ギャンブル小説「とったらんかい!」--病気-- |         きんぱこ(^^)v  

        きんぱこ(^^)v  

  きんぱこ教室、事件簿、小説、評論そして備忘録
      砂坂を這う蟻  たそがれきんのすけ

生まれて始めての病気らしい病気だった。


以前、腰痛はあった。それがきっかけで好きなスポーツも断念した。


しかし、腰痛は背骨の軟骨がじん帯を破って外に出ただけに過ぎない。


今回の場合は、ショックだった。


心の準備をしたはずなのに受けるショックは大きい。


最初は夏ばてかと思っていた。


次に風邪だと思っていた。


風邪が元で、過労が重なっての急性肝炎も想定内だった。


まさか、突然糖尿病になるとは・・・・・・、予想の域を張るかに超えた現実だった。


糖尿病は、なにも症状が無いから恐ろしい。


それじゃあいいじゃないか・・・・・・そんなことは無い。


今後、どんな病気をしても糖尿病が原因と判断される。

要するに腐っていく病気だから、体のどこに問題が出てもそうとられる。


生命保険は入れない。入れても掛け金が高い。貯金していくほうがましだ。


マンションをローンで購入することは出来ない。(生命保険に入れないから)

視力は落ちてくる、突然失明してもなにも不思議ではない。


セックスが出来なくなっても不思議ではない。

味覚がなくなってくる。味が灰を食べているように、何を食べても同じ味になる。

おいしいと思う感覚が無くなるのは辛かった。

とにかく、急に生きる自由と楽しみを制限されたことになる。


退院の時に、血糖値がなんとか200台にまで下がった。


足の斑点は嘘のように消えた。


しかしγーGPT,GPT,GOT、血糖値、高コレステロール(これは家系)、


全て正常値の3倍以上あった。


見た目は凛々しい・・・(笑)が、中身がぼろぼろだ。


看護婦に言われた。


「これからは、自分で注射してくださいねぇー、今から練習ですよぉー」


(簡単に言うな!・・・見るだけでも嫌なのに・・・・・)


看護婦から、「ヒト インスリン・・・」とかかれた小さなビンと細いスケルトンで一部が赤い注射器を渡された。


初めて見るインスリンと初めて自分で触る注射器をじっと見ていた。


インスリンのビンは高さが2,3センチ程度のもの。上部にはゴムに蓋が付いていた。


そこに注射針を刺して、吸い込むのだろう・・・。


注射針はといえば、現在は、ちょうど文房具屋でペンタイプの消しゴムを売っているが、それに良く似た太さで中にインスリンが入っている。


先端に針だけを差し替えて使う。


しかし、当時は使い捨ての注射器だった。


「そしたら注射器をインスリンに差して、目盛りが30のところまで吸い込んでくださいねぇ」


私は黙って言われたとおりにした。


「注射はお腹か太ももの脂肪の厚いところにうつんですよぉ。打ってみて下さいね。」


ニコニコして言う看護婦に、


(簡単に言うなっちゅーねん!)


目で、にらみ返した。


シャツを上げ、お腹を出した。


人並み、歳並に脂肪はある。


お腹をつまみ、針をゆっくり近づけた。


針が刺さるほんの手前で手が震えてきた。


振るえは大きくなり、差すのを断念した。


「看護士さん、俺無理やわ。」


「だめですよぉ、自分でやってもらわないと、それとも毎日朝晩病院にきますかぁ?」


「・・・・そっ・・・・そうしようかなぁ・・・・・」


急に看護士が怒ったように・・


「毎日そんなこと出来るわけ無いじゃないですか、ちゃんと刺して下さい」


(こいつめ、俺になんか恨みでもあんのか?畜生・・・・・)


震える手をなんとかなだめて、・・・・突き刺した。


・・・・・痛くなかった。


(脂肪だから、鈍いんだな・・)


液体を注入した。 


体は緊張でがちがちに力が入っていた。


冷たい液体が脂肪の中で溜まっていくのが解った。


(これを・・・・毎日するのか・・・・・)


急性肝炎でがっくり、糖尿病と聞いてがっくり、毎日注射と聞いてがっくり来た。


急に、私の脳裏に浮かんでいた夢の光景が白いベールに覆われてしまった。

もう、仕事も全力疾走できないのか・・・、女もそのうちだめになるか・・・

俺って、所詮こんなものだったか・・もうちょっとやれると思ったけどなぁ・・・・・。

日に日に、少しずつ、ショックが大きくなってくる気がする。


病院を出た。


肝機能も回復していないし、運動不足もあって、歩くスピードが普段の2倍遅くなっていた。


歩いていると、急に周りの景色や風景が良く目に付くようになった。


ゴミ箱をあさろうとする猫、剥げた壁、木の上で賑やかに囀るスズメ。・・・・


医者の診断の結果は、


「インスリン依存型糖尿病ですな・・・」


死ぬまでインスリンを打ち続けなければならなかった。