ケント・ナガノ指揮ハンブルク・フィルハーモニー管弦楽団の来日公演(サントリーホール)。

ベートーヴェン:「エグモント」Op.84序曲  

リスト:ピアノ協奏曲第1番変ホ長調S.124(Pf:辻井伸行)

(アンコール)リスト:ラ・カンパネッラ

マーラー:交響曲第5番嬰ハ短調

 

ハンブルクで有名なオーケストラと言えば、まずは2017年にオープンしたエルプフィルハーモニーに本拠地を置くNDRエルプフィルハーモニー管弦楽団(北ドイツ放送交響楽団)。今回来日したハンブルク・フィルハーモニーはハンブルク州立歌劇場のオーケストラであり、通常は歌劇場でピットに入っているオーケストラである。ハンブルク州立歌劇場、かつてはインゴ・メッツマッハーやシモーネ・ヤングがGMDを務めていた歌劇場であり、現在のGMDはケント・ナガノである。

 

前半第1曲、当初発表通りレオノーレ第3番だとばかり思っていたら、冒頭の和音が違う…いつのまにかエグモントに曲目変更になっていたのだ。レオノーレ第3番だと、全体の演奏時間が余りに長くなってしまうからだろうか。

ナガノのベートーヴェンは彼が音楽監督を務めるモントリオール交響楽団との録音でもそうだったが、清新ですっきりと耳当たりがよい。ハンブルク・フィルとの演奏だと、それに適度な重厚感が加わってさらによい仕上がりになっていた。弦セクションは第1ヴァイオリンが13、コントラバスが6だったと思う(リストも同じ)。対向配置。

 

続いて演奏されたリスト、辻井伸行のピアノはとても音が明晰でよく鳴っている。彼がヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールに優勝して既に10年経過しているが、当初彼の演奏を聴いたときにいつも感じられた違和感――音楽が上滑りしていて、地に足が付いていない感覚――はだいぶなくなってきて、繊細で鋭敏な感覚は残しながらも、伝統の延長線上にある解釈に収斂してきているのではなかろうか。素晴らしいテクニックは相変わらずである。

アンコールで弾かれたラ・カンパネッラは文句なしによかったと思う。

 

後半は弦が17-15-13-10-9に拡大してのマーラー5番。

ケント・ナガノのマーラー、1996年にハレ管との9番、1999年にベルリン・ドイツ響との3番を聴いたことがある。録音では3番と8番があるのみ。そんなわけで彼の5番は初めて聴くことになるが…これはかなり変わった演奏である。

テンポが全体にかなり遅めなのはなんとなく予想していた。第1楽章、第2楽章までは割と普通に遅めの演奏だな、と思ったのだが、第3楽章あたりからちょっと普通の演奏とは違うなと感じ始めた。アンサンブルがぎこちないのはリハーサル不足なのかどうかわからないが、ティンパニは遠くでしっかり鳴っているものの強烈なところはないし、トランペットが抜けるように聞こえて欲しいところでまるで聞こえないのだ。もちろんこれは、音量を抑えているからであろう。第3楽章で活躍するホルン、見事ではあったが決して自己主張が強すぎない。第4楽章も当然遅いのだが、通常の演奏で熱くなるところも音量を抑えて覚めた印象を与える。弦は若干のざらつきが感じられた。第5楽章も遅めのテンポで高揚することなく、抜けるような開放感がない演奏。

要は、暗いのである。

 

冒頭のトランペットが慎ましさを持ちながらも安定しており、前日に聴いたBBCスコティッシュの演奏よりもオケの基本的なレベルの差を痛感した。弦にアジア系奏者が多かったのだが、メンバー表を確認すると弦に日本人女性奏者が6人いる。また、ヴィオラのトップはナオミ・ザイラー。京都で活躍したピアニスト、エルンスト・ザイラーの前妻の娘である。オーボエ首席は日本人の植原祥子さん。

 

1曲目がエグモントに差し替えになったとはいえ、20分の休憩をはさんで終演は21時20分を回った。マーラー5番、かなり遅めの部類に属する演奏だった。

辻井伸行が出演するということで、会場はかなり埋まっていた。

 

総合評価:★★★☆☆