浦江塾「行基伝承」の構想(5) | 晴耕雨読 -田野 登-

晴耕雨読 -田野 登-

大阪のマチを歩いてて、空を見上げる。モクモク沸き立つ雲。
そんなとき、空の片隅にみつけた高い空。透けた雲、そっと走る風。
ふとよぎる何かの予感。内なる小宇宙から外なる広い世界に向けて。

今回は、*『行基年譜』記事の
摂津国の西成郡の橋、溝、堀、布施屋の項目について
記載されている全てを考察してみることにします。
 *『行基年譜』:国書刊行会編纂、
  1970年発行『続々群書類従 第三』所載、
  続群書類従完成会


まず橋ですが、
 ●架橋六所(中略)長柄/中河/堀江 
 並ぶ三所西城郡/已上四所摂津国に在り


今日風に云えば、長柄橋、中河橋、堀江橋の工事に
土木技術に長けた行基集団が関わったというのです。

そもそも、河川の流路は、絶え間なく変わります。
〽飛鳥川昨日の淵ぞ今日は瀬になる
古今集にあります。
川は、儚い世のたとえです。
まして、そこに架かる橋ほど儚い物は、ありません。
到底、今日のような堅固な施設ではありませんので
遺跡を見つけるのは困難なことでしょう。
その位置を比定するのは並大抵のことではございません。

それだからこそ、チャレンジしたくもなります。

現在、「長柄」(大阪市北区)が大川右岸にありますが、
単純に、これに比定できません。
長く伸びる砂州は、時代によって変化しますから。
しかし、行基集団は、
上町台地の北端近くのデルタ地帯に、
何らかの橋を架けるのに携わったことは、確かでしょう。


「堀江」は、現在の「堀江」(大阪市西区)ではありません。
現在の「堀江」は近世に出来した新地です。
むしろ、現在の大川に比定するのがよいでしょう。
「仁徳記」に
●又秦人伇(ルビ:えた)ちて茨田堤及
 茨田三宅を作り、又丸邇池(ルビ:わにのいけ)・
 依羅池(よさみのいけ)を作り、
 又難波の堀江を堀りて海に通し、
 又小椅江(ルビ:をばしのえ)を堀り、
 又墨江(ルビ:すみのえ)の津を定めたまひき。
とあります「難波の堀江」です。
現在の大川です。

行基集団は、上町台地の北端を切り裂いて出来た
堀江のどこかに、何らかの橋を架けるのに携わったのです。

問題は「中河」です。

後世の地名では、大阪市東部の東成区、生野区に
「中川」がありますが、
その場所では、東成(東生)郡と記されねばなりません。
『行基年譜』に誤記の可能性が考えられます。

以下、東成(東生)郡と仮定する根拠を記します。

上町台地の東斜面、
あるいは東斜面を下った所に、
「仁徳記」に挙げた「小椅江」(ルビ:をばしのえ)との
関連が考えられる地名があります。

「おばせ」と訓じる「小橋」が
現在の地名に2ヵ所あります。

「小橋」と書いて「おばせ」と
「し」を「せ」と読ませるのは、変ですね。
これは「小椅江」の「をばしのえ」の
「の」が脱落し、約まって「おばせ」となったと
ボクは考えます。

「小橋」の一つは
天王寺区の上町台地の東斜面にある「小橋」です。
近世は「山おばせ」と称して七墓参りの一つでした。
このことは、本シリーズ第2回に挙げたところの
「七墓」の中に「小橋」はありました。
「山」を冠するのは「墓」です。
けっして上町台地の側にあるからではありません。
このことは、いずれ話題の中心に据えます。

もう一つの「小橋」は、
東成区の上町台地の東斜面を下りきった所に
位置する「東小橋」という地名です。
今日、比売許曽(ひめこそ)神社が鎮座します。
この社名は、*「延喜式神名帳」にある
「東生郡四座」の一社として挙げられています。

*「延喜式神名帳」に・・・:
 『摂陽群談』(『大日本地誌大系38』雄山閣、1977年)
 『角川日本地名大辞典 27大阪府』1978年


「おばせ」の「せ」には入江の「え」が含まれています。
これなら「仁徳記」に挙げた「小椅江」に近づきます。
すぐ、東に懸案の「中河」が位置します。


本題の「中河」に戻りましょう。
近世「中川村」につきまして*地名辞典は、
次のように記しています。
●上町台地東方、長瀬川(旧大和川)と平野川に
 挟まれた氾濫原中に位置する。
*地名辞典:『角川日本地名大辞典 27大阪府』1978年

行基集団が「中河」に架けた橋は、
「西成郡」ではなくて、
上町台地東方の入江に近い氾濫原に
位置していたとボクは考えます。


次に溝です。
●長江池溝[長さ六十丈、広さ深さ六尺]、
 同国西城郡に在り

現在の地名では住吉区に「長居」、
阿倍野区に「長池町」があります。
「仁徳記」に挙げた「依羅池」の北方、
「墨江の津」の東方に位置します。
上町台地の微高地に位置します。
「広さ深さ六尺」の「溝」です。
地形の緩傾斜を利すれば、
土木技術に長けた行基集団は、
西方の「墨江の津」の方向に工事を
進めたのかも知れません。


後残すところは、堀3件、布施屋1件です。
次回に廻しましょう。

浦江塾は11月2日(土)pm7時から

妙寿寺(福島区鷺洲2)で

参加費不要です。

問合せは、ブログトップの「阪俗研」まで。
お寺にはしないでください。


究会代表 田野 登