2011-05-16 10:56:35

第181回_相馬愛蔵_客様本位の商売(大災害から立ち上がった男達⑫)

テーマ:食品

311日の東日本大震災が起きて以降、被災地のあるスーパーの品物が値上がりしていて、消費者がこんな時になんで値上げをするのだろうと不快感を示している映像がテレビで放映されていた。テレビ局の人が店員にインタビューすると、値上げをしたのではなく今まで大量仕入れが出来ていたので値段を下げられたが、震災の影響でそれが出来なくなり、値下げが出来なくなったので定価で販売することにしたということであった。








 このことは店側を攻められないし当然の商行為というべきであろうが、お客様の気持ちを損なっては、後々の商売は先細るだろう。普段から本当にお客様本位の商売をしている人はもう一歩踏み込んだ対応をしており、こういう緊急事態にこそ、そのことが現れるものであろう。










 1917年(大正6年)明治から昭和初期に活動したアジア主義者の巨頭、頭山満(とうやまみつる)や犬飼毅(いぬかいつよし)(後に第29代内閣総理大臣)らに頼まれ、新宿を拠点にパンや菓子の販売をしていた相馬愛蔵(そうまあいぞう)はインドの独立運動家のボースを匿うことにした。ボースは故国をイギリス植民地政府に追われ日本に亡命してきていたのである。店の裏にあるアトリエを隠れ屋に4ヶ月間ほど匿った。その間、お互いに情けも移り家族同然の仲になり、頭山の勧めもあり相馬の娘、俊子がボースと結婚する。間もなく日英同盟破棄により英国の追求は終わり、ボースは日本に帰化したが不幸にも俊子は28歳の若さで亡くなってしまう。





 


 1927年(昭和2年)、相馬は喫茶店の開業を手掛けることを決めた。この時に相馬家に強い愛情と感謝を抱いていたボースは恩返しをするため、故国の純インド式カレーを伝授した。当時の日本には英国から入ってきたカレーはあったがインドの本場のカレーとはほど遠かった。ボース直伝のこのカレーが日本初の純インド式カレーと言われ、現在も同店のメインメニューとなっている。この相馬愛蔵が中村屋の創業者である。


 







 相馬が郷里の長野県から東京の本郷に出てきたのは1901年(明治43年)で32歳の時であった。商家の家系でもなく商売の経験もなかったが勤め人は性に合わないと夫婦で商売をすることを考えた。そんな時に帝国大学(現東京大学)前でパン屋をしていた中村屋の中村店主が店を譲りたいと言ってきた。米相場で失敗して経営が成り立たなくなっていたのだ。相馬夫妻が店を譲り受けてからが現在の中村屋の創業といわれるが、何故、商売に素人の相馬が成功できたのか色々な要素があるだろうが、一つにはどこまでも誠実に、従来の商習慣にとらわれず、掛け引きなどもせずお客様本位の正道を貫いたことであろう。








 同郷の長野県出身の後輩にあたる岩波茂雄(岩波書店の創業者)は教員を辞めて神田神保町で古本屋を開いたのが商売のスタートであったが、始める前に相馬夫妻に色々と教えを受けている。そんな岩波は後に相馬のことを「私が畏敬する大先輩であり、敬服するのは商売気質に堕せず志業を大成したこと。氏の如く独立独歩自由誠実の大道を闊歩して所信を貫くことは至難である」と語っている。







 このことは関東大震災時の相馬の行動で伺い知ることが出来る。1923年(大正12年)91日に大震災に遭遇するが中村屋は幸運にも被災は免れた。しかし店頭には食なき人々が押し寄せてくる。相馬は商人の義務として中村屋の社員一同毎晩徹夜で製造を続けた。そして小麦粉は原価で販売し、パンや菓子は普段よりも1割安く販売した。平素のお客様本位の考えがそうさせたのであろう。










 ところが結果的に中村屋は震災を機に売上が34割増加していた。後で分かったことが他の店の多くが幾割か値上げをしていたが、中村屋はそれをしなかったことに好感を持った人が増えたということであった。 


  




                             以上






偉人列伝【昔の創業者、名経営者、政治家の秘話、エピソード大公開】          -一商人として
偉人列伝【昔の創業者、名経営者、政治家の秘話、エピソード大公開】          -相馬愛蔵






相馬愛蔵の著書「一商人として」 岩波書店


岩波茂雄が商売を志す人の教科書と評した





文責 田宮 卓










参考文献





相馬愛蔵「一商人として」岩波書店

加来耕三 「日本創造者列伝」 人物文庫 学陽書房

加来耕三 「成せば、成」 一二三書房





























































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コメント

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28 ■Re:今晩は!

>みゅうさん

初めまして!
コメントいただきまして有難うございます。

お客様本位の考えを普段から実践している会社がいざという時にもそれが出来るのだと思います。関東大震災では「カルピス」、「森永製菓」も被災しながらも無料で自社の食品を配りました。
結局こういう企業が消費者に支持され長く残るのだと思います。

食品業界は特に震災に関係なく苦しくなると偽装表示や、産地をごまかしたりしがちです。
こういうことはいけませんよね。

今後ともどうぞ宜しくお願いします。

27 ■無題

ぺタありがとうございます♪
感動です!
今の世の中 利益利益・・・
仕方の無い事だとは思いますが
中村屋さんのお客様本位は凄いです。
損して特とれ では無いですが
結果的には 儲け様としていなくとも
値段を吊り上げた所より
お客様が増え回転率も上がり 何処よりも
利益は出たんでしょうね。
良い事をした人には 必ず同じ良い事が返ってくるのですね。
勉強になりました♪

26 ■Re:こんにちは(^u^)

>Naoさん

コメントいただきまして有難うございます。
そう言っていただけると嬉しいです♪♪♪

これからも頑張って更新していきますので
どうぞ宜しくお願いいたします(^-^)

25 ■無題

 

 

ブログ…


読み入ってしまいました f^_^;



24 ■Re:今晩は!

>さくらさん

初めまして!
コメントいただきまして有難うございます。
「お客様目線」実践するとなると容易ではないですよね。「ホスピタリティを目指すこと」素晴らしい取り組みですね。常にお客様の動向に気を配り研究していないと出来ないことだと思います。

私も頑張ろうと思います!

今後ともどうぞ宜しくお願いいたします(^-^)

23 ■興味深い内容でした

はじめてサクラともうします。スーパーマックスバリューにフレックス社員として勤務しています。それで、貴方のブログ興味深いと思い読ませて頂きました。お客様目線はいつも大事なこと。ホスピタリティを目指すことがお客様を大事にしていることに繋がるのではと考えています。これからも貴方のブログ読ませてくださいね。

22 ■Re:おはようございます(^u^)

>miyan*さん

そうですよね。
最近も食品業界では、表示を偽ったり、誤魔化したりする事件が続いておりますが、ゆとりがなくなるとどうせ分からないと思い苦し紛れにしてしまうようですね。

このことは自分自身にもあてはめて、苦し紛れに間違った選択をしないようにしたいですね。

また宜しくお願いいたします。

21 ■一番嫌なのは

偽善
ですね‥(´・ω・`)
ギリギリの状態になったとき
自分はどんな道を選ぶのか
間違わないようにしたいです☆☆☆

20 ■Re:こんにちは(^u^)

>クリボーさん

コメントいただきまして有難うございます。
そう言っていただけると嬉しいですね。
今後も頑張って更新していこうと思います。

どうぞ宜しくお願いいたします。

19 ■Re:こんにちは

>RoseSunさん

こちらこそコメントをいただきまいて有難うございます。大変嬉しく思います。

実は私と全く正反対のような方が数名このブログを読んでくれております。私もその方のブログを読みます!(^^)!

自分と違う世界のことを知ることはとても大切と思っておりますので私の方こそ宜しくお願いします(^u^)

18 ■Re:こんにちは

>夢おじさん美瑠偉さん

コメントいただきまして有難うございます。
森本哲郎先生の著書に通商国家カルタゴは理念を無くし、利益の追求のみに走ったから滅んだといったような内容が書かれておりました。

この本を読んで理念や道徳が無くなると栄えた商人も落ちるのかなとそんな風に思いました。

「商人の栄えるところ、道徳は地に落ちる」この言葉は初めて知りました。今後の研究材料にさせていただきます。

コメントに感謝いたします。
今後とも宜しくお願いいたします。





17 ■Re:コメントいただきまして有難うございます。

>ケーオーこと大武賢治さん

私も緊急時にこそ、事業理念や商売の原理原則が求められるのだと思います。結局、平素そのことが出来ているかどうかは緊急時に現れるのだと思います。

相馬さんがボースを助けたのは、英国の卑怯な
追及の仕方に屈しないという気持もあったようですね。

「志業」という言葉、実は初めて知りました。手元の辞書にものっておりません。

この言葉、奥が深さですね。一度調べてみようと思います。

こちらこそ何時も勉強になっております。
有難うございます。

16 ■Re:こんにちは(^u^)

>今日も頑張る営業マンさん

コメントいただき有難うございます。
ゆとりが無くなるから数字だけを追っかけるようになるのか、顧客のことを考えないからゆとりが無くなるのか分かりませんが、
顧客第一主義が単なるお飾りになった時点で難しくなっていくのでしょうね。

相馬さんは商売に素人でしたが、この当たり前のことを貫いたところが凄いのだと思います。

また宜しくお願いいたします(^-^)

15 ■こんにちは!

良い話しを分かりやすく教えて頂きありがとうございます。(^^♪

14 ■ありがとうございます

ペタ、ありがとうございます。
こんなに異ジャンルの方が、わたしの小部屋にいらしたら、さぞ、驚かれたことでしょう。

でも、こちらの記事、スムーズにストレートに頭に入ってきて、とっつきにくくないですね。ありがたいです。
不特定多数に伝えることができるってすごい。
いろんな影響を受けながら、歳を重ねていきたいので、また、おじゃまさせてください。

13 ■おはようございます

商人の栄えるところ、道徳は地に
落ちるという言葉があります。

これは一面的な見方だと、わかりました。

12 ■Re:今晩は(^u^)

>ろばーとさん

コメントいただきまして有難うございます。
中村屋自体は打撃はそんなになかったようですが被災者には変わりないと思います。

そんな中、相馬さんの頭の中にはとにかく製造し食料に困っている人達に何がなんでも提供するんだ、こういった気持であったと思います。利益は考えてなかったと思います。このことが顧客の気持ちをつかみ結果的に儲かったんでしょうね。

平素から人を大切にしているから緊急時にも出来るのだと思います。全ては人とのかかわりで
成り立ってますよね。!

また宜しくお願いいたします。

11 ■事業の原理原則、

通常の時はもちろん、災害時にこそ事業理念の原理原則が求められます、岩波茂雄氏の言葉が出て来ますが確かに「志業」という原理原則があればこそですね。

また、幕末の商人がいわゆる志士を助けたような気風が受け継がれていたのでしょう。
アジアを解放しようとする革命家ボースを援助したのも明治日本の気概であり、震災に負けないで志を掲げた商道は日本再生にとって大事なことだと思います。

この「志業」という言葉、勉強になりました。
ありがとうございます。

10 ■こんばんは

会社の社是なんかでも、顧客第一主義とか
ありますよね

実際はどれだけの会社がホントに実行できているのか?
いざとなれば、利益至上主義になるも少なくありません
人として、相手の立場になって商いはしたいものです

9 ■Re:コメントいただきまして有難うございます(●^o^●)

>おさむしさん

中島岳志さんの「中村屋のボース」
この本面白そうですね(^u^)
探してみます。

私もネットで調べましたが
チャンドラ・ボースと中村屋のボースは別人ですね!(^^)!私もブログにアップする前に気付いて良かったです(笑)

カルピスもそうですが食物のルーツを調べるとロマンがあった面白いですね。

また宜しくお願いいたします!

8 ■Re:今晩は!

>ドクター臼井さん

コメントいただきまして有難うございます。

理想をいいますと普段から色々な面で貯えをしておくことが一番なのだと思います。そうするといざという時に中村屋のような対応が出来ると思います。

ただ今どこも厳しいのでギリギリで運営しているところばかりだと思います。そうするとどうしたらいいか・・・難しいですね。

松下幸之助さんの「ダム式経営」ではないですが、普段から備えておくように心がけることが大切かもしれませんね。

また宜しくお願いいたします。

7 ■Re:こんばんは!

>Twinちゃんさん

コメントいただきまして有難うございます。

今は物自体はありますので、そういった意味では昔と比べると恵まれているかもしれませんね。


6 ■無題

商売であろうが,
何であろうが,
結局は人間対人間。

お金はただの道具。

ただ,非常時の
行いに対する
対価としてお金が
入ってきただけ。

そう考えると
お金にしばられて
いくのではなく,
人間としてどう
付き合っていくかが
問われているのでしょうか。

今回の素敵なお話
ありがとうございました。

5 ■Re:今晩は!

>不動産エージェントさん

コメントいただきまして有難うございます。

「商売人は、ときとすると、駆け引きをし、嘘をつくことを商売の常道と考えがちであるがこれはとんでもないあやまちだ。世の中に立っていく以上は、士魂商才の精神を持って進まなくてはならない。」この言葉は旧豊年製油((現J-オイルミルズ)創業者の杉山金太郎氏のものですが、昔はこういう経営者が結構いたようですね。

ただ外国人を相手にした商売となるとなかなか一筋縄ではいかないようですが・・・

また宜しくお願いいたします(^-^)

4 ■中島岳志さんの「中村屋のボース」

という各紙の書評でも高評価だった著作があります。
読んでみたいと思いながら、まだ果たせていません。
インドの独立運動家ということで、インド国民軍を率いてインパール作戦の日本軍と行動を共にしたチャンドラ・ボースと同一人物だと思っていたのですが、ネットで調べたら別人でした(笑)
インドを日本軍の力を借りて解放しようとしたボースと区別するために「中村屋のボース」が通称になっていると書いてありました。
コメント書く前にわかって良かったです(笑)

3 ■無題

お店に責任はありませんし、昨今ぎりぎりの経営のところも多いかもしれません。お客様の思いももちろん大切・・・。ともあれ難しい問題ですね。
いつも興味深い記事ありがとうございます。

2 ■状況ゆえってのもありますが

需要と供給で今と昔の差をこの記事で感じました。

しかも個人的マイブームでもあるカレーのお話ですから尚更でして・・・

1 ■こんにちは、

掛け引きなどもせずお客様本位

この言葉は心にしみますね。

今日もいい話よませてもらいました。

また、更新楽しみにしてます。

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