この世の中でじぶんだけのけ者にされているような、誰のためにも、そこらへんに生えている雑草のためにだって、一つも役に立っていないような、そんな風に鬱々とする時、ありませんか。私はあります。それほどしょっちゅうじゃないけど。

それと、自分の力では到底叶わない物事に出くわして、怒りを覚えるとき。その怒りの納めどころを探して途方に暮れてしまうとき。

そういうときの対処法を、自分なりに何と無しに会得出来たような気がするので、記録しておこうと思います。


またもや日本での話です。
帰国中、楽しみにして絶対に観に行く気でいた展覧会が幾つかありました。その一つが横浜のトリエンナーレというアート祭りで、3年に一度に偶然出会わせた奇跡、そして今回はあの森村泰昌さんがディレクターと言ったら、ふつう行きますよね。私だったら絶対に行きたい。ところがあろうことかこれをミスしてしまったのです。

その日、三姉妹は両親と出かけていて、私と夫で四番太を連れていました。一人なら余裕、と言いたいところが、四番太に限っては手に余る…何しろ、ゴムまりに手足がついたようなひとなので。

夫はたまったメールの返信を先にしたいと言うので、じゃあその間近くのモールのプレイグラウンドで四番太のエネルギーを発散させることにしました。

初めてのプレイグラウンドで、体力の限界まで遊ぶ二歳児を眺めるのは、それはそれは楽しく気持ちのいいものでした。途中トランポリンで飛び跳ねながら意識が遠のいていてびっくりしましたけどね。文字通り「ちからのかぎり」遊んだ四番太、プレイグラウンドを出てベビーカーに乗せた途端、こてんと寝ました。

で、仕事を終えた夫と、いそいそと美術館へ。四番太も寝ているし、夫と二人きりで嬉しくてご機嫌な私の前に現れた「閉館」の文字。

え?
英語で言ったら、
How come ?ですよ。

美術館て、5時で閉まるの?
じゃあ仕事してる人は来られないじゃない。

大体、夫はもっと段取り良く仕事をすませればよかったんじゃないの。


とか色々、もんもんとしました。
でも結局、誰かを責めたり怒ったりしたいのではなく、私は純粋に悲しかったのですね。すごく楽しみにしていた展示が観られなくて。

それで、黙って何にも言わないで、美術館の前から動かないで、はらはらと涙を流れるままにしておきました。あほですね。怪しいことこの上なし。

夫も私からの怒りのオーラを感じつつも別に悪びれることなく、黙って泣いてる私から遠く離れたところでこんこんと眠る四番太を載せたベビーカーを押しながらぐるぐる歩いてました。で、実は彼はその間、他のエリアでの展示は外だからまだ観られると言うことを突き止めていて、そこへタクシーで行くことを私に提案して来ました。

でも時間的に他のエリアに行くのは難しいということは分かっていました。夫はそれでも私のためにつきあってくれる気でいたので、じぶんで「いや、やはりそれは」と断念しました。

夫や勿論自分も含め色んなことに腹を立てていたけれど、さんざん泣いて、その間放っておかれて、それでそういう親切な提案を受けて、突然私は「じゃあ、せめて悲しい私に何か甘いものを」と夫に無心しました。


甘味を無心した時に、怒りや悲しみから解放されたのを感じました。本当はもっと色んなところでトリエンナーレを体験したかったけど、それにもあまりこだわらず、すんなり諦めることが出来ました。

これはかなり、すごくうれしい出来事でした。普段なら怒りを撒き散らして、自分も周りも不愉快になるのがオチですからね。

がっかり度合いがすごすぎて、そういうことに使うエネルギーすらも消耗しきっていたのでしょうかね。怒るのってすごい疲れますから。


とにかくこういうときのポイントは、

・黙って悲しみと怒りに暮れる。
・周りはそれを放っておく。

です。

放っておくっていうのが、周りもなかなか難しいものがありますよね。それは自分のせいではないということを当事者に弁解したくなりますし。ついでにそれは自分が気をつけてなかったせいでしょ、とかって責めたりね。今回の夫はそれを見事にやりませんでした。

私も自分の感情を誰かに向けることをせず、ただただ味わうことに努めました。誰が何と言っても、そうする権利は誰にでもあるんです。例えそれが自分の不注意で起こった出来事であったとしても。

だからなるべく、怒ってる人がそばにいたら、優しい言葉をかけて怒りを和らげるだの、何かお菓子をあげて誤魔化すだのなんてことはしないで、ただ放っておいてあげるのがいいですね。

自分が怒りを感じたときは、あんまり周りのせいにしないで、ほんとうに自分が何をしたくて何が残念だったのか、少し黙って見つめてみるといいですね。


そんなこと言っても、ぷりぷり周りを責めちゃうことはよくあるのですけど。怒ってる誰かに、自分のせいでしょって言っちゃったりとかも、よくありますけど。


自分も、ひとのことも、放っておく練習をします。

mica