杉本一文画

表紙画というは、本を購入する際の大きな手懸りである。

僕は、かの横溝正史氏が世に送り出した日本を代表する探偵“金田一耕介”が大好き。
その割に、彼の小説を読んだのは『迷路荘の惨劇』の唯(ただ)一冊だけ。後は、全部映像を通じて、この探偵と付き合ってきた。

彼の登場する小説を買わなかった理由。
それは単に文庫本の表紙が「グロ」かった。当時、角川文庫から発売されていた横溝正史小説の表紙画は、かの杉本一文(いちぶん)氏によって描かれていた。氏は銅版画家としても知られ、海外でも高い評価を受けている。

角川文庫は映画と小説を併せてプロモーションし、70年代の新しい宣伝展開の草分けだった。「観てから読むか、読んでから観るか」というコピーは、コンテンツへの新しい接し方を提案した秀作だと思う。この手法によって、金田一耕介という存在は一気に多くの人々の知るところとなった、ご多分に漏れず、僕もその一人だったのだが。

しかし、この杉本氏のイラストの所為で結局「観ただけでおしまい」。(読みたかったが、本が手に取れなかった)
流行に敏感な御袋が結構、この時期角川文庫の横溝作品を購入していたのだが、僕はその本の仕舞ってある本棚に絶対に近寄らなかったし、強烈にその本の処分を訴えたものだ。

画像は杉本氏のイラストを使った横溝作品『悪魔か来たりて笛を吹く』の表紙。何か、その本を身近に置くことで“不吉なことが起こる”ような気がした。これは、霊的なモノというより、“人間のドス黒さ”“底の知れない恐怖”のようなもの。氏のイラストは構図といい、その“艶”と陰影といい、大人の「好奇心」を醸成するのにはマッチしていた。



“怖い本”というネタでもうひとつのエピソード。

大学時代、友人から一冊の心霊関連の文庫を借りた。
タイトルは忘れてしまったのだけど、“小田急線豪徳寺駅の三姉妹幽霊”の話が収録されていた。その頃、僕は同沿線の経堂(豪徳寺駅の隣駅)に住んでいたことも有り、それをネタに強制的に貸し付けられたのだが・・・。
新品というより、購入して10年は経過しているような感じで、表紙の絵も良く覚えていない。

その文庫本を部屋に置いた日以来、連日悪夢にうなされ続けた。身体全体に得体の知れない重さを感じ、深夜何度も目が覚める。そして朝目が覚めると、異常なほどの寝汗をかいていた。


結局、半分も読まずに引き取らせた。


後日その話を持ち主にしたら、「やっぱり・・・」という。僕を被験者にして、そういう実験をするんじゃないよ。結局、彼も口では、「売り払う」と言ってたけど、結構、この手のネタが昔から好きなヤツなんだよね…