闘病生活が始まって3日目、この日は日曜日だったのでケー君の新しいパジャマを買って、午後から家族で病院へ向かうことにしました。
病院に到着すると、水頭症を少しでも緩和するため投薬(グリセオール)が行われていて、薬が効いているのか頭痛も和らいでいるようでした。
ケー君
今日は2日ぶりにヒーちゃん(妹)に会えるから楽しみにしてた!
大好きな妹に会えるのが待ち遠しかったのか、病室に入るなり元気な声で話しかけてくれました。
そんな普段取りのケー君を見て、車椅子に乗って院内のテラスで過ごそうと思ったのですが・・・身体を起こして車椅子に移動するケー君に愕然としました。
身体を起こすのも誰かの介添えが必要で、一人では立ち上がることも出来ず、車椅子に乗るのもやっとのことだったのです。
1週間前まで一人で、塾に通って高校受験の準備をしていた我が子の急激な変化を見て・・・
こんなにも衰えるモノなの・・・
不安を感じる親とは反対に、ケー君自身は家族みんなで過ごせる時間をの楽しみにしていました。
2日ぶりに家族が揃う
力の入らない身体で妹に手を伸ばすケー君
力も入らず手足に若干の震えもあるケー君を車椅子に乗せて、大好きな妹ヒィーちゃんが待つテラスへ到着。
2日ぶりの妹の顔をハニカミながら「かわいいなぁ」と呟くケー君、親の後ろに隠れようとするヒィーちゃんに、力の入らない身体で必死に手を伸ばしハグをしようとするケー君。
文章にすると微笑ましい兄弟の姿が思い浮かびますが、実際には変わり果てた兄に戸惑い親の後ろで怯える妹の姿は、普段の仲良し兄弟を知る我々親にとっては地獄のような光景でした。
突然のてんかん発作に恐怖する
2日ぶりに家族全員が揃った時間でしたが、たった10分ほどでケー君は “病室で横になりたい” と疲れた様子だったので、ヒィーちゃんに別れを告げ(ヒィーちゃんは親族と自宅へ)私と奥さんは再び車椅子を押して病室に戻りました。
病室に戻る途中、ケー君が小さな声で一言・・・
ケー君
楽しかったなぁ・・・
そんなケー君の呟きに「そうやな。楽しかったな・・・」と答えようとした途端・・・ケー君は突然車椅子の上で身体をのけ反らせ白目をむいて激しく痙攣し始めました!!
ケー君
・・・
ケー君!!ケー君!!
あまりの突然の出来事に、ただ名前を呼び続けるしか出来なかった私ですが、奥さんがナースコールを押してくれたので、急いで駆けつけてくれた看護師さん達に対応を任せ、私たちは病室の外で待つことにしました。
複数の看護師さんにベッドへ移され、なされるがままのケー君を呆然と眺めながら・・・
私
ケー君!!今日でお別れなんか!?
勝手に最悪の状況ばかり考えていました。ただ数分後には、看護師さん達も処置を終えたようなので、恐る恐る事情を聴くと・・・
看護師
大丈夫!!
”てんかん発作”で今は意識もはっきりしています。念の為CTを撮りますからね。
と言われたが、”てんかん発作かぁ“ と胸を撫でおろすワケもなく、相変わらずうろたえている私を見て、奥さんは「大丈夫!大丈夫だから!」と手を握ってくれました。
てんかん発作とは、脳内の異常な電気活動による行動、運動、または意識の突然の変化のことの総称です。
緊急手術へ
普段おっとりしている奥さんの ”頼もしさ” に驚いていると、ケー君のCTを撮り終えた医師が報告に来てくれて・・・
医師
少し水頭症が悪化していて、急遽手術することになりました。ケー君は病室に戻っているので側についてあげてください。
病室に戻ったケー君は、自分の身に起きた突然のことに疲れたのか寝息を立てながら眠っていました。
ケー君のいつも通りの寝顔と看護師さん達に「お父さん大丈夫だからね!!」と声をかけられ、ようやく落ち着きを取り戻しました。
本来の予定では週明けに水頭症の手術をする予定でしたが、水頭症が悪化したということもあり緊急手術となりました。このとき既に21時を回っていたと思います。
暗闇
緊急手術の内容は、脳腫瘍で塞がった水の通り道を新たに作る「第三脳室底開窓術」という手術を行い、その際に生検のために腫瘍の一部を切り取るということが説明されました。
第三脳室底開窓術とは、内視鏡で見ながら第三脳室の底面に穴をあけて、脳室内の髄液が流れるようにして、水頭症の治療をする方法です。
医師からは「比較的簡単な手術なので、手術自体は2時間ほどで終わる」と伝えられましたが、手術が終わって再びケー君に会えたのは3時間近く経過してからでした。その時の時刻は深夜0時30分、病院の窓から見える外は暗闇でした。
機械に生かされている我が子
手術が終わり、救急や脳卒中専門の集中治療室に案内されたのですが、時間的にも病室は暗く、”シュコーシュコー” ”ピッピッ”といった不気味な機械音だけが響いていました。
ケー君の病室に案内されると、頭部を包帯で巻かれ頭から足まで、様々なコードに繋がれたケー君が遠目に見えました。
”シュコーシュコー” という機会音に合わせて、胸が膨らむケー君は、まさに”機械に生かされている状態”で、そんな変わり果てたケー君を見て、情けないことにその場に座り込んでしまい、看護師さんに支えられながら病室の隅の椅子に座らしてもらいました。
一方で奥さんはスグにケー君の手を握り、涙ながらに「よく頑張ったね!」と何度も声をかけていて、母親の偉大さ強さを痛感した瞬間でした。
水頭症の手術は成功したが・・・
手術をしてくださった先生が遅れてやってきて、実際に見た腫瘍の状態を説明してくれたのですが・・・
医師
水頭症の手術自体は上手くいきましたが、腫瘍は他の組織に食い込んでいて(浸潤)少し引っ張ると、出血するような状態でした。さらに別の部分にも腫瘍らしきものが見えたので播種していると思います。
今後、強度の強い治療が必要になります。
とにかく全て悪い事ばかりが報告されましたが、治療が出来ないワケじゃないことに無理矢理希望を持つことにしました。
全ての説明を聞いた後、ケー君を残して帰ることに後ろ髪を引かれる思いでしたが、病室を出た頃には深夜2時を回っていて、普段は外来患者さんで溢れている待合は暗く、駐車場へ続く病院の長い通路は、これから始まるケー君の辛い闘病生活のように先の見えない暗闇でした。








