延長上映のおかげで間に合いました。
観る前は正直どうかな?という気持ちも強かったのですが、観られて良かったです。
シンプルに面白い映画でした。
ドキュメンタリー映画の監督が撮った初めての劇映画。
過去の隠されてきた凄惨な事件を元にした映画。
何となく思想性の強そうな映画。
そんなイメージを持って敬遠されている方も多いでしょう。
僕もそうでした。
まあしかし!
虐殺がクライマックスの映画でもあります。
「激動の昭和史 沖縄決戦」みたいなすごい映画だったら、観ないと損だな。
そんなエキセントリックなものを期待しているところもありました。
実際観てみれば、実にオーソドックスに娯楽として楽しめる、邦画エンターテイメントでした。
虐殺までが退屈かも?と思いましたが、全然そんな事無かったです。
以前ナチス映画だと思ったら、内容はほとんど不倫ラブストーリーだった、という経験がありました。
本作も「ネトラレ」話が結構な割合です。
ただ、そこには旦那が勃たなくなった真相とか、村の人間関係だとかが絡んでくるので、無意味な設定では無いと思います。
「不倫と言えば東出昌大だろう。」
そんなシンプルで力強いキャスティングだったのでしょうか。
この映画の彼は、男から見てもセクシー過ぎる船頭です。
なるほど、これはやってしまいます。
セックスレスとはいえ、田中麗奈も初代水曜日のカンパネラも、ムラムラするのは当たり前。
東出、麗奈、初代、骨壺の四角関係は、本作のメインドラマとなっています。
そう、この映画は様々な人々による群像劇となっているのです。
大きな商業映画でもないのに、知っている顔がチラホラ登場します。
一人だけお色気シーンで良い思いをする柄本明。
彼はよく志村のコントにも出ていましたが、あんな感じの楽しいシーンをやっています。
もうこんな役得でも無ければ、いちいち映画なんか出ないでしょう。
ジジイを説得するには、金じゃなくお乳だ!
ピエール瀧も出ています。
どうせ軍人役だろ?と思ったら、なんと新聞社のえらい人。
実際は報道された方なのにね!
この映画の中でも、結局「瀧が悪い」と思わされます。
でも「アンと匂いの木」ツアーのチケットは買ってしまったので、今度こそライブまでに逮捕されないでいて欲しいです。
演技経験のほとんど無い水道橋博士も、かなり重要な役で出ています。
普通だとこっちがピエール瀧だろう、という感じのバリバリの右系軍人。
でも彼がやったおかげで「実際には皆に馬鹿にされていそう」な感じが出ていてとても良かったです。
彼はこのあとうつ病になってしまいました。
それって、政治家になったプレッシャーと言われていますが、実はこの映画が原因じゃないか?とも思わせる、真面目な人にはかなりキツイ役だったと思います。
こんな人々の様々なドラマがなかなか面白いのですが、当然クライマックスは虐殺です。
虐殺起きるの?起きないの?どっち!という感じのサスペンスが続くのです。
どうにか虐殺が起きないよう尽力した人が結構いて、これもう起きないんじゃね?という気持ちにもさせます。
もちろん起きなかったら、劇場で暴動を起こすのは我々ですが。
安心してください。
虐殺は起きます。
しかし、ここではもう、人々は良識を失った土人になってしまったかの様です。
「世界残酷物語」は土人を差別的に描いたとされますが、この映画でも福田村の人々はマトモじゃない土人みたいに見えるのです。
でも思い返せば、世界中に虐殺の歴史はあり、それを描いた映画の中では皆、人間は土人と化すのです。
つまり、これは普遍的な人間の姿。
恐怖というものの前では、人間はこんなに簡単にバカバカしい存在になってしまう。
そういう事をまた、思い出させてくれる映画でした。
正直、終盤の虐殺シーンでは笑ってしまいました。
ちょっとブラック・コメディ風に描いている様にも思えます。
アッ、子供が一瞬で人形に!
そんな風に思わないとちょっとキツイと思った僕の、防衛本能がそうさせたのかもしれませんが。
悲惨なだけじゃなく、最後にはホロリとさせたり、希望を描いたり部分もあるので、うまくバランスが取られていると思います。
こんな胸糞には耐えられない、という人にも挑戦してみて欲しいです。
・・・しかし。
その希望の一つである「マトモなマスコミ」が、現在の日本では絶滅してしまいました。
ちょっとあったはずだけど、もうなんにも無いな、希望!
そんな風に、後から絶望が押し寄せてくるのでした。
SNSでは人間を装ったシステムが、マトモな人々を嘲笑、罵倒しています。
楽しい話、面白い話をしてくれる魅力的なインフルエンサーが、デマを流します。
政府は国民をさらに苦境へ落とすための新アイデアを次々と発表、実行しています。
何か信じられないほどバカげた悲劇が、今日も起きようとしているのです。