施政方針演説―「未来への責任」を果たすために | 田辺かずきのブログ

施政方針演説―「未来への責任」を果たすために

令和6年度(2024年度)の施政方針演説。

 


 

古賀市議会定例会が本日開会し、施政方針演説に臨みました。まちづくりは時代認識が重要と考え、冒頭で、世界の最新の知見を共有することにしています。2024年度は、オックスフォード大学哲学准教授のウィリアム・マッカスキル氏の『見えない未来を変える「いま」 〈長期主義〉倫理学のフレームワーク』です。

 



そのうえで、令和6年度の市政運営の基本方針をまとめています。長文ですが、ぜひご一読ください。

◎令和6年度施政方針

<目次>

1. はじめに
2. 子どもを安心して産み育てられるまちへ
3. 中心市街地の「力」を引き出し、魅力を創造する
4. 都市基盤整備の促進と産業力の強化
5. 誰もが健康で安心して暮らしていける地域社会
6. 人権と平和を守り、郷土愛を醸成
7. デジタル導入による市民サービス向上と業務効率化
8. 財政運営と令和6年度予算
9. おわりに

   □

1.はじめに

令和6年は能登半島地震という大災害から始まりました。今、地球規模の環境破壊が進み、気候変動の影響で台風や豪雨、火災が頻発し、高度な人工知能をはじめとする技術革新と社会実装が急速に進行し、新たな感染症によるパンデミックが懸念され、大国の関わる戦争が継続し、とりわけ核兵器使用のリスクが高まり、社会的・政治的な人々の分断が加速し、日本で超高齢社会化と少子化・人口減少が急速に進む中で世界人口は増加の一途をたどり、情報通信が個人と世界のつながりを容易にし、価値観の衝突あるいは融合を生み出す。不確実性がこれほど高まっている時代が、人類の歴史上あったでしょうか。

私たちが生きている現代が、未来も含めて歴史的にどのような位置にあるのか。これを捉えることが、私たちがまちづくりを進めていくうえで、何をどう判断し、行動していくか、その適正性につながるはずです。私たち先行世代は、私たちが享受している現在の社会よりもよき社会を、より豊かな社会を、子どもたちや孫たち、さらにはその先の世代につないでいく責任があり、新たな時代を拓くうえで、自らが生きる時点の意義を理解しておくことが求められます。

「人類は、今後数百万年、さらには数十億年と存続するかもしれない。なのに、現代世界と同じ変化率は数千年ともたない。このことが意味するのは、私たちが人類の物語のなかでも特別な章を生きている、ということだ。私たちが生きるどの10年間を切り取ろうと、過去と未来の両方と比べ、きわめて異常な数の経済的・技術的変化が起きている」

世界の注目を集める新進気鋭の哲学者でオックスフォード大学哲学准教授のウィリアム・マッカスキル氏は、今年1月に邦訳版が出た『見えない未来を変える「いま」 〈長期主義〉倫理学のフレームワーク』でこう指摘しています。新たな哲学的思想である「長期主義」について「未来の世代の利益を守るために、私たちのすべきことは今よりずっとたくさんあるという考え方」と定義。この世界の道徳の変化や価値観の固定化、人類絶滅や文明崩壊、幸せな人間を生み出すことなどについて論考し、「未来を、よりよい軌道へと転換できる時代が、今だ」と訴えます。私たちが私たちの暮らしを向上させるとともに、社会の持続可能性を高め、グッド・アンセスター、よき祖先となれるか。

「細心の注意と先を見通す力さえあれば、私たちのひ孫たちや、そのひ孫たち、そして数百世代先の子孫たちのために、よりよい未来をつくることはできる。しかし、そうした未来を当たり前ととらえてはいけない。必然の進歩の道筋など存在しないし、文明がディストピアや忘却の彼方へと追いやられるのを食い止めてくれる救世主など現われないだろう。すべては私たちの手にかかっている。そして、成功は保証されてなどいない。それでも、成功の望みはある。少なくとも、あなたのような人々が、この難題に取り組んでくれれば」

2.子どもを安心して産み育てられるまちへ

子どもと子育て世代を大切にすることは、私たち先行世代の「未来への責任」と考えています。次世代、さらにはその先の世代に、私たちが享受しているよりも豊かな社会をつないでいくことができるか。私たち一人ひとりが問われています。

古賀市は子ども医療費の完全無償化をスタートさせます。18歳までを対象とし、家庭の経済状況に関係なく、安心して受診できるように、子ども一人ひとりの成長・発達を支えます。

あわせて、子育て家庭を取り巻く多様なニーズを捉え、共に歩みます。医療的ケア児や重症心身障がい児をはじめ、障がいのあるお子さんとそのご家族の支援を強化します。放課後等デイサービスや児童発達支援、居宅介護をはじめとする障がい福祉サービスの自己負担について、0歳から就学前を完全無償化し、小中高校生世代は毎月の上限額を大幅に引き下げて一律3,000円とします。子育てのさらなる経済的負担軽減のため、児童手当や児童扶養手当の拡充を図ります。

妊娠・出産・乳幼児期を切れ目なく、伴走型で支援します。多胎児の妊婦が安心して出産できるよう、標準的な妊婦健診に追加して頻回受診する際の費用も補助します。聴覚障がいを早期に発見し、早期の療育や支援につなげるため、新たに新生児聴覚検査への補助を始めます。流産や死産などお産をとりまく赤ちゃんの喪失である「ペリネイタル・ロス」の当事者を適切にケアできるよう、相談対応スキルを有する助産師など専門職が寄り添い支援します。

待機児童ゼロをめざし、保育士の処遇改善や業務負担軽減を図るため、保育補助者の雇用など、保育体制強化のための費用を助成します。保護者が育児休業を取得した場合、保育を利用するきょうだい児が2歳児クラス以下ならば原則退園とする運用を廃止し、継続利用できるようにします。保育施設での医療的ケア児の受け入れ体制を強化するため、鹿部保育所への看護師配置を一層充実させ、私立保育施設における看護師の配置等への支援も続けます。鹿部保育所の建物の機能を適切に保ち、長寿命化を図るため、屋根防水・外壁改修工事の設計を実施します。

小中学校の全ての学年における原則35人以下学級をはじめとした多様な人的配置など教育環境の整備を推進します。増加傾向にある不登校児童生徒の学びと育ちを保障するため、教育支援センター「あすなろ教室」の職員を増員します。特別支援教育支援員の配置時間数を増やし、特別な教育的支援や医療的ケアを必要とする児童生徒を支え、インクルーシブ教育を推進します。学校現場のデジタル導入の実効性をさらに高めるため、ICT支援員の配置を継続します。校外活動中の不測の事態に備え、公用携帯電話を導入します。

学校施設のさらなる安全性・快適性の向上のため、建物の長寿命化と複合化の改修工事を計画的に進めます。前年度に引き続き、古賀東中学校の大規模改造工事を行います。小野、花鶴各小学校の体育館の外壁等改修、古賀西小学校の屋上防水等の改修に向けた設計を行います。衛生環境向上・バリアフリー化のためのトイレの洋式化・乾式化や「みんなのトイレ」の整備について、小野小学校では改修工事を、青柳小学校では改修に向けた設計を実施します。

小中学校で安全・安心な給食を提供します。長年続けている栄養バランスや量を保った給食を実施し、保護者の経済的負担の軽減を図るために、物価高騰対策として給食材料費を補助します。給食センターの老朽化した食器洗浄機等を更新します。食物アレルギーで牛乳を飲めない子どもについて給食費から牛乳分を減額するとともに、食品ロス削減にもつなげます。

子どもの「生き抜く力」を育み、様々な状況に置かれた子どもと家庭を支えるため、子どもの行き場所・居場所づくりを推進します。子ども食堂を開設・運営する団体等への補助制度を新たに創設します。通学合宿などの地域で行う体験活動を後押しします。放課後子供教室を各小学校区で実施し、中学校区ごとに児童センターを運営します。保護者が就労しやすい環境をつくるため、学童保育所の土曜日や長期休業期間の開始時間を早めます。中学生を対象としたスタンドアローン支援事業で、NPO法人フードバンク福岡などから提供された食料品を活用し、意欲的に学習できる環境を整えます。

主権者教育と、子どもの声を聴き、意見表明を支援する子どもアドボカシーを推進するとともに、主体的に新たな取組に挑戦するアントレプレナーシップの涵養を図ります。地域のリーダーとして活躍する人材の育成のため、県や宗像・福津両市と連携し、中学生を対象としてグループワークや国内外で活躍する人の講義などを合宿型で実施します。高校生によるワークショップを開催し、本市への政策提言につなげます。

現在の子育て支援課を「子ども家庭センター」に改組します。同センター内に「子ども・若者相談室」を新設し、青少年支援センターの機能を統合します。すべての妊産婦・子育て世帯・子ども・若者を対象に包括的な相談支援を行うとともに、教育委員会との連携も強化します。

確認しておきます。なぜ、古賀市はチルドレン・ファーストの理念に基づき、こうした形で子育て支援を強化し、教育環境の充実を図っていくのか。

今、日本全体で少子化・人口減少がどんどん進み、古賀市も例外ではありません。なぜか。子育て世代が安心して産み育てられる状況にないからです。右肩上がりの成長の時代が終わり、ひと昔前のように雇用は安定していません。共働きが主流になったものの、家庭の可処分所得が増えていない現実があります。こうしたことから、出生率と出生数の低下が国家的な危機を生み出してしまっており、令和5年度施政方針でも申し上げた通り、私たち先行世代はもはやこれ以上の先送りが許されない状況に追い込まれています。予防的社会政策としての子ども政策の展開でこの危機を回避しなければなりません。

3.中心市街地の「力」を引き出し、魅力を創造する

まちづくりの「1丁目1番地」であるJR古賀駅周辺の中心市街地活性化を推進します。

古賀駅東口エリアでは都市計画の変更手続きに着手します。本市のシンボルとなる東口の公園は、生涯学習ゾーンとの連続性を確保しウォーカブルな空間となるよう整備を進め、駅へのアクセスについては、新たな道路を整備し、交通ネットワークの充実をめざします。そのうえで、エリアの用途について工業から住居や商業への転換を図ります。

生涯学習ゾーンは令和4年度から2年間にわたり新たなにぎわい創出に向けた基本計画づくりを進めてきました。この計画に基づき、リーパスプラザこがの文化・芸術の発信拠点としての機能を向上させるリニューアルに向けて、東口の公園機能との一体的な管理運営や民間活力の導入の検討を庁内横断で進めます。また、多目的ホールや会議室形式の貸室にWi-Fiを設置し、利便性を高めます。

西口エリアは駅前広場を中心とした公共基盤の基本設計に着手します。令和2年度から実施してきたエリアマネジメントによる新たな拠点形成や創業、令和4年度から実施してきた西口エリアの自動車交通量調査などのデータをもとにした社会実験などを通じ、市内外から多くの人が訪れ、回遊性が高まりつつあります。ウォーカブルな空間の創出をめざし、さらなる官民連携で社会実験を実施しながら、具体的な整備方針の検討を進めていきます。

4.都市基盤整備の促進と産業力の強化

公園・緑地は、コミュニティ形成、心身の健康増進、子ども・子育て支援、地域経済の活性化など、市民活動の場として活用されてきました。より一層住みやすく、持続可能な都市への再構築が求められる中で、新たなステージへ移行するため、古賀グリーンパークや千鳥ヶ池公園、薬王寺水辺公園などの規模の大きな公園について、「観光・運動・ワンヘルス」をテーマに掲げ、新たな魅力を創出することをめざす公園再整備基本方針を策定します。また、千鳥ヶ池公園野球場の長寿命化、大規模改修を行うための設計に着手します。

JR千鳥駅東口のアクセス機能を強化するため、駅前広場を整備します。西鉄宮地岳線跡地は車道や遊歩道などの空間形成に向けて、中川区と花見南区の一部で整備工事を実施しており、引き続き花見南区での整備を進めるとともに、古賀南区でも工事に着手します。あわせて、花見東地域の都市計画道路北花見南花見線における測量と平面図の作成を進めます。花見佐谷線の道路拡幅に向けて実施してきた測量や設計を踏まえ、用地交渉に着手します。古賀西小学校の周辺にゾーン30プラスの区域を設定し、生活道路の安全性を高めます。

浄水場の老朽化を受け、これからの水資源の安定確保と浄水場のあり方について検討を進めてきました。市議会でも特別委員会を設置し、議員の皆さまの間で活発に議論、市民の皆さまとの意見交換もなされ、その結果「古賀浄水場の廃止と水源転換を求める決議」をいただいたことに感謝申し上げます。そのことも踏まえ、平時と災害時における水の確保などの安全性、安定性、コストなどを考慮のうえ浄水場の廃止を前提として、受水団体と水源転換を協議します。下水道事業の安定的かつ効率的な運営を行うため、下水道使用料の改定を行うとともに、農業集落排水事業の処理区域である小山田地区を公共下水道事業計画区域へ編入し、広域化・共同化を進めます。老朽化する上下水道施設の更新や耐震化の工事を着実に進めます。

地域公共交通の持続可能性と利便性の向上をさらに進めます。西鉄バス古賀市内線や公共施設等連絡バス「コガバス」、AIオンデマンドバス「のるーと古賀」、タクシーなどの多様なリソースを効率的に活用することで市内の公共交通ネットワークの再編を推進するとともに、隣接する新宮町との広域連携を図り、コガバスの新宮中央駅への乗り入れに向けた協議を行います。これら既存公共交通との共存共栄を前提に、ライドシェアの導入を進めます。

将来に向けて雇用を生み出し、税収を確保していくため、土地利用転換と企業誘致を進めます。工業・物流機能の強化をめざし、工業系用途に土地利用の転換を図った今在家地区、青柳大内田地区、青柳釜田地区においては、既に開発に向けた民間事業が進捗しています。新原高木地区は令和6年8月からの造成工事に向け、農村地域への産業の導入の促進等に関する法律に基づく手続きなどを完了させるため、引き続き地元などの関係者との連携を図りながら進めていきます。新たな工業系用途の土地をさらに確保するため、次回の都市計画区域の区域区分変更時に青柳迎田地区の市街化区域編入をめざしています。併せて、新たな住宅用途開発を誘導する区域として古賀中学校周辺の新久保南地区についても市街化区域に編入し、さらに職住近接の市街地形成に取り組んでいます。これらの区域については、既に令和5年度から地権者の皆さまや県等との調整を進めており、より都市的で効果的な土地利用への転換を図るため、都市計画マスタープランや都市計画道路の計画の一部を見直します。

観光・物産・情報発信の機能を強化します。本市の観光ブランドコンセプトを「つながり つくりあげよう ひとてま歓幸(かんこう)。」とし、持続可能な観光振興となるよう、まず、「地域活性化起業人制度」を活用し、三大都市圏に所在する企業等の社員を市観光協会に派遣し、民間活力の導入で実効性を高めます。また、地域資源を発掘し、磨き上げ、観光の魅力を向上させるための新たな補助金を創設します。「おでかけガイドマップ」などを活用し、本市を訪れる方に点在する観光スポットをつないだモデルコースをお薦めするなど、本市の回遊性を意識した取組を推進します。さらに、福岡県物産振興会に加入し、県外で開催される物産展において本市の観光、物産、移住などさまざまな魅力をアピールし、誘客促進やふるさと応援寄附事業のPR、交流人口、関係人口の創出に取り組みます。地元企業との連携でふるさと応援寄附事業を強化します。令和5年度は企業連携による新たな返礼品の開発や効果的な広告展開などが奏功し、寄附額が11億円を超え、過去最高を更新しました。令和6年度も戦略的に取り組みます。

生き方や働き方など社会の価値観の変化を捉え、移住定住の促進につなげます。薬王寺温泉を生かしたインキュベーション施設「快生館」では、市内外の多様な人材の経験や知見、感性の交差の「クロスオーバーによる共創」で、新たな事業の創出や創業支援が実現しています。引き続き、サテライトオフィスやコワーキングスペースの強みを生かし、進出企業などとの連携で相乗効果を生み出すとともに、社会課題解決を図る実証実験に取り組み、まちづくりの担い手となるプレーヤーの発現を促し、地域活性化につなげていきます。あわせて、新しい働き方や移住体験の機会としての親子ワーケーションを開催し、本市の魅力の発掘とPR、首都圏等からの移住定住、関係人口の創出をめざします。クロスオーバーによるDXと地方創生のさらなる推進を図るため、政府のデジタル田園都市国家構想の実現に向けたまち・ひと・しごと創生総合戦略を策定します。

商業と農業の振興を図ります。市内中小企業が、事業資金を借り入れる際に必要な保証料の補助や、新分野にチャレンジする経営革新の取組に必要な経費の補助など、引き続き市商工会とも連携して経営を支援します。農業の持続可能性を高めます。農業の効率的な経営と生産性の向上を図るため、薦野清滝地区の農業基盤整備事業の工事に着手します。有害鳥獣対策で県と連携し、野生動物が身を隠すことができない緩衝林帯を設ける間伐を薦野地区で実施します。情報通信技術やデータ分析などを活用したスマート農業を普及させ、農作業の効率化と省力化を図ります。森林を健全に保つための侵入竹除伐による放置竹林対策を進めます。

5.誰もが健康で安心して暮らしていける地域社会

全ての世代がQOL(Quality Of Life:生活の質)を向上できるよう、医療・介護、健康づくり、福祉の充実を図ります。

令和6年度からスタートする第三次健康増進計画と第二次食育推進計画に基づき、子どもから高齢者までそれぞれの世代の課題に合わせた健康づくりと介護予防、食育を推進します。特に子どもについては、家庭や学校をはじめ関係機関と連携し、新たに策定した「子ども版健康チャレンジ10か条」の推進や「骨づくり」の実践を図ります。朝食の習慣化をめざした産学官連携のプロジェクトを継続します。特定健診・がん検診の受診率向上に繋げるため、市公式LINEを活用して予約を受け付けます。健康運動指導者を増員して体制を強化し、高齢者の保健事業と介護予防の一体的取組の充実を図ります。

高齢者の暮らしを支えるため、ごみの収集路線上にないご家庭で近くの集積所まで持ち出すことが困難な方のごみ出しを助ける「ふれあい収集」について、従来の要介護2以上から要支援1以上に対象を拡大します。認知症高齢者が行方不明になった際、早期に発見できるよう、衣服や持ち物にQRコードを貼り付け、家族などが位置情報を確認できる「保護情報共有サービス」を導入します。

障がいのある人の自立や生活の安定を図るため、障がい福祉サービス事業所等と連携し、就労促進や工賃アップに向けた事業を企画・実施します。

コロナ禍を経て景気動向や社会情勢の変化により経済的に困窮する世帯や生活保護受給者が全国的に増加しています。自立相談支援員等が相談者に寄り添い、世帯に応じた生活支援や就労に向けた支援を行うなど生活困窮者や生活保護受給者のさらなる自立支援に取り組みます。地域共生社会の実現に向けて、判断能力が十分でない人が成年後見制度を円滑に利用し、住み慣れた地域で安心して暮らせるよう、「成年後見センター(仮称)」を設置し、権利擁護支援の充実を図ります。生活保護世帯の年金未受給者について受給資格の有無を確認し、複雑な申請手続きを支援することで、自立助長につなげます。

サンコスモ古賀の設備の老朽化対策として空調設備改修に向けた設計を実施します。
ゼロカーボンシティとして、人と動物の健康、環境の健全性は一つのものとする「ワンヘルス」の理念に基づき、環境行政を推進します。

ネイチャーポジティブ(自然再興)の考え方に着目し、自然環境や生態系の確保等に配慮しながら生物多様性に係る取組を推進します。環境保全や生物多様性への理解促進を図るため、市民や学生の皆さまとともに新たにGIS(地理情報システム)を活用した自然環境調査を実施します。市民の皆さまの脱炭素に向けた主体的な行動を促すため、電気・ガスの使用量削減や省エネ家電購入などにポイントを付与し、交通系ICカードに還元する取組を始めます。企業との連携を強化し、二酸化炭素排出量可視化システムの導入を支援します。市内公共施設の空調機器で使用されている冷媒ガスを自然界に存在する環境にやさしい「炭化水素冷媒ガス」へ入れ替える実証実験を行うとともに、シルバー人材センターやクロスパルこがアリーナの照明のLED化により、省エネを進めます。地域の道路環境美化や海岸、河川でのラブアース・クリーンアップ、大根川一斉清掃などの自発的な美化活動を支援し、快適な生活環境の保全を推進します。新設した海津木苑で環境と人権をテーマとした情報発信を積極的に行います。

高齢者のペット飼育支援は、福祉や環境の官民の関係機関が連携して先駆的に取り組むことで適正飼養・終生飼養の促進など成果につながっており、継続していきます。地域猫活動を不妊去勢手術や譲渡検査等の費用助成で支援します。

地域防災・減災体制の強化を進めます。消防団の持続可能性を高めるため、「古賀市消防団に関する懇話会」の意見などを基に検討してきた分団再編をはじめとする改革案を令和7年度以降の運営につなげられるよう、条例改正などに取り組みます。指定避難所としての機能向上を図るため、大規模改造工事が予定されている古賀東中学校体育館への空調設備の設置に向けた設計を実施します。耐震基準を満たさない木造戸建て住宅の耐震改修を促すため、耐震診断に要する経費の一部を補助するメニューを新たに追加します。中川水系中川浸水想定区域などの最新の災害想定を反映した新たな総合防災マップを作成します。市営河川の浚渫を計画的に実施します。犯罪の発生を未然に防ぐとともに、犯罪捜査に寄与するため、古賀駅前交差点に防犯カメラを設置します。

地域コミュニティの活性化は、市民の皆さまとの「共働」による地域ごとのきめ細かな資源ごみの分別収集に代表されるように、公だけでは実現できない生活課題の解決につながります。その最も重要な基礎である自治会の加入率の低下が進んでいることから、その意義と地域活動の魅力を広く発信し、加入促進を図ります。自治会が維持管理する防犯灯について、その公共性の高さを踏まえ、電気料金の全額相当額を交付します。まちづくり基本条例の検証にあたり、市民の声を反映させるため、アンケート調査やワークショップを実施します。

6.人権と平和を守り、郷土愛を醸成

人権を重んじ、平和を希求する取組を推進します。

部落差別をはじめあらゆる人権問題解決のため、人権施策基本指針に基づき、7月の「同和問題を考える市民のつどい」や12月の「いのち輝くまち☆こが」の開催などを通じて、人権について正しく理解してもらい、他人事ではなく自分事として捉えていけるような施策を展開します。令和4年度の古賀市役所の男性職員の育児休業取得率が100%になりました。この輪が民間企業にも広がるよう、男女共同参画・ジェンダー平等を推進します。性の多様性への理解促進のため、LGBTQなど性的マイノリティの当事者のメッセージや写真を紹介する「OUT IN JAPAN」パネル展を開催するとともに、啓発のポスターを医療機関などに配布します。また、パートナーシップ・ファミリーシップ宣誓制度を運用する全国の自治体との連携を強化します。ししぶ交流センターに新設した掲示板や各集会所を活用し、差別解消の啓発を行います。あわせて、センターの長寿命化に向けた調査を実施します。

国際交流と多文化共生の推進はこれからの時代の要請と考え、県やJICA、出入国管理局、市民の皆さまと連携して先駆的に取り組み、各方面から注目をいただいています。「遠い国の誰か」ではなく、「同じ地域に共に暮らす一員」として、外国籍市民等を含む市民誰もが安心して自分らしく暮らせるよう、多文化共生PR動画を制作し、出前講座やSNSなどを通じて配信します。外国につながりのある児童生徒が学校以外で日本語を学び、地域の人々と交流できる場を創出するため、交流型日本語教室に子どもに特化したクラスを開設します。

平和首長会議や日本非核宣言自治体協議会のメンバーとして、核兵器廃絶と世界平和に向けて取り組みます。平和への思いを後世に継承するため、名誉市民である中村哲さんの活動を通じて平和を考えるパネル展や上映会を実施します。

スポーツや文化芸術を地域振興に生かしていきます。パリオリンピック・パラリンピックに出場する古賀市ゆかりの選手を応援するため、パブリックビューイングを開催し、横断幕を設置します。サッカーJ1で年々成績を向上させているアビスパ福岡や、Vリーグ昇格をめざす女子バレーボールの福岡ギラソールのフレンドリータウンとして、市民の皆さまとともに応援する機運を醸成します。国史跡船原古墳から出土した金銅製馬具などの遺物の分析を進め、令和8年度の調査報告書の完成をめざすとともに、将来の重要文化財や国宝の指定を見据えた「保存と活用」の環境整備に向けた取組に着手します。「立花宗茂と誾千代」の大河ドラマ招致運動を継続します。スポーツ協会や文化協会との連携を強め、これらのイベントや事業の充実を図ります。

インフルエンサーや市公式SNSによる情報発信やPR大使などの人材活用を強化することで地域資源を活かしたシティプロモーション活動を推進し、シビックプライドの醸成と本市の認知度向上を図ります。

7.デジタル導入による市民サービス向上と業務効率化

なんのためにDXを加速させるのか。デジタルの社会実装で私たちの暮らしを向上させるためです。

市民の皆さまの市役所との接点で代表的なものが戸籍や住民票を取得したり、転出入や婚姻・出生・死亡届を提出したりするための窓口サービス。マイナンバーカード導入によるこうした手続きの効率化で、「行かない窓口」や「書かない窓口」に向けた取組を促進しています。その一環で導入したコンビニ交付による証明書の交付率は、令和5年末の段階で約5割に達し利用が拡大しています。つまり、アナログの窓口業務が減少しています。

デジタル導入で市役所業務の最適化・効率化を実現させ、市職員の働き方の変革を促し、政策立案などの仕事に振り向けていくチャンスです。そこで、市役所窓口の受付時間の短縮を検討します。そして、職員が複雑化・多様化する社会課題を解決するための「人間でしかできない創造性ある仕事」に取り組む時間を確保し、併せて時間外勤務の縮減と市役所の健康経営推進にもつなげます。

市公式LINEアカウントを活用した情報提供と電子申請メニューの拡大を図ります。「行かない市役所」を実現し、市民や事業者の来庁による負担を軽減するため、統合型・公開型GISの利活用を推進します。小中学校の特別支援教育就学奨励費の電子申請を開始します。道路舗装の路面損傷状況の調査費用や報告書作成時間の削減、補修優先順位の選定につなげるため、道路パトロール車両に計測機器を搭載し、収集データのAI分析による自動診断を実施します。

庁内DXのさらなる推進のため、地方創生人材支援制度を活用し民間企業からのDX人材を受け入れます。データに基づく政策立案のため、福岡工業大学と連携し、データ分析・可視化の取組を進めます。市役所の業務効率化を図るため、電子決裁機能を備えた文書管理システムを導入します。デジタル庁に引き続き派遣する職員との連携も密にし、政府の動きを確実に捉え、市政運営に反映していきます。

一方、誰一人取り残さないデジタル社会の実現も重要です。マイナンバーカード所持の有無にかかわらず、安心して受診できるようにするため、令和6年12月の健康保険証廃止に向けて適切に対応します。定期的なスマホおたすけ窓口の開設とあわせ、マイナンバーカードの取得申請が困難な人に対して出張による申請支援を継続します。

8.財政運営と令和6年度予算 

社会保障関係費や人件費などの義務的経費の増加や公共施設の維持管理費の増加などから、財政状況は厳しくなりつつありますが、持続可能なまちづくりのためには健全財政を堅持する必要があります。そのためには、財政健全化指標等を注視し中期的な財政状況を見通しながら、公共施設の維持管理コスト抑制、事務事業の見直し、企業誘致やふるさと応援寄附などによる財源確保、補助金や地方交付税措置のある市債を優先的に活用するなどの取組を推進し将来に負担を先送りしない健全な財政運営に努めていきます。

令和6年度の予算編成においても第5次総合計画のさらなる推進を図り、様々な課題の対応や重要施策を実施するため選択と集中による予算配分を行いました。

これまで述べたまちづくりを推進していくため、令和6年度の一般会計当初予算案は、前年度比5.3%増の過去最大規模となる267億5900万円としています。特別会計については、国民健康保険特別会計を前年度比2.9%減の59億3200万円、後期高齢者医療特別会計を前年度比12.2%増の10億9000万円、介護保険特別会計を前年度比0.8%増の45億400万円としています。また、公営企業会計については、水道事業会計を前年度比9.6%増の17億9300万円、下水道事業会計を前年度比7.1%増の40億7300万円としています。

これら全ての会計を合わせた令和6年度の予算総額は、前年度比4.1%増の441億5200万円となっています。

9.おわりに

令和6年は、主体性と能動性、決断し、実行する力が重要であることを実感する年明けになりました。

元日の能登半島地震。発生直後、全国の首長有志のLINEグループに、関西の首長の大先輩が「北陸地方の地震は大丈夫でしょうか」と書き込みました。その1分以内に、北陸の首長の大先輩から「相当揺れました」と反応がありました。全国青年市長会のグループでも、会長である関東の市長の発信を端緒にやり取りが始まりました。私が事務局長を務める「活力ある地方を創る首長の会」のグループでも、会員の石川県知事をはじめ被災地首長、支援首長からの即時的で詳細な情報共有がなされました。

古賀市はこれらの情報や小松市長の仲介を得て、羽咋市の避難所に備蓄物資の飲料水を1月4日の午前中に届けました。到着して荷下ろしの直後、飲料水は避難者の皆さまに配布されました。発災三日目、すぐに必要だったのでしょう。そこに、ニーズがありました。この頃、被災地首長からトイレ状況の悪化が報告されていました。古賀市は、福津市や岡垣町との連携で1月9日に送った第2弾の救援物資の中に、備蓄していた簡易トイレや排便処理セットを加えました。

政府や都道府県の動きを待つのではなく、基礎自治体同士のネットワークで危機を乗り越えていく。むしろそのネットワークがなければ、住民の暮らしを守ることができない。

平時の連携が有事に生きていると実感します。活力ある地方を創る首長の会は、コロナ禍の日々の中で当時の河野太郎ワクチン担当大臣とのオンライン意見交換を重ね、適時的確な情報共有により迅速な接種につなげることができました。令和5年12月、政府がライドシェアの導入方針を決めましたが、私たち首長の会の政策提言が満額回答以上で盛り込まれました。秋から、菅義偉前総理、河野大臣、超党派勉強会の小泉進次郎座長、国土交通省、内閣府の規制改革推進室など政府・国会と密に連携し、地方自治体の実情を踏まえ、協議を重ねた結果です。こうした自治体のネットワークから、新たに医療的ケア児者を応援する輪も広がっています。

「地方の時代」と言われて久しいですが、今こそ、その力を発揮しなければなりません。地域社会の現場で課題解決を図る自治体の存在が、持続可能性を高め、未来を拓く希望であると信じます。

令和6年度は市長2期目の任期が折り返します。「オール古賀」のまちづくりを進めるにあたり、市民の皆さま、市議会の皆さまのご理解とご協力、ご支援をここにあらためてお願い申し上げ、施政方針といたします。



なお、古賀市HPのこちらのページに、令和6年度予算案の概要とともにPDFも公開していますのでご参照ください。