- 前ページ
- 次ページ
京丹後市は日本海に面した人口6万人弱の地方都市である。古くから大陸交易の表玄関として栄え丹後地域独自の文化を育んできた。網野銚子山古墳を始め神明山古墳に代表される古墳群や製鉄工房跡などの遺跡も現存するなど往時の繁栄ぶりを窺い知ることができる。海岸線は西の久美浜町蒲井から東の丹後町袖志まで総延長はおおよそ40kmにおよび、その区域内は山陰海岸国立公園や丹後天橋立大江山国定公園に含まれ、また、山陰海岸ジオパークに認定されるなど、美しい鳴り砂の浜やリアス式海岸の地質遺産など貴重で豊かな自然環境を誇っている。地球環境が社会問題化して久しいが、環境循環都市あるいは観光立市の実現を目指す京丹後市にとっても、海岸漂着物は看過できない課題として認識されている。
秋から春先にかけて海岸にはおびただしい漂着物が打ち上げられる。海藻類はもとより野菜、流木、漁網・漁具類、ペットボトル、空き缶、瓶類、発泡スチロール片、トレイ、容器包装フィルム、ライター、その他の合成樹脂類など、なかには洗濯機やスチール製の棚など多種類におよぶ。しかし、この時季に限らず大雨や台風の後にも同じように海岸には漂着物が打ち上げられ、その量は半端ではない。そのまま放置すれば軽いものは強風に煽られて付近に飛散し、それ以外は押し寄せる波と砂の作用で堆積する。
これらの漂着物の経路としては、東シナ海などの外洋から対馬海流や偏西風により運ばれてきたもの、あるいは河川を流下したと考えられる。その発生源としては、外洋や河川への違法な投廃棄、船舶の遭難・事故によるもののほか、不注意により養殖場からの流出や、畑や人家周辺などからの飛散が考えられる。
全国的に環境意識の高まりのなかで、日常生活においてもゴミの減量化やリサイクルが盛んに取り組まれているにもかかわらず、不法投棄やポイ捨てが後を絶たない現状がある。ポイ捨ての空き缶やペットボトル、レジ袋などのゴミが強風や雨水などりより回りまわって河川や海に漂着する可能性がある。このことは国内だけの問題ではなく世界的な課題であり、地域に暮らす一人ひとりの身勝手な行動が環境劣化の原因となっているのではないか。ここで問題となるのは「誰がこの漂着物をしょりしなければならないのか」である。川上から流れてきたゴミは、川下の者に処理義務があるとは言えない。漂着物の所有者が特定できれば(例えば不法投棄されたゴミ袋から個人を特定できる証拠が発見できれば)責任を問うことは可能であると考えられるが、それは非現実的で困難だ。ならば、その海岸の管理者が処理義務を負わなければならないが、現実的には処理すべき人員体制や経費、処理すべき頻度、処理施設などをどのように整理するのかが課題となる。府や市が補助金や単費で直接処理することも考えられるし、地域の団体や住民のボランティア活動などに依存することも一つの選択肢だか、いずれにしても持続可能な維持管理体制を創設し対処すべきである。そのためには行政を始めNPOなどの環境保全団体やボランティア団体、市民、各種任意団体、企業など地域の社会的資源を活用し、地域ぐるみで取組む体制を構築する必要ががある。また、併せて人材育成や啓発のため環境学習の推進も重点的に取り組む必要がある。しかし、これはあくまでも対症療法に過ぎない。根本的な課題は、廃棄物の排出を抑制すること及び排出に関わる消費者等の倫理観の醸成であると考えられる。先ずはその第一歩を踏み出すことから始めなければならない。
持続可能な社会づくりには環境教育の推進が不可欠である。現在、環境問題に関心のある市民やNPOなどが、家庭や地域において良好な生活環境保全のための様々な取り組みを行っている。自分たちの生活する環境を改善していこうとする意識とその実践は尊いものだ。
環境問題に関して言えば、行政には市民の暮らしと健康を守り環境に配慮した地域社会を創るため、環境基本計画等に則して具体的な行動計画を策定する義務があり、そのための最低限の仕組みを構築しなければならない。具体的には環境教育の必要性を認識のうえ、生涯学習として体系化を図るとともに、その拠点施設としての環境学習センター(仮称)を設置し、環境教育を一体的かつ効果的に推進すべきである。
環境学習センター(仮称)においては、地球的規模での環境問題の現状や課題はもとより、良好な生活環境を維持するための対処方法や地域活性化の方策など、専門家、地域住民、環境団体、行政を始め、その他さまざまな関係機関・団体と協働し体系的な教育課程に基づく学習、実践に取り組む必要がある。
なお、環境問題の現状と原因、そして解消すべき方法は地球的規模で捉えるべきだが、具体的な行動計画を画一的に推進することは、それぞれの地域社会の実態(住民意識など)により無理がある。したがって、到達すべき統一目標は設定するにしても、行動計画は個々の地域(市町村)おいて実態に即して実行すべきである。環境教育の推進により地球環境に対する住民の意識改革をさらに促進し、実践活動に繋げ、持続可能な地域社会を創ろう。