TEL・・・・・
『もしもし、お邪魔しても良いですか・・・?』
「え“・・・菊右衛門さん・・・良いですよ。」
懐かしい声に即OK・・・30分程して現れる。
「や~お久しぶりです、もう勇退されたとばかり思っていましたが・・・」
『まだ、若いですよ・・・ただ、1年半ほど前に胃癌の手術をしましてね・・・』
気になって、言えなかったが、げっそり痩せている、そのせいなのか急に老け込んだ風にもみえるが?
「あ~それで、お越しが無かったのですね・・・で、てっきり退社かと決めて・・・ハハハ」
『ハハハ・・・皆にそう言われますわ・・・ハハハ』
当の本人は至って元気だが、食が細くすぐスタミナ切れ状態になるのには閉口するとか?
『何回でも喰えと言われても、そんなに喰えるものじゃありませんよ・・・』
この御仁が、先般紹介した、名前の襲名家の現当主なのだ・・・
本人が近所のお年寄から聞いた話によれば、昔はその地区の庄屋で大変な地主であり、分限者で有たらしい。
そのためか、何代も名前を世襲制としたとの書類があると云う。
現在も手続きは簡単で、家庭裁判所でそれなりの理由があれば、変更が可能であるようだ・・・
「当然、息子さんに、継ぐのでしょうね?」
『さ~どうでしょう、戦前までは中国にまで出かけて、大層な事業を展開し結構な威勢でしたが、終戦後はそれが原因で没落の一途ですわ・・・無理には言えませんよ・・・』
「いや~勿体ないですよ、是非にも継がせるべきですよ・・・」
『確かに、名刺を出すと話しが進み、メリットがありますがね・・・』
ただし、同じ話の繰り返しに辟易することもあるという。
『実は、世襲と言っても、歌舞伎と違って、本人が生きている内は同名の者が2名になるので無理ですわ、私が死んでからの話なのでね・・・・』
確かに、決定するのは、後継者なのだろう・・・
『それに、妙なプレッシャーと、煩わしさがありましてね・・・』
『ま~屋号で残るから良いですよ・・・』
なんとなく、自信なさげに淋しそうに笑って居たが・・・・?
時代も変わり、肩の荷を下ろしたいのも分かるような気がする。
屋号自体も、昨今の住宅には存在しないのだか・・・????