ひめがいなくなって悲しいのは、タケヤンの奥さんも同じです。

結婚した当時のタケヤンは、朝は7時過ぎに家を出て、夜は11時頃に帰宅するという毎日でした。

土曜日も毎週仕事。

日曜日も、数時間だけ出勤など、家にいない事が当たり前でした。

そんな生活に寂しくなって、奥さんのたっての希望でひめを家族に迎え入れました。

ひめが家に来た当初は、我が家の大切な子供でした。

でも、成長と共に、ひめと奥さんの関係性に変化が…。


小さかったひめは、よく奥さんの踵などに突然嚙みついて、奥さんを驚かせていました。

奥:ひめ、痛いでしょぉ!
ひめ:ニャー!、シャー!!、フゥー!!!

その姿は、まるで姉妹げんかのようでした。


ひめが大きくなってくると、奥さんが夜更かしをしていると呼びに来るようになりました。

『まだ寝ないの?』
『もう寝る時間だよ!』

そして布団に入った奥さんの枕の横で、しっぽをパタパタしながら眠りについていました。

その姿は、お姉ちゃんやお母さんのようでした。


先月の今頃、タケヤンは奥さんとスーパーに買い物に行き、タケヤンは大好きなビールコーナーへ、奥さんは入り口付近から買い物を始めました。

ビールを選んでタケヤンが奥さんと合流すると、奥さんは泣いていました。

タケ:?
奥:これ見てたら、涙が出てきた…

それは、クリスマスによくある、お菓子の入った赤い長靴でした。




ひめがまだ小さかった頃、『この中にひめが入ったらかわいいよね!』という事で、ひめに買ってあげた事があったんです。

でもひめは、買ったおもちゃより、普通の段ボールや包装紙の方が大好きです。

だから、その長靴も、活躍する事なくゴミになりました。

その頃の事を思い出したんだそうです。

ひめがいない生活に慣れてきたのですが、何かの拍子に急にひめの想い出が蘇る事があります。

『ひめ、いないんだな…』


タケヤン夫婦の記憶には、常にひめがいました。

ひめがいない毎日は、まるで色がなくなったようです。