たむお現代語訳『仮名手本忠臣蔵』九段目 雪転しの段 | はじめての歌舞伎!byたむお

はじめての歌舞伎!byたむお

  ◆「興味はあるけどみたことない」、「何回かは観たことあるけど」
  という人のための歌舞伎案内のページです。
  観劇日記や歌舞伎の情報のまとめの他に
  グルメ、国内観光、温泉情報などもあります。

『仮名手本忠臣蔵』をほぼコンプリート。

昨年の十一月、十二月の歌舞伎座での通し狂言
『仮名手本忠臣蔵』
それに、今年一月の歌舞伎座での、
九段目『山科閑居の段』
だいたいのストーリーは押さえられたという人も多いでしょう。

しかし、たむおブログでは細かいところまで追いかけて参ります。

今回は、九段目『雪転しの段』の現代語訳です。
『山科閑居の段』の前の場面です。

七段目の祇園一力茶屋にいた大星由良之助が朝まで遊んだ後に家へと帰ります。
八段目で、加古川本蔵さんの嫁と娘が力弥の元へと嫁入りに向かいます。

そして九段目が始まります。
ちなみにタイトルの「雪転し(ゆきこかし)」は、雪の玉をつくって、
コロコロと転がしてだんだん大きな雪玉にしていくこと。

それでは、と~ざい、と~ざ~い。


仮名手本忠臣蔵
九段目 雪転しの段


風雅を愛でるほどでもなく、洒落ているというわけでもなく、
ひっそりと山科に由良助の侘びた住居があります。

祇園の茶屋で遊んで、昨晩から今朝の夜明けにかけて雪が降り積もり、
由良之助は朝帰りです。

たいこ持ちや仲居に送られて、酒に酔って雪転しをしながらの帰宅。
(酔っぱらいの世話はメンドクサイ。。。)
雪を転がすつもりが、雪に自分がこかされちゃって。
いい年して子供のような遊び、お恥ずかしい。
(まっすぐ帰ってくださいよ。。。)

たいこ持ちさん
「旦那、もうし旦那。お座敷の景色はようござりますな。
お庭の藪に雪が積もっているところ、本当に絵になります。
見事であるなあ、お品よ」

仲居さん(お品)
「はい、こんな風景を見たら、他のどこへも行きたくなくなりますなあ。」
(酔っぱらいの家を褒めつつ、早く帰ってと催促)

由良之助
「ふん、朝や夕に見ればいいものかもしれぬが。
自慢の庭かもしれぬが、家で酒なんては飲めるか。
さあさあ、奥ヘ奥へ(家の中へ)。
奥(妻)はどこだ、お客だぞ。」
(現代だったら、奥さんブチギレで鍵を開けてくれませんが、)

と二人の先に立つて飛石を歩きます。
言葉もしどろもどろ、足取りもしどろもどろ
に見える、ご機嫌な酔っぱらいです。

「お戻りですか」
と女房のお石が出てきます。
「お寒かったでしょう。」
と、お茶屋で遊ぶ亭主に嫉妬するわけでもなく言葉をかけて、
酔いざましの塩茶をもって出てきます。
(奥さんはしっかり者)

由良之助は一口飲むと、
「これ、奥よ、無粋な真似を。せっかく面白く酔ったのに酔いがさめるではないか。
ああ、それにしても雪がだいぶ降ったものだな。
他の者たちが見たら、妻が嫉妬して酔いをさまさせていると思うかもしれんなあ。
雪は飛んでいるのは、布団の中に入れる綿が飛んでいるのに似ている。
(布団の話、下ネタへのイントロダクション)

奥と呼ばずにかか様と呼べば、だいぶ所帯染みた感じになる。
(お固い武士のように思っても、みんな(観客、一般庶民)と一緒ですよ~)

加賀の腰巻きヘのお見舞が遅くなったのは御用捨ください。
(腰巻きへのお見舞い、現代だったら、下着にご挨拶。
つまり昨晩の夜の相手が遅くなっちゃってゴメンね~)

伊勢海老と盃、穴の稲荷の玉垣は、赤くなければ気持ちがさめるというようなものだ。
(伊勢海老は男性器の象徴、盃、稲荷は女性の象徴ですかね。
七段目でも「舟玉様」と神様に喩えてましたし。
お互いラブラブモードのときじゃないとね。)

おっ、これこれこれ、こぶら返りじゃ、足の親指がつった。
おっと、よしよし。ついでにこうじゃ」
(エロ星由良之助、朝からのセクハラ。)

と足先で奥さんにイタズラ(腰巻きに朝のご挨拶?)
「ああこれ、おふざけなさりますな、いい加減にしてください。
酒を飲み過ぎると他愛がない。ほんとに世話がやける人ですね。」
となごやかににあしらいます。
(たいこ持ちとか仲居さんとか、まだいるのに。。。)

力弥が心得て奥より立ち出で、
「もし、母じゃ人(お母様)。親父様はお休みになられたが。これを。」
と桐枕を差し出します。
「おお、おお」
夢かうつつか、
「いや、もうみな帰りなさい。」
(たちの悪い酔っぱらいと思いきや、息子が来たら指示を出します。)

「はいはい、それならば旦那さま、よろしく。」
目を合わせると、居心地悪いのか、たいこ持ちと仲居は帰って行きました。

二人の声が聞こえないところまで行ったところ、由良助は枕を上げ、
「やあ、力弥。遊興にふける振りをして、丸めたこの雪。
理由があっての事だが、何であると思う。」

力弥
「はあ、雪と申すものは降る時には少しの風にも散り、
軽い身はありますが、あのように一致して丸まった時には、
峰の吹雪に岩をも砕く大石(おおいし)同然、
重いのは忠義、その重い忠義を思い丸めた雪も、
あまり日数を延ばしすごしてはと思い召してのことですか」
(一人ひとりの侍の力では弱くても、一致団結すれば大きな力に。
そして、そろそろ決断の時かと気持ちをはやらせる力弥。
「大星」由良之助ですが、「大石」内蔵助の話ですよという、
作者からのメッセージも力弥に語らせています。
奥さんの名前も「お石」ですね。)


由良之助
「いやいや、由良助親子、原郷右衛門など
四十七人の連判の人たちは、みな主(あるじ)なしの日蔭者。
日蔭にさえ置いておけば雪は解けない、
急ぐ事はないという事だ。
ここは日当たりだ、奥の小庭へ入れて置け。
蛍を集めて雪を積むのも学者のゆったりと構える心のたとえ。
(あせることはないと、悠然と構える由良之助でした。)

(屋敷につかえている)女ども、くぐり戸を内から開けておけ。
堺への手紙があるから、飛脚が来たらば知らせてくれよ。」

女ども
「はい。」
と返事があって、くぐり戸の内では雪玉を移動させて、
由良之助は、力弥、お石とともに襖のうちへと下がります。
(そして、堺へ手紙を書きはじめます)

(了)

床本は豊竹咲甫大夫さんのホームページのスクリプトを参考にしました。



[DVD] 人形浄瑠璃文楽名演集 通し狂言 仮名手本忠臣蔵 Vol.3



歌舞伎名作撰 假名手本忠臣蔵 (九段目・大詰) [DVD]


この後に『山科閑居の段』へとつながります。

ということで、この段を見ていると『山科閑居の段』を見るときに、
屋敷の中には女房のお石の他に、由良之助、力弥がいるな、
とわかっている訳ですね。

敵討ちのストーリーとしては大事なところではないので、
カットされがちな場面ですが。
堺、つまり天河屋義平の話もカットされることが多いので、
「堺」と言わない方が整合性がとれるのでしょうか。

ただ、由良之助と女房お石の仲睦まじい様子などを味わう
ファミリードラマとしてはいいエピソードではないでしょうか。

七段目に続き、酔ったふりして下ネタ。
下ネタでも直接的ではないので品がありますね。

堺への手紙、次回は『天河屋』のお話を。

史実では「天野屋利平は男でござる」、
仮名手本忠臣蔵では「
天河義平は男でござる。」ですね。


【メール便可】七世竹本往大夫 第3弾 三大名作を語る 『仮名手本忠臣蔵 山科閑居の段』



仮名手本忠臣蔵



『一谷嫩軍記 熊谷陣屋』の現代語訳が終わってないのに、
手を広げてしまった。。。