人喰い鬼 #2

もうじき夜になるというのに、街並みの人影はまったく減らない。
噂のビルへ向かうべく歩いていた小木だが、突如、足を止めた。
進路方向の先で、小さな人だかりが出来ている。
何事だろう、と覗きこむと、小柄な少女が柄の悪い少年に絡まれたいた。
少女は真っ白なワンピースに身をつつんでおり、その美しさを際立たせている。対して男の方はというと、少女が嫌々というように首をふっているのが気付かないのか熱心に口説いていた。
この様子だと拉致があかないだろうなと思っていると、男が少女の腕をつかんで引っ張っていこうとする。
一瞬、助けようか迷ったが、どうやらその必要は無さそうだった。

「嫌がってる女の子に無理矢理、っていうのは関心しないなぁ」

人だかりの向かうからやってきたのは、背の高い青年だった。

「あぁ?誰だ、あんた」

少女の腕をつかんでいた男が振り返ってにらみつける。が、青年はまったく動じず顔には微笑を浮かべている。

「その子が嫌がってるの分からないの?」

にっこり笑った青年は、二人に近づき少女の腕をつかんでいた男の手を素早くひねりあげた。
男は痛みに悲鳴を上げ、少女の手を離す。

「僕らのお嬢に何してくれてんの」

先程までとは正反対の冷たい表情を浮かべた青年は、男の腹に拳を叩き込んだ。腹を抱えてうめく男を無視して、青年は笑顔で少女の方を振り返る。

「お嬢、大丈夫ですか?」

お嬢、と呼ばれた少女は強張らせていた表情を緩め、こくりと頷いた。少女の様子に安心したのか、青年は殴った男には一瞥もくれず、少女の背を促して歩きだした。
少女と青年が行ってしまうと、野次馬たちもちらほらと散っていく。そして、先程までの喧騒が嘘のように、またいつもと同じ光景が広がっていた。
立ち止まっていた小木も、人混みに流されて歩き出した。
しばらく歩いていると、例のビル近くまで来ていた。人気はほとんど無くなり、カラスの鳴き声が聞こえてくる。
ビルに着き、突き当たりの薄明かりが漏れるオフィスのドアを叩く。中から出て来たのは、妙齢の女性だった。

「ご依頼の方でいらっしゃいますか?」

「はい、ここは如月事務所で間違いないですか?」

女性はこくりと頷くと、ドアを押し広げた。

「私、担当の鈴村と申します。まず、いくつか質問させていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」

「はい、どうぞ」

すると、女性は懐からメモとペンを取り出した。

「お名前とご職業、依頼内容をお伺いします」

「はい、名前は......」

ちょうど、内容を言い終わった時、オフィスの奥、左側の扉が開いた。

「おや?ご依頼ですか?」

そう尋ねてきたのは、先程、暴漢を打ちのめした青年だった。

「貴方は先程の......」

「......あぁ、あの場にいらっしゃったんですか」

苦笑を浮かべて、お見苦しいところをお見せしましたと謝罪を述べる青年は、素直に好印象を持てた。

「いえ、お嬢さんはご無事で?」

「あぁ、お嬢なら.......」

青年がそう言いかけたところ、オフィスの奥、同じ左側の扉が開き、中からカップを載せたトレイを持った少女が出てきた。
このとき、小木は気付かなかったのだが、小木の後ろを気配を消して歩いて行った者がいた。
彼こそが、事務所の責任者であり、小木を摩訶不思議な世界に引っ張り込んだ張本人、如月である。


2013年2月6日 改編