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沖縄の 「 宝 」 である首里城が消失し、復元へ向けた支援の輪

が全国で大きく広がっている。

 

消失の原因は色々考えられるが、その中で今回は、

見逃せない 「 大人830円 」 という 安すぎる入場料を考える。

 

世界の常識、日本の非常識

世界を見渡せば、その国の文化や歴史を代表するような

木造建築は、高い入場料、拝観料を徴収するのが 「 常識 」

となっている。

職人がひとつひとつ手作業をしなくてはいけない、という

コストはもちろんのこと、一度燃えたらあっという間に延焼

してパーになるので、防火設備に金にかけるからだ。

 

例えば、世界遺産 「 キジ島の木造教会建築 」 の中の一つ、

ロシア最古の教会であるプレオブラジェンスカヤ教会の

入場料は880ルーブル、現在のレートだとおよそ1500円だ。

 

    「プレオブラジェ...」の画像検索結果

 

映画 『 アナと雪の女王 』 に登場する城のモデルにもなった

ゴル・スターヴ教会をはじめ、ノルウェー国内の伝統建築を

集めたノルウェー民族博物館は公式Webサイトを見ると、

大人は160クローネ。  日本円だと 2500円である。

 「ゴル・スターヴ...」の画像検索結果  「ノルウェー民族...」の画像検索結果

 

この傾向はアジアも変わらない。

日本以上の観光大国であるタイのパタヤで、1981年から

工事が続けられ、「 アジアのサクラダ・ファミリア 」 とも

呼ばれるサンクチュアリー・オブ・トゥルースの入館料は、

タイ国政府観光庁のWebサイトでは、「 500バーツ~ 」

とあり、こちらも現在のレートでは1800円くらいだ。


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琉球王国の宮殿再現という歴史的価値に加えて、琉球舞踊や

伝統的儀式を現代に伝える文化継承の場という意味では、

首里城はこれらの木造建築と比べてまったく遜色ない。

しかし、入場料はその半分から 3分の1である。

つまり、今回の被害を拡大させたのは、市民体育館レベルの

「 安すぎる入場料 」 しか取っていなかったことで、世界の木造

建築では当たり前のメンテナンスやセキュリティが実現できて

いなかった可能性が高いのだ。

多くの識者が指摘しているように県内最大の木造建築物だった

首里城には、あまりにお粗末な防火設備しかなかった。

正殿には外から火がくるのを防ぐドレンチャーという消火設備

のみで、周囲には放水銃4基があったが、今回の火災では熱で

近づけなかったため使用すらされていない。

なぜお粗末な防火設備だったのかというと、首里城の施設保全

や利用者の安全対策のために費やすことができる予算が少ない

からだ。

では、なぜ少ないのかというと、「 安すぎる入場料 」 のせいだ。

 

首里城公園は年間280万人が利用していて、今回焼失した

「 有料区域 」 にも年間180万人が訪れる。

これはサンリオピューロランドの年間利用者数とほぼ同じ。

そんな 「 観光施設 」 になぜスプリンクラーをつくらなかったのか、

という安全意識の乏しさを糾弾されて然るべしなのだ。

と言うと、「 木造建築にスプリンクラーが現実的に難しい 」 なんて、

とにかく 「 何も対策しなかった 」 ことを正当化しようとする方たちが

出てくるが、首里城よりも年間入場者数が少ない姫路城は、

屋内外消火栓、消火器、火災報知機はもちろん、スプリンクラーも

天守群だけでなんと1000カ所以上設置されている。


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これだけの設備を国宝、しかも世界遺産にも指定されている

巨大木造建築に行うことに否定的な意見もあったが管理者の

姫路市は踏み切った。

姫路城管理事務所の担当者によると、

「 城の出入り口が1カ所しかなく、中の階段も急勾配で繁忙期には

800~1000人が滞在するため、消防活動がしづらいと判断した 」

( 夕刊フジ 2019年11月3日 ) という。

文化財にスプリンクラー設置の法的義務がないうんぬん以前に、

これだけ多くの観光客が訪れる施設の管理者として当然なすべき

「 安全対策 」 だというわけだ。

 

多くの自治体が人口減少で財政難に陥り、国もインフラ整備や

社会保障のコストが雪だるま式に増えている。

「 いつ起きるか分からない地震 」

「 いつ発生するか分からない火災 」

「 仏像や木造建築の崩壊 」

に費やせるカネはどんどん減っていく。

だからこそ、「 高い入場料 」 が必要なのだ。

入場料を諸外国並に1500~2000円程度上げれば収益も上がる。

もちろん、展示や体験に値上げに見合うだけのものにしなくては

いけないが、そのように施設の価値が上がれば、貸切やイベント

使用料も上げられる。

一般の観光施設のように、維持費を自力で捻出できれば、

お粗末な防火設備にも手を加えられる。

もちろん、この 「 高い入場料 」 は観光客だけに限った話だ。

沖縄県民は 「 地域住民割引 」 でこれまで通りの830円で、

修学旅行などの教育目的も安くていいだろう。

しかし、県外から訪れる日本人観光客、フェリーでやって来る

中国、韓国、台湾の観光客、欧米からの観光客からは

ビタ一文負けることなく、2000円くらいを取るべきなのだ。

なぜかというと、観光客というのは日本人だろうが中国人だろうが、

混雑やゴミ問題など多かれ少なかれ地域の人々に迷惑をかけて

いるからだ。

一方、地域の人々は、このような施設が伝える歴史や文化を守る

担い手である。

これくらいの 「 差 」 をつけるのは、どこの国でもやっている。

例えば、世界遺産アンコールワットにもその復元や補修に莫大な

カネがかかるので、入場料もそれなりに高い。

 

  「アンコール遺跡」の画像検索結果

 

筆者が訪れた2年前も大幅に値上げして4000円くらいになっていたが、

カンボジア人はタダだ。

また、外国人観光客が払う入場料の一部は、地元の子どもたちが

かかる病院に寄付されている。

 

このあたりは、2000万点の貴重な収蔵品が焼失したブラジルの

リオデジャネイロで発生した国立博物館の火災が分かりやすい。

リオ五輪で無理につぎ込んだインフラ投資が引き起こした不況で

財政がボロボロになり、博物館周辺の消火設備のメンテナンスに

カネが回らず消火が遅れてしまったのだ。

今回の首里城焼失はこの地球の裏側で起きた財政難による

文化財焼失と丸かぶりだ。

日本人は自分たちの国は、ブラジルよりも 「 豊か 」 だという自負が

あるのでなかなか認めたがらないが、本質はまったく変わらない。

「 低すぎる入館料 」 は一見、「 文化や歴史を誰でも気軽に学べて

素晴らしい 」 という状況をつくっているように見えるが、長い目で

見れば、その文化や歴史を内側からガタガタにしてしまっているのだ。

 

「 低すぎる入館料 」 のおかげで、確かに我々は国宝や文化財も

気軽にみることができるようになった。

しかし、それは裏を返せば、先人たちが遺した貴重な英知や後世に

伝えるべき 「 人類の宝 」 を、税金で運営する公民館や公立図書館と

同じくらいの価値におとしめてしまった、ということでもあるのだ。

首里城の独特の装飾美、そしてあの場で行われる琉球王朝時代の

荘厳な儀式、伝統舞踏などを踏まえれば、入場料は2000円でも安い

と、個人的には思う。

少なくとも歴史に翻弄されてきた沖縄の人々の 「 誇り 」 を考えれば、

そんな低い価値ではないはずだ。

新しい首里城がどのような形になるのかはまだわからないが、

沖縄に訪れる外国人観光客、県外からの日本人観光客に対して、

強気の価格設定ができる素晴らしい施設になることを期待したい。

(窪田順生)

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