
橋本治さんが亡くなった。
2008年別府大学に赴任した時の一番のストレス案件が、「マンガ概論」の講義だった。他の実技系の演習科目は課題を工夫してなんとか形にできそうに思えたが、《概論》の90分の講義は何を話して良いのやら…途方に暮れていた。僕は一般のマンガをあまり読んだ経験がなく、「面白い!」と思った作品も数少なかった。著名な『あしたのジョー』も、ラストシーンを見たくらいで、読んだことはなかった。(今も読んでいない)興味のあるマンガ家(?)といえば、谷内六郎だったり、梅田英俊だったり、秋竜山、山松ゆうきち、田中八郎、勝川克志、はたまたレッド・グルームス(Red Grooms)とか…〝普通のマンガ〟ではなかった。
そんな時に巡り合ったのが、橋本治さんの『ひらがな日本美術史』だった。どうしてその本が手元にあったのか…記憶にない。でも、その中に書かれていた、仏像や絵巻物や屏風絵や神社や仏閣や、ともかく〝そんなようなもの〟に対する見方を教えられた時、「こういう視点でマンガを考えれば、僕でも概論を語れるかもしれない」という気持ちになった。そして僕が考えたマンガ概論のスタンスは《日本人は絵で何を伝えてきたか》だった。絵巻物があり、○○草子があり、江戸の浮世絵があり、明治のポンチ絵があり、その流れの先に手塚治虫が現れ、劇画が登場し、少女マンガも生まれてくる…そういうストーリーだ。そして1年目の15コマをなんとか凌ぎ、毎年少しずつ内容を充実させていった。
橋本治さんは大恩人なのだ。心から感謝の気持ちを捧げたい。