『ムッツリの限界』

夏の訪れを感じる、ある蒸し暑い金曜日の午後。
冷房の効いたオフィスには、妙な熱気が漂っていた。

その熱源の中心――ミーヤ。
今日の装いは、白いノースリーブのブラウスに、涼しげなロングスカート。
だが、透け感のあるブラウスの下は、レース地の水色ブラがくっきり。

しかも、あえて下着と肌の境界が見える絶妙なライン。
“見せる”ではなく“気づかせる”ための布陣。

それは、佐山・義人――“ムッツリ男”に対する、最大の刺客だった。

(そろそろ……仕留めるわよ、ムッツリさん♡)


『揺れる視線』

「逆にですね……この仕様書……え〜っと……」

佐山はPCのモニターを見つめながら、横目でちらりとミーヤを確認。
ミーヤは斜め向かいのデスクで、腕を伸ばしてストレッチ中。

その脇から、ブラ紐がひょいと覗く。

(あ、あかん……逆に集中できん……逆に逆に……)

だが口に出せない。いや、出せるはずもない。
この男、表では理性の塊、仕事はポンコツ、内心は煩悩の渦。

それでも、彼は必死に視線を下げた。

(俺は既婚者……俺は……MISIAと……)

「佐山さ〜ん? ちょっと、プリンタの紙が詰まっちゃってぇ……」

その声で、佐山の理性ゲージが1メモリ消える。

「ま、任せてくださいっ」


『プリンタという密室地獄』

社内の印刷ルーム。狭いスペースに、ふたりきり。

「ここの奥がつっかえてるみたいなんですけどぉ〜」

ミーヤはしゃがみ込む。
スカートの隙間から、ふとももの付け根まで……白いショーツが見えた。
だが、よく見るとレースでリボン付き。
“勝負下着”なのは間違いない。

(な、なんでそんなもん……見え……いやいやいやいやいや……)

「佐山さぁん……どうしよう……私、こういうの苦手でぇ……」

「だ、だいじょ……ぶ……ちょっとどいて……いやいや、その、近いっ……!」

ミーヤは、わざと腰を後ろに突き出すようにどいた。
その距離、ゼロ。

佐山の肘が、ミーヤの太ももに触れる。

「きゃっ♡ 佐山さん、エッチ〜〜♡」

「ちちち違っ……! 事故っす!今のはプリンタが悪いっ!」

「ふふっ♡ 顔、真っ赤ですよぉ〜?♡」

理性ゲージ、残り2。


『ランチ・アタック』

その日の昼休み。

「佐山さんっ♡ 今日、ランチ一緒に行きませんかぁ〜?」

佐川と坂田が同時に振り返る。
「えっ!? 今日は俺が……」「いや、俺だろ!?」

だがミーヤは、佐山だけを見つめていた。

「えっ、あ、俺!? い、いいっすけど……」

近くのイタリアンレストラン。
対面でパスタをすするふたり。

ミーヤはスプーンを使わず、わざとすすりながら食べる。
その唇が、ぬるりと麺を巻き取り、ソースを舐める。

「ん〜♡ このトマトの感じ、すっごい好き〜♡」

佐山は、フォークを持つ手が震えていた。

「さ、佐山さんって……彼女とか、いないんですかぁ〜?」

「え? いや……結婚して……同棲15年で……この前……」

「ふ〜〜ん……でもぇ……女の人って、ちょっとした隙間で心が動いちゃうんですよぉ〜?」

「……そ、そっすか……」

理性ゲージ、残り1。


『終業後の攻防』

午後6時すぎ。

オフィスに残るのは数人。
佐山も作業の遅れで居残り。

そこに、ミーヤがふらりと現れる。

「佐山さん、まだ残ってたんですねぇ♡ 頑張り屋さんだぁ〜♡」

「いや、まぁ……ミスっちゃったやつ……逆に巻き戻し中……」

「ふふっ♡ かわいいなぁ〜〜♡」

「……!!」

「ねぇ……佐山さん……ちょっとだけ、私の話……聞いてもらえますか?」

ミーヤは佐山の隣に腰を下ろす。
彼女の肩が触れ、脚が重なる。

「ね……ねえ……佐山さん……今日の下着……見ましたよね……?」

「っっ!?」

「ふふっ♡ 実はぁ〜……佐山さんにだけ、見せたかったの……♡」

その囁きは、理性を吹き飛ばす最後の一撃だった。

理性ゲージ:0

佐山の脳内で、MISIAが遠ざかる。

「……ごめん、MISIA……」


『翌朝、反動』

土曜日。
社内の有志勉強会に来ていた佐山。

顔は腫れぼったく、目の下にクマ。

「……寝れなかった……」

「逆にですね……恋って……怖い」

そこに、ミーヤが元気に登場。

「おっはよぉ〜ございまぁすっ♡」

「お、おはよう……ございます……」

彼女は爽やかに笑った。

「昨日の夜、寝れなくてぇ〜……佐山さんのこと、いっぱい考えちゃった♡」

「……え……」

(ま、またや……またやられる……)

佐山、完全陥落。

『ミーヤの作戦ノート』

週末の夜。

「ムッツリくん、落ちました♡」

スマホには、佐山からの長文LINE。
「俺はあなたのことで頭がいっぱいで……逆にですね……人生が……」

「ふふっ、最高♡」

次なる獲物は……?