今年の3月に、アイザック・エスバン(イサーク・エスバン)監督の作品2本「パラドクス」「ダークレイン」のレビューを書きました。

アイデアは非常に面白いが、映画としてはイマイチ。

でも、それぞれの映画でしか見られないものがあるので、是非観て欲しい。

そんな内容でした。

 

 

そんな彼の新作「イビルアイ」が日本でも公開されるなんて、その時は思いもしませんでした。

しかも我が地元、静岡でも!

狭い劇場でしたが、それなりにお客さんは入っていました(全員男性)。

評判も良いし、プロモーションにも力が入っている。

いよいよ、彼の時代が始まったのでしょうか。

 

前回レビューした2作は、ホラー要素もありましたが、どちらかと言えばSFでした。

今回はかなりガチのホラーみたいです。

明らかに予算も増えているので、やはり彼には一定のファンが居て「キミの映画がもっと観たいかな!」という励ましと出資があったのです。

今回はキッチリ売らなくては、という監督の気合も感じられます。

 

まず、驚かされました。

なんだよ、ちゃんと面白い映画も撮れる人だったのか!

やれば出来る男、それがエスバン監督です。

俺は信じていたよ!

 

いわゆる「魔女伝説」と、「家族ものホラー」をブレンドした、これまでとは違う、シンプルで馴染のある設定です。

主人公は幼い姉妹。

そして気持ち悪いババアの登場!

今回は定番の内容で、俺の恐怖演出の手腕をきっちりとプロモーションしてやるんだ!

そんなストレートなホラーが展開されるのでしょうか。

 

いやいや、それじゃエスバン監督じゃありません。

彼のこれまでやってきた映画と、今回も同じ事をやっています。

つまり、オリジナルで奇抜な世界観と、サプライズ展開。

彼のやりたい事は、常に明確なのです。

 

内容については詳しく触れません。

それは、この映画が「一体どういう映画なのか」を考えながら楽しむタイプだからです。

ホラーなのかSFなのか、心理サスペンスなのか。

実は、結構終盤までこの部分を隠しています。

ホラー演出はたっぷりありますが、姉妹が聞かされる魔女伝説の話とか、現実か夢か分からないシーンとかばかりです。

 

なかなか引っ張るので、少々じれったくなるかもしれません。

しかし、終盤になると一気に真実が明かされ、展開もスピーディーになります。

一体、どういう終わり方になるのか・・・?

最後の最後まで、まったく予想できません。

 

終わってみれば、「エ~、こんなにすごい話だったのか!」と呆気にとられました。

ババアがキモいどころじゃない!

また、これまでの作品同様、非常に意地悪な展開と余韻を残します。

終盤のあるシーン、すでにある事実を観客は知らされているため、「ウワ~、これはヒドい」と思ってしまいました。

知らなければ、むしろ痛快なシーンなのに。

さすがエスバン!

 

ホラー好きな方、そして油断ならない映画が好きな人にはオススメしたいと思います。

シンプルなホラー演出にニコニコしながらも、時々感じる違和感を忘れないでいただきたい。

突飛な展開はあるものの、非常に観客に対してフェアに作られている(想定するヒントは提示されている)し、オチに対しても過剰なくらいの丁寧な説明があります。

 

彼の弱点として、登場人物が魅力的に描かれない、役割を演じているだけの様に見えてしまうという点があります。

これは、物語の「仕掛け」を最優先にしているので、過剰なキャラの描き方は邪魔になるからでしょう。

ミステリーにおいて、人物が描かれないと批判されるのに似ています。

 

退屈に感じてしまう理由の一つがこれだと思います。

本作にもそういう部分はありますが、酷い目にあう無邪気な妹と、彼女をどうにかして守ろうとする姉についてはキッチリ描かれているため、こちらも感情移入してしまいます。

だからこそ、エンターテイメント性を獲得できたのだと思います、

もちろん、こうしたドラマもすべて、必要なパーツの一つではあるのですが。