人生を右往左往とする中で、時折、心の中で木霊(こだま)してゆく、私の大好きな童話でもいかがかしら?






【泣いた赤鬼.全くMix】




ある山に、一人の赤鬼が住んでいました。
赤鬼は、人間たちとも仲良くしたいと考えて、自分の家の前に、「心のやさしい鬼のうちです。どなたでもおいでください。おいしいお菓子がございます。お茶も沸かしてございます。」と書いた立て札を立てました。

けれども、人間は赤鬼さんを疑って、誰一人と遊びにはきませんでした…

赤鬼はとても悲しみ、信用してもらえないことを悔しがり、おしまいには腹を立てて、立て札を引き抜いてしまいました。

そこへ、友達の青鬼が訪ねて来ました。

青鬼はわけを聞いて、赤鬼のために次のようなことを考えました。



青鬼が人間の村へ出かけて大暴れをする。そこへ赤鬼が出てきて青鬼をこらしめる。
そうすれば、人間たちにも赤鬼がやさしい鬼だということが解るだろう、と言うのでした。

しかし、それでは青鬼に申し訳ない、としぶる赤鬼を、青鬼は無理やり引っ張って村へ出かけて行きました。


道中、青鬼さんは悲しそうな表情を隠しつつ、赤鬼さんにこう言いました。


「何かをやり遂げるには、どこかで"痛い思いか損"をしなくちゃならない」


「"誰かが犠牲"にならなきゃいけないんだよ」




そして計画は成功し、村の人たちは、安心して赤鬼のところへ遊びにくるようになりました。

毎日、毎日、村から山へ、三人、五人と連れ立って、出かけてくるようになりました。


こうして、赤鬼には人間の友達ができました。

赤鬼はとても喜びました。しかし、日がたつにつれて、気になってくることがありました。

それは、あの日から訪ねて来なくなった、青鬼のことでした。

ある日、赤鬼は青鬼の家を訪ねてみると、青鬼の家は、戸がかたくしまっていました。

ふと気がつくと、戸のわきには、貼り紙がしてありました。それには、何か字が書かれていて…


「赤鬼くん、人間たちと仲良くして、楽しく暮らしてください。

もし、僕がこのまま君と付き合っていると、君も悪い鬼だと思われるかもしれません。

それで僕は、旅に出るけれども、いつまでも君を忘れません…


さようなら…


体を大事にしてください。

どこまでも君の友達、青鬼」


赤鬼は、黙ってそれを読みました。二度も三度も読みました。

戸に手をかけて、顔を押し付け、しくしくと涙を流して泣きました。とさ…


おしまい。




どうでしたか?いい話でしょ?


淡々としながらも、深遠で含蓄な構成になっていて、差別・義理・偏見・人情・追憶・慈愛・無常など、色んな感情や意味が含まれています。


鬼を理解する前に、凝り固まった偏見をする人間たち。

赤鬼のために乱暴をふるった、青鬼の義理人情と空虚感。

鬼のほうがどこか温かく、人のほうを冷たく描出している内容に、心当たりがあるからこそなんとも言い難い。


赤鬼は、貼り紙を何度も読み返しながら、道中で言われた言葉の本当の意味を、追憶と共に理解したでしょうね。

さらに涙を流しながら…

正に"鬼の目にも涙"ですね。




そして青鬼が、本当は人にふるいたくない乱暴をふるったことや、道中で、青鬼が赤鬼と別れて暮らそうと決心し、言えば赤鬼は反対するから、それをgoodこらえていた青鬼の姿は、"心を鬼にする"という言葉の意味、そのものではないでしょうか?


“心を鬼にする”という言葉の意味は、あえて調べていないので解りませんが、それは多分“思いやり”なんだと、私は思ったとさ…




おしまい