(連載になっています。初めてお読み下さる方は、PLAYERS' PRAYER〜序章〜からお読み頂ければと思います。)



「兄貴、遅くなってすみません」
一人の若者が、班長の前に現れた。
「いやこっちこそ、忙しいところ呼び出して悪いな。ちょっと頼みごとがあって。大気と土壌の汚染度をそれぞれ調べてもらいたい。プレイヤーの数が、健康被害者の数に到達する日が遅れそうだという情報が入って来た。前回の調査からまだ日が浅いんだが、例の国がまた、農薬の種類や使用量の上限をこっそり緩和したんだよ」
「採決日を他の大きなニュースに合わせるのは、政府の常套手段ですからね」


「マスコミも、細部を調べ上げてまで国民に伝えようとしない。権力に取り込まれたり、センセーショナルでないニュースへの関心を失っていたりで、報道の魂を遊ばせている。そのお陰で、バイオ科学企業やその輸出国は巨大な利益を手にし、あの国を他国間マネーゲームのおもちゃにしている。先祖代々受け継がれてきた豊かな自然を守ろうと、日々努力をしている農家も増えてはいるのだが……」
「小さいがどんな大国にも与えられていない高次の霊性が備わっている国だ。出来得る限り、身体を汚染から守らねばならないというのに。このままでは我々の壮大なプロジェクトが危機的状況に陥りかねない……すぐに取り掛かります」


「調査結果によっては、あの国のマスコミ業界に名プレイヤーを送り込んで、民の関心を引き付けなければならない。農薬だけじゃない、種子の危機、遺伝子組み換え、ゲノム編集作物もだ。食の安全を叫ぶ国が増える中、それと逆行するかのようなあの国の政策が今後、農家や民に留まらず、世界にとってもダメージとなる」
「各人の思考が国を動かすという事実を知ってもらわなくてはなりませんね」
「よろしく頼む」


若者が去って行くと、班長の眼に、おでこに冷えピタを貼ってぼんやりしている少年の姿が浮かんだ。
「あらら、大丈夫かしら」
班長の隣に女性が現れた。
「オリエンテーションに連れて行ったんだな。一年生の」
「下界で自分よりもずっと裕福な人や地位の高い人たちが余りに多かったから、ショックだったのね。あの子の前回の生は、苦しみに始まり悲しみに終わったでしょう。実相を知って、次の生に臨んでほしかったんだけど」


「大丈夫、効果があった証拠だ。もっとも下界に、それを理解してもらえる土壌が早く出来ればいいんだが」
「なかなか難しいわね」
「やはり鍵は、中間層が握っているということだな。あの子も葵に続いてもらいたい」
「坊やは前回亡くなった時、狂おしいまでに求めた愛が火を噴き、それを追う水と重なり合って螺旋を描きながら上り、御前の胸に飛び込んで行ったわ。それを受け止めた御前は、次の生で真のリーダーとなるよう告げた……きっとやってくれるはずよ」


「班長、お姉さん」
二人が振り返ると、少年が立っていた。顔からあどけなさが消えている。
「坊や……もう?……」
女性が少し驚いたように尋ねた。
「はい、ご指導ありがとうございました。行って参ります」
まるで別人のように落ち着いた口調で言うと、二人に深々とお辞儀をした。
すると、顔を上げた少年の頭上に目映い光の玉がスーッと降りてきて、全身を包み込んだ。班長も女性も、そのあまりの輝きに目を開けていられない。二人の使いに付き添われ、少年は下界へと降りて行った。


「何度見ても、旅立ちのあの潔さには感服するわ」
「ああ、意志が定まった霊魂の光の強さは誰にも阻めない。下界の人すべてに、この光景を見てもらいたいものだ」
少年が去ったそこには、冷えピタが一枚、落ちていたーー。


< つづく >





ふたご座
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