見知らぬ外国人と旅をする 南米編Ⅰ その99 | のぶろぐ

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アラフォーサラリーマン 旅の懐古日記

【チリ:カラファテ(7日前)】

 

 

 

 

 「私はもうしばらくここに留まろうと思う」

 

 皆のビールを持つ手が止まる。

それは突然すぎる別れだった。

 

 翌日、Carmelを残しトラックは走り出す。

ペリト・モレノ氷河観光の拠点となる町、カラファテ。

確かに長期滞在するだけの価値がある魅力的な場所だ。

長いツアーなのでこういう事もあるのだろうと、無理矢理自分を納得させる。

 

 メンバー全員でツアーを終えること。

それは僕の中で非常に大きな意味を持っていた。

この最高のメンバーと最後の最後まで余すところなく楽しむ。

特にサンチアゴでの最後の夜は、これまでの旅の思い出に花を咲かせ、みんなで感動を共有する。

それこそがこのツアーの最高の締めくくり方だと、そう思っていた。

 

 しかし、その願いは叶わなかった。

結局、最終日を待たずしてメンバー2人が去って行った。

ひとりはCarmel。

そしてもうひとりは、何を隠そう、僕だった。

 

 

 

別れは突如訪れた。

 

 

 

 まだ予算に余裕がある!!

 

 小さくガッツポーズを決めた僕は、さっそく航空会社に問い合わせの電話をかけていた。

ツアーも残りあとわずか。

終点サンチアゴに着いてからのこともそろそろ考えなければならない。

 

 「4月16日の便でしたらビジネスクラスしか空きがございませんが、いかがなさいますか」

 

 料金はエコノミークラスのおよそ2.2倍。

かなりの出費になってしまうが、南米なんて次はいつ来れるか分からないし・・・ま、いいでしょ!!

 

 ・・・いや、ちょっと待てよ。

たしか4月16日って、ツアー終了前日じゃん!!

この次の便っていつになるの?

 

 しかし無情にも週1~2便のフライトは見事に満席。

これ以上は帰国のフライトに間に合わなくなってしまう。

 

 「ちょっと考えさせてください」

そう言って受話器を置く。

 

 このまま留まって自分が”最高のかたち”と信じる旅の終わりを迎えるか。

あるいは新たなる旅にまだ見ぬ感動を求めるか。

どちらを選択しても後悔してしまいそうで、なかなか決心できない。

大きくなり過ぎたメンバーの存在が、僕を苦悩の渦へと引きずり込む。

しかし、この究極の二択を決断するきっかけを与えてくれたのも、やはりメンバーだった。

 

 

 

 「せっかくのチャンスなんだから、それは行くべきだ」

 

 数日後、プコンで火山トレッキングの予約に行く途中、Ianのアニキが静かに言った。

彼は口数こそ少ないが、いつも的を得た答えを返してくれるため、いつの間にかこの旅で僕の相談役になっていた。

 

 「旅の終わりは人それぞれのタイミングで訪れる。

けれどそれはどんなタイミングであっても、その人の気の持ち方によって良くも悪くもなる。

つまり、最高の終わり方にできるかどうかはNobu次第なんじゃないかな。

僕はこの旅の間、常に楽しもうと努めているNobuの姿をずっと見てきた。

だからどちらを選択したとしても、Nobuならきっと自分なりの、Nobuだからこその最高の感動を味わうことが出来るはず。

僕はそう信じているよ」

 

 自分だからこその旅の終わり方か・・・。

確かに僕はひとつの考え方に捕らわれ過ぎて、『自分の旅』というものを見失っていたのかもしれない。

よし・・・決めた! アニキ、ありがとう!!

今ならCarmelの気持ちが良く分かる。

苦渋の決断だが、この選択は間違っていないはずだ。

 

 そしてその夜、皆にこう告げる。

「サンチアゴに着いたら滞在せずにそのまま空港へ向かいます。

イースター島に行くために!」