ナタリー・デセイ & フィリップ・カサール Farewell CONCERT (東京オペラシティコンサートホール)
ナタリー・デセイ Natalie Dessay (ソプラノ, Soprano)
フィリップ・カサール Philippe Cassard (ピアノ, Piano)
モーツァルト:歌劇「フィガロの結婚」より
無くしてしまったわ <バルバリーナ>
とうとうその瞬間が来た ~ さあ、早く来て <スザンナ>
自分で自分がわからない <ケルビーノ>
スザンナは来ない!~ いずこぞ喜びの日 <伯爵夫人>
エルネスト・ショーソン:ハチドリ
モーリス・ ラヴェル:天国の美しい3羽の鳥たち
ルイ・ベッツ:傷ついた鳩
フランシス・プーランク:かもめの女王
モーリス・ラヴェル:悲しき鳥たち(ピアノ・ソロ)
フランシス・プーランク:モノローグ「モンテカルロの女」
* * *
ジャン=カルロ・メノッティ:歌劇「霊媒」より<モニカのワルツ>
サミュエル・バーバー:「ノックスヴィル - 1915年の夏」
アンドレ・プレヴィン:歌劇「欲望という名の電車」より<私が欲しいのは魔法>
(アンコール)
アーン:リラに来るウグイス
ジャン=カルロ・メノッティ:歌劇「泥棒とオールドミス」 〜私を盗んで、素敵な泥棒さん
ドリーブ:歌劇「ラクメ」〜第3幕 貴方は私に、もっとも甘い夢を与えてくれた
フランスはリヨン生まれの歌姫、ナタリー・デセイ(実際の発音はドゥセだそうだ)のフェアウェル・コンサート。デセイは、今回のツアーを最後に、オペラの歌唱を封印するということだ。残念ではあるが、すでにオペラのステージからは引退しているし、彼女は私と同い年なので、そういう時期だということなのだろう。今回彼女自身が語っていたが、人生の次のステップはミュージカルだそうで、そのためなのか後半は英語の歌唱であった。ちなみに、プログラムのうちモーツァルトやプーランクは2022年の来日公演でも取り上げられていたものである。
ステージに登場したデセイ、ドレスの裾をやけに気にしていたのだが、裾がほつれていたようで、登場するなり裾を上に引き上げてなんと歯でかみ切ろうとしていた…
すでにかなり長いキャリアを持つデセイ、その美しい舞台姿は今日も変わらなかった。声は最盛期に比べるとずいぶんと熟してある意味渋みが加わっているが、なまめかしく色気がある特徴的な声はまさにナタリー・デセイである。とてもいい年の取り方をしているな…デセイは大変な努力家で完璧主義者だそうだが、華やかな大スターほど影では普通の人間の何倍も努力をしているということだろう。
最初に歌われたのはモーツァルトのフィガロの結婚から数曲。カサールが前奏に他のモーツァルトのピアノ作品を即興的に挿入している。なんと一人で主役級登場人物の女声4役を歌うというわけだが、伯爵夫人はさすがにデセイの声だときらびやかすぎるかもしれないが、バルバリーナやスザンナはしっくりくる。
その後に歌われたフランス語の歌曲はやはり秀逸で、きらきらした華やかな声は聴き応えがある。特にプーランクのモノローグにおける多彩な表情と演技は見事で、さすが女優である。
後半は米国の音楽。どの曲も知らなかったがアメリカのオペラや歌曲も素晴らしいものがあるのだと痛感。バーバーのみ、デセイは譜面を見て歌っていた。アンドレ・プレヴィンの作品はとても美しい佳品。それにしてもメノッティとバーバーも同性愛関係だったとは、クラシック界にはそういう関係がとても多い。メノッティがバーバーと破局したあとは指揮者のトマス・シッパースと同性愛関係だったそうだ。ちなみにラヴェル、プーランクも同性愛者だという説がある。
それはともかく、フランス人であるデセイの英語の発声、とても美しい。今回のリサイタル、随所で彼女がマイクを持って英語で話をしたのだが、その英語もきれいだったし、以前METライヴビューイングで幕間にインタビュアーとして登場したときも、非常にきれいな英語を話す人だと思っていた。
ピアノはカサール、デセイとのデュオを聴くのはこれが4回目である。私は聴いたことがないがソロ活動も普通にしているらしい。非常にウィットに富んだセンスの良いピアノで、それは前半1曲だけ弾かれたソロ(ラヴェル)でもよくわかる。デセイとのデュオでの自身の立ち位置をしっかり認識しているのだろう、決して出過ぎずに歌手を盛り立てていた。
本プログラムは20時45分ごろに終わり、その後アンコールが3曲。最後のラクメ、これがデセイの生声で聴く最後のオペラか…
デセイが気に入っている東京オペラシティコンサートホールだが、今回の客席はかなり空いていて、ジャパンアーツで間近割が出ていたぐらいだ。日本に来るのはこれで最後、みたいなことを言っていたが、悲しい…ミュージカルで来日してほしいものだ。
総合評価:★★★★☆
