この乗り方は、JRA騎手より地方競馬の騎手のほうが上手い人が多い。
地方競馬に来る馬は、JRAの払い下げだ。
思うように走らないから騎手は腰を振るのだろう。
リーディングの岳なんかは、腰を振る乗り方はしない。
屋根(馬の背中)に乗る人間の負担を軽くする乗り方をする。
地方からJRAに昇格した岩口や大牧騎手などは腰を振って
馬の推進力を上げる乗り方だ。
前半に最後方で脚を溜めて、後半にものすごい脚を使う乗り方がある。
岳騎手が得意だ。
何度見ても、計ったようにゴール前で差しきるケースが多い。
良く、若手騎手が真似をする。
しかし、よほど馬が良くない限り、岳騎手の真似など出来ない。
この騎乗は、出来るだけ屋根の負担を軽くする乗り方でないと難しい。
これに対し、地方から来た岩口騎手。
馬を追うのがとても上手い騎手だ。
腰を使った騎乗を得意とする。
無茶な乗り方はしない。
後方から追い込む乗り方はまずしない。
腰を使った乗り方は、推進力が上がり馬に加速がつく。
しかし、負担もかかる。
瞬発力は上がるが、長くいい脚は使えないことになる。
騎手も当然わかっていて、ほとんどが真ん中後方から先頭
までの間で脚を溜めて、チャンスで腰を使う乗り方だ。
最後方から乗る騎乗はまずしない。
残りのレースは11,12レースで3場開催なので6レース。
体は疲れきっていた。
あと6レースでなんとかしなければ・・・
やめると言う意識がない。
新聞とペンを持って馬券を買うため、重い腰を上げた。