現役清掃員が明かす多目的トイレの
あまりに多目的な使われ方
 

 * * *

 

「 トイレの中に監視カメラはつけられませんから、

多目的トイレの使われ方なんて普通の人は

わからないだろうけど、よくもまあみんな

思いつくもんだと思います 」

 

新宿の商業施設で清掃業務につく原西徹さん

( 仮名・47歳 )は怒るでもなく淡々と語ってくれた。

原西さんは清掃会社の契約社員。

他のパートの清掃員、主に高齢の女性たちと

ともに日々施設の環境美化に取り組んでいる。

 

「 トイレは基本的に男女とも女性がやりますんで
私は指示だけです。  まだ契約( 社員 )ですけど
現場の仕切りもやってます。
仕事は慣れたら難しくもないし楽です 」

 

日常清掃は決まった作業の繰り返しだ。

季節やイベントによって作業計画表が変わったり、

人が辞めたりで作業量が増えたりもするが、

正社員のように営業や人事、管理などの仕事は

ないのでいまのところ気楽だという。

 

清掃は女性優位だ。

男性は女子トイレの清掃はできないが、

女性、とくに高齢の女性は問題ない。

これにとやかく言う輩も多いが現実である。

しかし多目的トイレに限れば男女兼用、

原西さんも担当する。

 

「 一般トイレよりひどいですよ。

商業施設なんで駅のトイレほどじゃない。

私は駅のトイレ清掃も経験ありますけど、

あっちは汚物と格闘ですが、商業施設のトイレ、

特に多目的トイレは変な利用者との格闘です 」

 

格闘とは面白い言い方だ。 実際そうなのだろう。

日々、誰もが自分の排泄物を無自覚に垂れ流す。

そんな見知らぬ人々が汚すあらゆるものを綺麗にする。

絶対になくてはならない尊い仕事である。

ましてここは新宿、日本有数の繁華街であり

歌舞伎町を含めて一筋縄ではいかない者たちの

るつぼなわけで、迷惑をかける連中は枚挙に

いとまがないだろう。

 

「 食事してるのはよくいますね。 長居されるんで

困ります 」

いわゆる 「 便所飯 」 というやつか。

大学で友だちが居なくていつも一人きりの学生は

聞いたことがあるが、新宿の多目的トイレでは

サラリーマン風が多いという。

コンビニ弁当を持ち込んで食べているのは序の口で、

いったいどうやって持ち込んだのかカップ焼きそばを

食べたであろう四角い容器が落ちていたこともあったそうだ。

いずれにせよ、どうしてトイレで食べるのか理解に苦しむ。

 

「 あと着替えが多いかな、脱いだ下着がそのまんま、

だいたい汚れてるんですけどね 」

マナーの悪さに男女の区別はない。

 

「 ノートパソコン持ち込むビジネスマンもいますよ。

最近来ないけど同じ男が定期的に持ち込んでました 」

多目的トイレでSOHO気取りなのか何なのか。

確かに一等地で便利そうだが迷惑な話だ。

 

「 めったにないけど、男女で入るとか、男同士で

入るとかは実際にありましたね 」。

まあ普通に考えれば多目的トイレに健常者が

ペアで入ることはないだろう。

片方の具合が悪く吐きそうとかはあるかもしれない。

「 いやそんなのはすぐわかりますよ。具合が悪いとか、

障害者の付き添いとかじゃないってね 」

 

原西さんが現認することもあるが、だいたいは

施設警備からの報告だという。

「 多目的トイレの入り口にはカメラがついてますから。

誰が入ったか出たかはモニターで施設の人が

監視してます。  悪い人を捕まえるとかじゃなくて、

ずっと使用中だと苦情が来るんです 」

 

それはそうだろう。

多目的トイレは障害者、高齢者や乳幼児を持つ親、

人工肛門利用者( オストメイト )のためにある。

1994年のハートビル法、2000年の交通バリアフリー法

( 東京都の条例では 「 福祉のまちづくり条例 」)を経て、

現在のバリアフリー設計の多目的トイレが整備された。

使う人の大半はやむにやまれぬ人々だ。

健常者が使うのは構わないが、目的外利用は

言語道断だろう。

「 でもちょっとの隙に二人で入られたり、見かけで

判断するわけにもいかない。 さっき話しましたけど

男女だけじゃなくて男同士もいるし、本当に困ります 」

 

警備員も清掃員も声掛けはするそうだが、

たしかに見かけだけで判断するわけにもいかないし、

年齢で判断というわけにもいかない。

 

まさしく事案というやつだろう。

多目的トイレは迷惑なだけでなく犯罪に絡むことも多い。

幼い姉妹を多目的トイレに連れ込んで破廉恥な行為に

及んだ86歳の男が逮捕されているし、多目的トイレや

マンションで、5歳の女の子にわいせつな行為をした、

ベビーシッターの男が逮捕された。

「 でも見かけじゃわかりませんし、出入りはカメラで

監視できてもトイレの中にカメラはありません。

こっちが盗撮になっちゃいますから 」

 

◆  利用者のモラルにお願いするしかない

トイレの中にはカメラを設置できない。

当たり前の話だが、都市伝説では多目的トイレの

中に監視カメラがある、というネタもあるが、

あくまでネタ。

もちろんカメラなんかない。

 

「 それでも監視カメラがついてるぞ、許せんって

理不尽な苦情もあったり、なんかやましいことでも

やってんのかなって思っちゃいます。

まあカメラと思ってるならいい気分じゃないでしょうけど 」

 

天井にある点滅している装置がよくカメラと間違われるが、

あれは人がいるかいないかの感知センサー

( 人感センサー・動体センサーともいう ) だ。

埋込型のセンサーはともかく、露出角型のセンサーは

間違われやすく、原西さんの言う通り誤った苦情が

出ることもある。

 

通常、多目的トイレは20分から30分くらいで

自動的に開くように設定されている。

もちろん障害者や妊婦などが利用するわけで、

倒れていたり具合が悪くなっていたりすると

大変なので、そういった事故を未然に防ぐため

のものである。

「 私はないですけど、最中の男女がいたってのは

聞きました、時間でドアが勝手に開いちゃってね 」

 

もちろん犯罪抑止、マナー違反防止の面もある。

初期はこうした装置がなかったため、事故、犯罪は

もちろん寝泊まりする者が跡を絶たなかったという

事情もある。

『 幸せのちから 』 という映画でウィル・スミス演じる

主人公が落ちぶれて息子とトイレで寝るシーンは

印象的だったが、あれはフィクション。

実際は迷惑極まりない行為である。

 

「 結局、利用者の方々のモラルってやつを

お願いするしかないんです。 ごく一部の人だけ

なんですけどね。こっちも警察は呼びたくないし 」

 

警察を呼ぶと逆に面倒なことになる。

死体でも転がっていれば別だが、調べだ、聴取だ、

で、面倒な上、騒動になりかねないわけで、

なるべく呼びたくないのはわかる。

原西さんはもちろん、日々こんな困った人の対応を

迫られる方々に対して本当に頭が下がる。

ただでさえコロナ禍で大変だったというのに。

 

原西さんをはじめとするエッセンシャルワーカーを

困らせる変な連中 ――

悪質な連中はもちろん、多目的トイレを私的な

個室のように使う輩は後をたたない。

 

問題となったあおり運転やネット中傷と同様、

もはや国民のモラルに期待するのは難しい時代

なのかもしれない。

悲しいかな、これもまた日本の現実である。

 

        ● 日野百草( ひの・ひゃくそう )

 

 

 

 


 

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