
牧カオリは下を見ながら歩いていた。
この前、
上を向いて歩いたら、
用水路に落ちたからや。
上を向いて歩いてもロクなことはない。
そして、
牧カオリは落胆していた。
あの久しぶりの友人に連れて行かれた怪しげな寺。
後で知ると、
その友人の旦那が、
余命宣告をされていたことが動機となっていたことがわかった。
牧カオリは思う。
旦那かわいさに理性を失い、
友人の思想の自由さえ売り飛ばそうとした卑劣漢!
信じなければバチを与える神仏。
なら、
どうしてそんな神仏が、
人の歴史の中に登場する意味があるのか?
そもそも、
信じない者にバチを与えるようなもってまわったことをせずに、
そのまま100%信じさせることもできない神仏に、
ナンの功力があるのか?
盲信のゾンビを生み出すだけの魔神に、
手を合わす価値はない!
たとえ、
バチが当たっても!!
こう考えていた牧カオリの頭に、
鉢が落ちて来て直撃した❗️
牧カオリは頭を押さえ、
「バチが当たる代わりに鉢が当たったわ!」と痛そうに呟いた。
鉢が落ちて来たであろうところを見上げると、
ドンキー奥様のベランダやった。
そして、
そのときはじめて、
風が凄まじく吹き荒ぶっていたことを牧カオリは知った。
やがて、
風だけにおさまらず、
雨☔が激しく降り出した!
牧カオリはずぶ濡れになりながらも、
外れた天気予報を呪うことなく、
「人生は宿命のシーソーゲーム」と呟き、
自身が水のあるところに落ちて濡れない時は、
上からでも濡らそうとする天の意に、
「濡れて輝くオンナになろう」と決意した。
上を向いて歩いても濡れ、
下を向いて歩いても濡れる。
この確実に濡れるということを、
どう受けとめるかが問題なんや。
そして、
牧カオリの心は、
旦那の初盆を迎えるであろう友人に、
どんな言葉をかけるかに集中した。