銀時を襲ってから2週間、まだ隙あらば押し倒そうとは思ったが上手くはいかない。

殴るわ蹴るわ投げ飛ばすわで…、最初の頃からだったけどこいつ結構力強いよな。
あの木刀で床壊してるし…後で妹に怒られたそうだが。


そんなやつは優雅にリビングでテレビを聞いている。
俺にデザートを作らせておいて…


「(くそ、なんで俺がこんなことせにゃならんのだ…)」

「あ、トシぃー。もっとシロップかけといてねー、ぜってーかけなさそうだし、お前」

「(犬にこんなことやらすな!つか糖尿病になっぞ!!!)」

「いーんだよ別に!」

「(何でこーゆー時だけ分かんだよ!)」


だが…やっとこさこいつが名前で呼び始めてくれた…。
それがちょっとこそばゆいが…嬉しいし心地いい。


「でも、お兄ちゃん。トシさんの言う通りもうちょっと甘いもの控えないとだめだって、お医者さんにも言われてたじゃないですか」


妹の皐は俺の横で「生クリーム」というものを泡立てている。
シロップをかけることは口で出来るが、流石に犬の俺は道具を使えない。
銀時に強引に押し付けられたのもあるが、俺は妹の手伝いだと思ってしている。

つーか…妹もなんで俺の言ったこと分かったんだ。
この兄妹には謎が多すぎる・・・。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「じゃーん、皐特製ジャンボ宇治金時パフェでーす!生クリームの変わりにアイス乗せたから…甘いものはこれで我慢してくださいっ!」

「ん、わりーなぁ皐」

「ううん、私も結構勉強になってます。お礼言いたいのはこっちですよお兄ちゃん」

「…んんっ!んめぇ!!!ホントはもうちょっと甘くしてほしいけど…これでも結構イケる。ありがとな」

「へへ…あ、じゃあ私支度してきますね!」


頭を撫でられて嬉しそうな妹、ちょっと羨ましかった。
妹はこれから高杉に呼ばれて出かけるらしく、リビングを出て行った。


「…ワン(なぁ)」

「ん?なんだよトシ、あ、あげねーからな」


大事そうに特製パフェを抱きかかえる銀時、いやいらねぇから。
甘いもん苦手だし、食えないし。

しかし、こいつが甘いものを食べてる顔を見るのは嫌いではない。
なんか可愛いし、ガキっぽいけど。


「(また口にクリームつけてるし)」


俺は銀時の膝に前足をつき、首を伸ばして口の端についてるクリームを取った。


ペロ…


「(…甘)」

「…ッくんの…エロ犬!!!」


ガンッ!!!





…殴られた…。
だけど…いいや、満足。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「お前というやつはァア!まだ懲りねぇようだな!」

「オ、オゥン…(ぐえぇぇ…ぐ、ぐるじい…)」


う、後ろからキめるなんて卑怯だぞ…ぐえ


「フフ、すっごく仲良くなってますね。2人とも」

「お、皐」

「じゃあ私出かけてきますね、帰るのは夕方くらいだから…
あ、晩御飯は作ってるので、トシさん。よろしくね」


最近銀時に飯のあるところなんかを教えることとか、盲導犬以外に俺の仕事になっている。


「ワンッ(任せろ)」

「じゃあ行って来ます」

「おーう、デート楽しんでこいよー」

「は、はぁ!?な、何言ってんですかお兄ちゃん!!!そ、そんな…ッででででデートだなんて…き、きゃああ!!!」


ガッシャーン!!、と玄関から大きな音が聞こえた。


「だ、大丈夫か!?皐!!!」

「あ、あははは…大丈夫です…い、いってきま~す…」


へらへらと手を振って玄関の扉を閉めた…。
だ、大丈夫なんだろうか…。


「やー…とうとうあいつが誘うようになるとはなぁ…」

「ワフ?(ん?なんのことだ)」

「お前もあいつのノロケ…れてはねーけど、聞いてるだろ?高杉だよ」

「(嗚呼…あいつか、好きだって言ってたもんな)」

「…しっかし、可哀相だよなー」

「?」

「あれだけ猛アプローチしてるけど、気づかれてないんだぜ?」



…高杉のやつも、大丈夫なんだろうか…




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「あんまりに気づかれてないもんだからあいつも焦ってるみたいでさ、
傍にいてほしいと思ってなんとか自分の病院に来させようとして…

『こっちの方が給料いいぞっ…!』

とか言ったりしてアタックしてるってヅラに聞いたな」

「(必死だな…)」

「だからあいつよく皐の働いてる病院にいるんだぜ」

「(んでその度に俺が呼ばれてノロケ話し聞かされるんだよな…、好きだってハッキリ言っちまえばいいのに…)」


あいつが妹と会った次の日には呼び出されて色々なことを聞かされる、明日も多分呼ばれるんだろうな…
俺は軽くため息をついた。いい加減くっつけばいいのに


「ん?どーしたトシ、腹減ったからさっさとご飯食べるぞ」

「…ワンッ(お、おう…)」


銀時の手を頭に乗せキッチンへと向かう。
家の中では手をひっぱる必要がないからな、だけどなんでハーネスを外さないのか…いつも疑問に思ってる。



キッチンに置いてある手料理に銀時の手を持ってやる、何回か手で払いのけてシンクに落としたりとしてしまったことがあるらしい。
今日はサンドイッチらしい、牛乳もいるか…?


「トシ、いちご牛乳とって」

「ワン(犬にんなこと頼むな、つーかコーヒー牛乳しかねぇ)」

「なんだと!?くっそ…俺の至福の時が…、まぁいいや…コーヒー牛乳でも」

「ガウ(だからとれねぇって、前足こんなだぞ。滑り落ちるわ)」

「口で取ればいいじゃねーか、俺だったら気にしねぇから」

「ワウ…ワワン(口か…ってなんでまた俺の言ってることわかんだよてめぇは)」


だがもう銀時は聞いてないようでコップを手にとり机に置いていた
俺はサトラレかなんかか?なんで人間に言葉が聞こえるんだ。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「おい、早くコーヒー牛乳よこせって……トシ?」


口からコーヒー牛乳を取られても反応がなかったのか、手を頭に置き様子を伺う銀時。
ホント、なんでわかるんだ…そりゃ伝わるってのは嬉しいけど…大事なことまで伝わらなきゃ、意味ねーんじゃねーのか…。


「?…トーシ」

「!!!」


いきなり正面から抱きついてきた銀時、な…なななななあああ!?


「前から思ってたけどよ、お前って毛並みいいよな。触っただけでお前って分かる…
いいよなーまっすぐで、ストレート俺に残して死ネ☆」


なんかさり気に酷いこと言われたが…こいつ忘れてるのか?
2週間前に俺がお前を襲ったこと…

そりゃ…据え膳食わぬはなんとやら、だろう…!!!
俺だって男、いやいや雄だ!!!健全なる!!!


ガバッ!!!


「だーーー!!!やめんかーーー!盛ってんじゃねーぞバカ犬ゥゥウ!!!」

「ガウッ!!!(お前が無防備に抱きつくからだろ、ヤラセロー!フガー!!!)」

「(っく…!!!このままじゃ分が悪すぎる…!)こ、これでも…くらえェェエ!!!」


ガァアン!!!


「キャンッ!!!」


頭に何か堅いものが当たった、というか殴られた。
銀時の手に持ってる…それはまさしく…


「クゥン…(おま…ふ、フライパンは…反則…だ、ろ…)」

「不満そうな声だすな!!!てめェがやめねーからだろうが!!!」


くそう…どーしたらいいんだ…
時間が立てば立つほどに、大きくなる。



どうすれば伝わる?



俺がお前を好きな気持ち




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


銀時が俺を押しのけようとしたのでちょっとふんばってみた。
地面を後ろ足でカリカリ蹴りながら、銀時の胸に頭を押し付けようと試みた。


「ぅ…く……どぅああああああ!!!もう!!!うぜェんだよ!なんだよ!ちょっとどけっての!!!」


ぐぐぐ…と力の限り頭を押され体を離される。
ちょ…頭割れる割れる…!!!


「あのなぁ…!俺は男で人間なの。どー見ても。俺が犬に見えるか?
お前が発情期かどうかは知らんが…発情したら相手は雌犬だろーが、ヤんならそっちにしろ。
たくっ、お前も盲導犬だろ、性衝動くらいは抑えろってんだ…」


そうブツクサ言って銀時は机で飯を食べ始めた。


…んなことはわかってる、俺が犬で、銀時は人間。
人間が人間を、犬が犬を求めるのはわかってる。








俺にだって、わからねぇんだよ。








どうしてお前なのか







だけど…







お前じゃなきゃだめなんだ…。






お前がいいんだ。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



俺は昔…まだ小さかったが、人間の女に恋をしていた。




瀕死だった子犬の俺を、必死に盲導犬の卵として育ててくれた女…。






でも、彼女には夫がいて…






叶わぬ恋だと承知していた。



ま、犬だし…な。







それでも俺は、彼女に恋をしていた。




俺が成長するにつれて、その気持ちも大きく成長した。




だが、あいつの傍らにはいつも笑顔で優しそうな夫…お似合いだった…。




何度夫の喉笛を咬もうとしたか…、だけどあいつは笑顔じゃなくなる。





お前の笑ってる顔が好きだった。





お前が優しく「トシさん」と呼ぶ声が好きだった。





お前が…






俺は…






お前が、好きだった。





別れの時、手を振って笑顔でいたお前が、好きだ。









あれが恋じゃなかったら…

この気持ちは何なんだろうか。



教えてくれ…





銀時。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


銀時には悪いけど、あの気持ちが嘘だったってことにはしたくねぇ。

勿論、この気持ちだって…



愛した女を面影を、綺麗な笑顔を思い出して、涙が出そうになった。
スンと鼻を鳴らし、袖で目を擦り、銀時に手を伸ばして…軽くだが、頬にキスをした。


すぐ傍に顔があったのに、唇にしなかったのは




多分、これ以上拒まれたくなかったからだと思う。




唇を離すと俺は銀時の手を取り、椅子に座らせた。
一度だけ腕に頭を摺り寄せ、こいつの足元で食事を終えるのを待った。




「(…ん、なんか…邪気がなかったぞ、さっきのチュー…
襲ってきたり、大人しくなったり…変なやつ…)」



銀時は頬をさすって、妹が作った昼飯を食べた。
カチャカチャと食器が鳴る音が心地いい、でも頭いてぇな…思いっきりやりやがって…






うとうとと、初夏の匂いが漂う涼しい風を受けて寝てしまった。
銀時も飯を食った後寝てしまったらしく、妹に起こされたときはもう深夜を回っていた。




こういう日もいいかもしれない。





銀時と喧嘩したり、触れることができたり、そんな時間が長続きすればいいなと思った。





いるかいねぇかわかりもしねぇ神様が、俺の願いを聞いてくれたのは、もう少し経ってからのことだった…。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「よぉ、皐ぃ~。また高杉とデートか?お熱いねぇ」

「なっ!で、デートじゃないですってば!!!んも~ッ、変なこと言わないで下さいお兄ちゃん!!!」




(まーたからかってる…)



最近、妹がよく高杉と出かけるようになった。
この間あいつから聞いた話では、「もうすぐ俺の誕生日だからさ、あいつと一緒に別荘…とか行きたいわけよ」とか言ってた。
ニヤニヤデレデレしながら…、ご苦労なこった。


まぁ、銀時と二人きりでいられる時間が出来て嬉しいけど。
しかし頻繁になったもんだ。
高杉は妹の休日をバッチリ把握してるらしい、最早ストーカーだな。


ストーカーとか、なんか色々言葉を覚えたのはテレビのせいであったり、やつにまとわりついているというストーカーのせいでもある。
俺がやつを気になる前から、銀時に猛烈アタックしている女がいるらしい…渡さねぇからな。


あいつも結構モテるんだな、とか思っていたら電話が鳴った。
皐はまだ赤い顔を手で覚まして、受話器を取る。


「は、はい坂田でございま…あ、桂さん?
はい、…え、今日ですか?今日は私は出かけますけど…高杉さんから?
そうなんですか、…はい、お兄ちゃんとトシさんでお留守番です。
…本当ですか?助かります!はいっ、はい、では御願いしますね」

「ヅラ、なんだって?」

「今日お昼くらいに家に来るんですって、なんかお土産を持ってきてくれるそうで…ちゃんとお礼言ってくださいね?」

「へー、ヅラが…スイカかな」

「それだったら先に二人で食べてかまいませんよ」

「いや、こういうのって家族で食うから旨いんだろ?冷やして待ってるからさ」

「お兄ちゃん…」



銀時は妹のこととなると、本当に優しい顔をする。
大切にしてるなぁって思う。
兄弟ってこういうのもなんだなと、いつも…。



ピンポーン



俺の思考を遮って、チャイムの音が家中に広がった。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



玄関には高杉がいた。


「迎えに来たぞ」

「あ、高杉さん。じゃあお兄ちゃん、トシさん行ってきます」


妹は銀時の手を取って言った。


「んじゃ、皐借りてくぜ。銀時」

「変なことすんなよ、高杉」

「へ、変なことってなんだよ…。皐の前でそういうこと言うと防備堅くなんだろっ…!」

「それが目的で言ってるんだけどォ?」

「…すっげぇ腹立つわおめェ…」


俺の頭を撫ででる皐の横で高杉と銀時がメンチを切っている。
いや、銀時は眉間にシワ寄せてるようにしか見えないけど、メンチ切ってるんだ、やつなりに。
それにしても随分俺に慣れたな、妹は。




…もしかして高杉の野郎それが狙いで俺のこと支援してたんじゃ?


「そろそろ行かねーか?」

「あ、ハイ。もう行くね、お兄ちゃん」

「ん、楽しんでこいよ」


ニコッと微笑んだ銀時。
それを見た俺は、…なんかたまらなくなって抱きついた。


抱きついても銀時は何も言わない。
結構慣れたもんだ。


こうやって妹の前で抱きついても殴らない。(以前は気持ち悪いとか言われて、照れ隠しで殴られてた
毎日してたからかな。


「フフ、じゃあ行ってきますね」

「(おう、家と銀時は任せとけ)」








安心して行ってこい、こいつは俺が守るから。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



並んで歩いていく二人を見送り、先にリビングに戻った銀時の後を追う…としたんだが。


「あ、おい犬ッコロ!」


高杉に呼び止められた。
妹に「ちょっと待ってろ」と言ってこちらに走ってきた。


「ワン(なんだよ)」

「ちょっと一つ言っておきてーことがあって」


すると高杉は周囲に人がいないかを確認し、俺に耳打ちした。


「俺な、今日くらいにでも皐に…その…告ろうかと思ってんだ」

「(はぁ!?)」

「あ、やーな?俺来月誕生日なんだよ…今年こそはあいつに告ろうと思って…

あいつの事知ってから銀時のガードも強くなっちまったし、仕事で時間も合わないしよォ。
なかなか旅行とかにも誘いに行けなかったし。
だから今がチャンスなんだ。あ、このこと銀時に言うなよな。
じゃねーと今度の健康診断ぶっとい注射ケツにすっから」


と、ドスの効いた声で釘を刺され、再び妹のところへと戻っていった。


そっか…


つーことは…






妹、今日帰ってこないってことか?




マジでか…




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


リビングに戻ると、銀時は何か読んでいた。
手にあったのは前に『坂本』というやつから貰った点字で読む本だった。


「ワフ(銀時?)」


顔を覗いてみる、寝てんのか?


「…高杉、今日あいつに言うんかね」

「ワ…(え…?)」

「多分お前に言ってたりすんだろ?甘ェよなぁ…
俺ですら見えなくても、分かるってのによ…」

「…ワン(知ってたのか?)」

「行動でわかる、あいつあー見えて本気で好きなやつには奥手だからさ。
本気で、皐の事好きだって。声でも、雰囲気でも分かる

目が見えてたときはあんまりわかんなかったんだけどな」


本を閉じ、銀時の手は俺の頭を探りあて撫でる。
気持ちいいが、銀時の様子が変だ。


「(…銀時?)」

「高杉が好きになるくらいだから…美人になってんだろうなぁ…
小学生の時までしかあいつ見たことねーからな」



こいつの目は、小学生の記憶とともに見えなくなった。
小学校から盲学校に転校し、ヅラや高杉、それに妹から離れた生活を送っていたらしい。
放課後は家で遊んでいたらしいが…、こいつの目は他のやつらの成長を見ちゃいない。



だから、今現在の皆の顔を、知らない。



俺を含めて



こいつが出会ってきた相手の顔も。



年老いた親の顔も



妹の顔も。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




そうだよな、お前の目の記憶は小さい頃で止まったままなんだよな。

初めて会った俺なんかの顔は、分からないよな。




でも、関係ない。
顔は結構手で触れば分かるものらしいし(近藤さんが言ってた)
見えないけど、分かる。そうだろ?




「(だからよ、元気だせ…?)」



落ち込んでる風に見える奴の頬に鼻を擦りつける。
銀時は「冷てぇ」と笑いながら俺をどかした。


「ダハハ…くすぐってーって、やめろって」

「クゥン(少しは元気出たか?)」

「はぁ…たく、首に鼻つけんなって。冷てぇし。それにお前の毛がくすぐったい






…うん、あんがとな」



銀時はそういうと、俺の頭を優しく撫でた。





顔が熱くなるのを感じた。






多分、気温のせいではないと思う。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



夕方、家のチャイムが鳴った。

誰かと思い見てみたら、長髪が特徴の男が立っていた。


「お、トシくんではないか。銀時はいるか?」

「ワンワンッ(いるけど…おい、銀時!!!ロンゲが来たぞ!!!)」

「あー?うるせーよバカ犬、ヅラならテキトーに追い返しとけ」

「はっはっは、お前は相変わらずの照れ屋だな。そう簡単に俺は帰らんぞぅ」

「うぜ…、んで?何の用だよ」

「皐殿から聞かなかったか?土産を持ってきたんだ
先日エリザベスと南の方に行ってな、お世話になった人から西瓜をもらったんだ」


ロンゲが銀時の手を掴み、袋を握らせる。


「ぅ…重っ!!!…お、おお…結構でかいな
ん?まだ何かあるけど…、こっこれもしかしてっ…!!!」

「それもその人からもらってな、高杉にもあげたんだが…俺とエリザベスじゃ飲みきれん」

「うおー、酒じゃねーか!サンキューヅラ、皐から止められてんだよなぁ」

「(サケ…サケって何だ、人間の食うもん…魚の鮭か?」

「あんまり飲みすぎるなよ?じゃないと俺まで皐殿に怒られてしまう」

「これ持って来た時点でお前も同罪だバーロー、でもありがとよヅラ。風呂上りとかにでも飲むわ」

「うむ、では俺はこれで失礼する。トシくんも頑張れよ」


と、ぐりぐりと撫でられる。
いつも思うが、こいつが俺を撫でるとき決まって頬を染める。
お…俺はそう趣味じゃねぇぞ…!!!ぎ、銀時は…その…別物だ別物。





ほ、本当だからな!!!誤解すんなよ!?




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


夕飯は店屋物を取り、銀時は冷蔵庫で冷やした『サケ』を飲み散らかしていた。


「カーーー!うめぇ!今日は皐帰ってこねーし、やーいい偶然が重なってよかったぁ!」

「(…なんか臭い、人間って不思議なもん飲むのな)」


銀時の周りを嗅ぐと、奇妙な臭いがする。
これが『サケ』ってやつか?スンゲー顔赤くなってっけど…


「ぅろーい!!!トシぃ、もっとビールもってこーり!!!」

「(お前飲みすぎ…、この後風呂入ってまた飲むとか言ってたけど…)」


俺はこいつの周りに散らばっている缶を銜え、一つ一つゴミ袋の中へ捨てていく。


「ワンッ(銀時、そろそろやめとかねーとサケなくなんぞ)」

「あーん?んだぁトシー、おれの言うことがいけねってんろかぁ?」

「…ワウ(んなに飲むと体に悪そーだから言ってるんだけどよ)」

「あははっらいじょーぶらいじょーぶ!銀さんはみんなのもんらから~♪」

「ガフッ(や、意味わかんねぇし。それにお前は俺のもんにするから却下な)」

「あんらとぉ?だーれがお前のもんになるきゃあ!犬と人間じゃあガキぁ作れねーんだよターコ!」

「クーン…(…分かってるよ、だけど好きなんだからしょうがねぇだろ
ほら、風呂はいるんだろーが頭貸してやっから)」



まったく、酔ってる相手にこんな事を言っても無駄だよな…。
でも、言いたくなっちまうのは何でだろう、なんでか会話できちまってるし…。

前に高杉から聞いたことがある、『サケ』を飲んだ人間は翌日記憶がないやつもいるって。
今さっき思い出したことだけど…。


…記憶がなくなる、か…


若干期待してんのかもな、一時の夢として…俺こいつに気持ちを伝えたかったのかもな。


どうか、忘れててくれ。





ホントは、忘れて欲しくないけれど。




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



ぐでんぐでんになっている銀時に肩を貸し、風呂場の方まで連れて行く。
流石に一緒に入っちゃ俺の理性が保てない、酔っていても一人で入れるだろう。

俺が溺れないよう風呂場の外で待っていればいい話だ。


「ワンッ(おい、ついたぞ銀時。さっさと風呂はいれ、シャワーでもいいから)」

「う…うーん…気持ち悪…」

「(!?お、おい…ここで吐くなよ?)」


口を押さえる銀時の背中を擦ってやる、え、えーとこういう時どうすればいいんだっけか。

と、銀時が俺を抱き寄せ、な…なんとっ…!!!


「わ、わぁ!!!銀時!?」


俺の頬にキスをしてきやがった。
おまけに舌まで出して。

犬とはまた違ったザラザラの舌を感じる。
ちょ…ま、待ってくれ銀時っ…!!!そこは…!!!


「キャインッ!!!(うああッ)」

「ん…ふげーコリコリひてる…、毛深いにゃあ…」


そ り ゃ 犬 だ か ら な ! ! !(涙目


だ、だがしかしだ…そんなに耳攻められると…そのっ…


「(こ、股間が痛くなってきたんだが…)」


好きなやつにこんなことされて、辛くならない男、いや雄などいない。
や、やべぇ…も、耐え切れ、ね…


「風呂上がったらぁ、もっとやらしぇろよ…?トシぃ…」









も う    だ め      だ …






◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



それだけ言って銀時は風呂場に入っていった。
甘い時限爆弾を俺に残して…。


俺は今、あいつになにをされた…?


ただえさえ性欲を我慢して耐えてるっていう  の に…







プ  ツ    ン      … ! !!!








俺の中で、何かが切れる音がした。

俺はあいつが好きだ。
だけどアイツは人間で、俺は犬で…。
目が見えないあいつと見える俺がいて…
俺とあいつは、望んでいても、決して交わる事はなくて…










そ れ が な ん だ 。





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



シャーーーと、シャワーの音がする。
ビチャビチャと落ちていくお湯は銀時の白い肌に触れたんだろう。
そう妄想を膨らますと股間も膨らんでくる。

その音達を名残惜しく耳に残してリビングへ向かった。
そして待つ、シャワーの音が止むのを。嗅ぎなれたシャンプーの匂いがするのを。





「うら~、でーたぞー!!!ひっく…」





来た。




妹の趣味だという、嗅ぎなれたシャンプーの花の匂いが俺の鼻腔を満たす。
まだ酔いが覚めてないみたいで、風呂に入ったのもあるのか頬がほんのり赤い。


おぼつかない足でビールが放置してある方へと歩いている、まだ飲む気か。
手を伸ばして銀時の腰を触る、指先が触れた瞬間に「んっ」と声を漏らす。


興奮していくのがよく分かる、心臓の音がうるさい。
俺は銀時の腰に抱きついてソファに押し倒した。







止まれない、一夜だけでもいいから






お前のことを、







◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「ん、んんーーーーー!!!」

ベロリ、と長い舌で翻弄する。

みるみる内に纏っていた衣類を剥ぎ取り、スッポンポンにした。
風呂に入ってたからか体までピンク色に染まっている。


…綺麗だ…


舌で歯の裏側を舐めると「はぁあ…っふ」と息を漏らす。
その息の温かさが気持ちいい、俺の唇に当たるとこいつの息を食べてるみたいだ。


「んん…と、シィ…ぁん」

「(気持ちいいか?銀時…)」

「あっ…ふぁ、ぃやあ…ん」


飲みきれない涎が銀時の口から垂れ流れてくる、それを舐めとりつつも口内を攻める。
酸欠になってきたのか涙を流す銀時、欲がそそられる…。


「ぁ…!!!ひぅ…、トシっそこは…んんっ!!!」


やわやわとこいつの股間を触ると、甲高い声が涎まみれになった口から発せられる。





全てを狂わせる、その声も、顔も、体も…







神様がいるなら問いたい。











犬の俺が、こいつを愛してもいいですか。











本気なんです。






続く