日本と韓国の間で、*いわゆる「徴用工」の決着をめぐる「交渉」が行われている。
(*「いわゆる」と述べたのは、そもそも「徴用工」と、この問題を呼称した時点で、「交渉」という視点から見ればすでに日本が交渉においては序盤から負け込んでいるという意味合いを込めて言っている。本来は「徴用」があったか、無かったか?そこを議論しなければならないのであって、日本が認めないという立場を取るのであれば、日本側は「募集工」問題と表記すべきである。)
この問題を私が普段グローバル研修の一環として教えている「交渉学・交渉戦略」という視点から見ると、日本が国としていかに「交渉」それも「欧米型・大陸型」の「交渉」を知らないか⁈が浮き彫りとなってくる。
現在、韓国サイドから、韓国国内で賠償を「肩代わり」する、という一見妥協案とも言える案が提案され、日本政府は、それを受け入れる、とも取れる報道がなされている。
もしそれが事実であり、実際その様に日本政府が対応するとすれば、それはかつての「慰安婦」問題と同じ轍を踏むことになるのは火を見るより明らかである。
一見、韓国が国内問題として処理してくれる、という風に受け取られがちだが、実際はそうではなく、これで日本は今後もしかすると慰安婦問題以上のお金を韓国に支払うことを半ば了承したことになると言える。
なぜそう言えるのか?
なぜなら、グローバル・ロジックにおいては、日本政府が、韓国政府の対応を認めた時点で「徴用工問題」が事実として「存在する」ことになるからである。
グローバル・ロジックという言い方をしたが、いわゆる、欧米型・大陸型の「論理」においては、直線型のロジックが使われており、Cause & Effect(原因・結果)の世界になっている。
つまりは、たとえ、韓国が肩代わりしようとしまいと、それを認めて仕舞えば、「賠償」することの是非を日本が認めたことになるのであり、事実上、「募集工」ではなく「徴用工」であったことを日本政府が「公式」に認めることになるのである。
つまりは、Cause を日本政府自らが創ってしまうことになるのである。
そうなれば、日本政府が韓国政府と「公式」に認めた「徴用工」問題は、日本に一方的に非があり、本来であれば日本が賠償すべき問題である、ということを政府間で認めた、ということを意味し、Effectとしての「賠償」が起こるということである。
となれば、一旦非を認めたことなので、今後未来永劫、日本政府に対する賠償を国としてではなくても、民間レベル(今回経団連がその同意に加わっていることが信じられないが…)からでも支払わせる働きかけが出来る、という事になる、という論理(ロジック)が出来上がるのである。
従って、日本政府が国としても、また民間企業としても「賠償」するつもりがないのであれば、今回の韓国の「なんちゃって妥協案」には決して応じてはいけない、という結論になる。
(欧米型交渉術では、この韓国のLowball(というよりCurve ball?)に対して、竹島の即時返還、などのHighballを投げなければならないのであるがその点はここでは詳述しない)
ましてや、この「なんちゃって妥協案」と、全く別問題である、半導体等の問題をバーターにするなどは、もっての他であり、それはイコール、日本のこの「交渉」における全面的な敗北を意味すると言えるのである。
今回の「妥協案」は巧妙(誰でもわかりそうなものだが)な罠であり、我々国民の血税を有りもしない徴用工問題に使うことは避けるべきである。
「交渉学・交渉戦略」という視点からいえば、日本側は全く交渉になっておらず、そもそも「徴用工」という言葉を使っている時点で、既に負け込んでおり、かつ、韓国国内での「賠償」を認めることはすなわち、「徴用工」の存在と「賠償の必要性」を全面的に認める結果となる訳なので断固拒否すべきである。
交渉戦略という視点からいえば、そもそも日本側は交渉戦略をもっておらず、韓国側は、アメリカとの安全保証の協力という(おそらくは裏交渉をしている)後ろ盾も周到に用意して臨んでいると思われる点で、今後、慰安婦問題の二の舞となるのは必定だと思われる。
ただ、なぜ、このように日本政府が国民を守る義務がありながら、これほど対外交渉に弱いのか、と言えば、日本政府と韓国政府とでは、これほどの差があるのかと言えば、おそらく、日本と韓国の「目的」の差にあるのだろう。(*外交の弱さは本来軍事力の無さに最も起因するのだが…)
日本政府は半ば無意識に日本的な解決方法である「この場を収める」ということを目的としており、国益を目的とはしていない。それに対し韓国政府は「徴用工問題を日本に認めさせ賠償させる(お金を支払わせる)」ということを最終目標にしており、その点では「賠償金」という文字通り「国益」を目指して必死に努力し交渉している、と言えるかも知れない。
日本国内の論理・「ドメスティック・ロジック(お互い様ロジック?)」は大陸を中心とした欧米型の「グローバル・ロジック」Cause & Effect には全くと言っていいほど通用しないのである。
しかも、このグローバル・ロジックは非常にパワフルであり日本は今後このCause (問題を存在させる)& Effect(賠償する)に従わざるを得ないのである。
国内と海外とのやりとりを「使い分け」することが、私たち国民を代表する日本政府には必要だと言えるだろう。
*欧米型交渉術については拙著「グローバルリーダーが使いこなす交渉の秘訣」および「重要交渉戦略15パターン」等を参照して頂きたい。
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