憂鬱屋。

憂鬱屋。

見えるもの全てが悲しい者達よ。

主な取り扱い商品:憂鬱。

店主:タケヒサ

憂鬱をお求めですか?

どんな憂鬱をお求めですか?

あなたがお探しの憂鬱が見つかりますように。


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『右の頬を打たれたら
左の頬も差し出しなさい』
これって実は復讐なの
さあ反対側を打ちなさい!


だってかわいい女の子じゃない
すべての現実を拒絶するのよ
なんてシュルレアリスム
迎撃準備


『右の頬を打たれたら
右と左の頬を打ちなさい』
これって実は愛情なの
さあ両頬を打ってあげるわ!


だってあたしも女の子なの
プライドのために命をかけるわ
なんてリアリズム
終撃用意


どこが痛いって喚いているの
黙らないと承知しないわ。


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荒野の薔薇は夢を見た

こごえる雪の夜

限りない闇で

西に行く蝶の夢を見た

ひらりひらりと

頼りない羽ばたきの

どこかに帰る蝶の夢を見た




荒野の薔薇は夢を見た

乾ききった朝に

見渡す限りの白の中で

六十億の箱舟が

どこにも行けない夢を見た




雪のない夜

荒野の薔薇は

自分の名前も分らずに

一人でそっと

静かに散った。


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「早く」

そういって掴まれた左手が

心地よい冷たさを感じて

同時に私の体温だけが高いことが分かり

とても寂しくなりました





貴方の手のひらはとても大きく

あの日の夢をもつかめるほど力強く

私はとても寂しくなりました





ふと私の手首を見ると

そこにはたくさんの白い糸が巻き付いており

私だけあの日に取り残されたままだと

とても寂しくなりました





やがて光にさらされた貴方の手は

とても白く

相変わらず白く

冷たく力強いその手で

首を絞められる自分を想像した

私はおかしくなったのでしょうか?


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「眠り姫を起こすな」


彼女の声は、静かに、ただし鋭く僕の頬に突き刺さった。

眠り姫を起こすな?


「でも、もう下校時間過ぎてるから」


僕はそう言いながら、彼女の方を見た。

彼女は半分睨むように、僕をじっと見つめていた。

窓の外はすっかり紺色で、さっきストーブを消した美術室はもう冷え切っていた。


彼女の友達の西本さんは、ここのところずっと美術室にやってきては、彼女と一緒に帰るために彼女の部活が終わるのを待っていた。

彼女は美術部の中で最も多く賞を取っていて(彼女の描く絵はシュールすぎて僕には良くわからないが)、いつも下校時間ぎりぎりまで、時には下校時間を過ぎてもキャンパスに向かっていた。

美術部の部長である僕は、戸締りをして帰らねばならず、いつも彼女が絵を描き終えるのを待っていた。

そして今やっと、彼女が帰り支度を始めたので僕が西本さんを起こそうとしていたのだ。


「帰るなら、そろそろ起こしたほうがいいよ」


僕がそういうと、彼女は短くため息をついて「そうじゃない」と言った。

彼女は僕のほうを見ずに、ナイロンのスモッグを脱いで、それからブレザーを羽織ってボタンを留めた。


「そうじゃなくて。お城につれて帰る気がないのなら、むやみやたらに眠り姫を起こすなってこと」


「ますます意味が分らない」


「春香の王子様になれないんだったら、無責任なことしないで。私、そういうの嫌い」


僕には彼女の言っていることが良く理解できなかった。すっと視線を移動させて彼女が今まで筆を滑らせていたキャンパスを見ると、そこにはなんとも奇妙なタッチで、踊る少女(人間と判断していいのかも悩む)が描かれていた。ああ、と僕は納得した。こんな絵を描く人間の言うことなんて、凡人の僕に理解できるものか。


「春香はね、あなたのことが好きなのよ」


「西本さんが?嘘だよ」


僕のその一言に、彼女は振り返って怒ったように僕を睨んだ。


「嘘って何よ。春香のこと好きじゃないなら、もう中途半端に優しくしたりしないで。春香馬鹿だから勘違いしちゃうじゃない。眠り姫をおこすなら、それなりの覚悟を持て。後で結婚を迫られたらどうするつもり?」


彼女はそれだけ言い終えると、僕に背を向けて作業机の上の学生鞄を肩にかけ、それからもういちど僕のほうに向き直った。


「私だって春香の王子様には、なれない。いつか私から誰かが春香を奪っていく。それは私も分ってる。でも今は、今くらいは、春香を起こすのは私の役目なの。それくらいいいじゃない。だから無責任な優しさで、眠り姫を起こさないでよ」


彼女は肩にかけた鞄をぎゅっと握り締めて、俯いた。

それからいまだ机に伏せて眠っている西本さんの方をゆすって、起きなよ、と何度か言っていた。

西本さんはしばらくしてから、眠たそうにうなって、目を閉じたままゆっくりと上半身を起こした。

そしてふわあ、と眠り姫にあるまじき豪快なあくびをして、「部活終わったの?」と言った。


「私はもう終わったよ。片付けもしてるからすぐ帰れる。それと、部長いるよ?」


「えっ」


西本さんは体に芯をいれられたみたいに、急にしゃきとして目を見開いた。

僕と目が合うと「おはよう」と慌てたように言った。

僕は思わず笑って、「おはよう」と言った。








鍵をかけて部室を出ると、廊下には蛍光灯がいくつかついているだけで、外はさっきより暗くなっているような気がした。

廊下の前を歩く二人は、時々笑いながら何かを話していた。

僕はその様子を見ながら、さっき彼女が言ったことについて考えていた。

西本さんが僕を好き?本当だろうか?そんなことまったく知らなかった。そもそも僕に、女の子に好かれる要素があるとは思えない。

それに、僕にとってはその事実よりも、彼女の言葉のほうが脳裏に焼きついていた。

眠り姫を起こすな。

自分は西本さんを好きなのかどうか、とりあえず考えてみたが、どっちでもないと思った。


僕達は、校門のところまで一緒に歩いていって、それからそれぞれ二手に、家の方向に分かれた。

西本さんはにこにこしながら、ばいばい、また明日ね、と言って手を振った。僕もつられて手を振った。

彼女はそんな西本さんを、すこしだけ微笑んで眺めていた。

フラッシュバック、私は春香の王子様にはなれない。


彼女は、一体なんなんだろう。

あのときの、彼女の必死で悲しい表情は。



僕は二人の後姿を眺めながら、ふと、頭上の水銀灯を見上げた。

新月の夜に、それはぼんやりと滲んでいた。

好き、という感情がどんなものか僕は知らなくて、彼女は知っているのだ、多分。

西本さんに笑いかけていた彼女の顔を思い出して、僕は初めて、彼女のことを綺麗だと思った。



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ドからドまで届かないような

ちっぽけな手のひらで空を掴む

黒鍵を押さえる手が震えていたのは

いびつなメロディーが悔しかったから


わたしがいつまでも子供なのは

わたしがそう望んだからで

彼が望んだからじゃない


かちり、音を立てて歯車は進み

幼いわがままで強引に戻す

だけど勢いのついた機械仕掛けは

小さな力では壊せない


彼がいつまでも子供なのは

彼がそう望んだからで

わたしが望んだからじゃない


色んなものに守られた両手が

鍵盤の上を不安定に彷徨う

どちらにも平等に用意された未来から

脱線してやろうと必死に走った


何も見たくない、とわたしたちは叫んだ

15歳のあの日。



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約束通り
あなたの遺体は
あなたの愛した
あの美しい川に
こっそり流してあげましょう



春の水面に
色とりどりの花が浮かび
その中であなたは最も美しく
美しい川
美しい花
美しいあなた
一瞬だって
留まってはいられません
なにもかも流されて
もうすぐ見えなくなるでしょう



さようなら
さようなら
見えなくなったら
もう二度と会えません
それでも私は
あなたを川に流さなければ
さようなら
さようなら
この世で最も美しい人。


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「あいしてる」と言って
私が崩壊してしまう前に
はやく
たったひとことだけでいいから
「あいしてる」と
小さな声で


「あいしてる」と言って
私がほしいのはそれだけで
私の輪郭が見えなくなって
あなたにはもう分らなくなる
その前に
最後に聞くのはあなたの声がいい



「あいしてる」と言って
会えなくなる夜に
誰もいない夜に
小指を絡ませる夜に





それでも私は
あなたのためだけに
「あいしてる」と呟いた。


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「誰も傷つけたくなんて無いんだよ」と彼女は言った。

「誰も傷つけたくなかったんだよ」と彼女は言って、瞼を伏せた。

「誰も傷つけるつもりなんて無かったのにね」そういって彼女は、瞼を少し震わせて、少しだけ泣いた。





誰も傷つけたくない、と彼女は何度も繰り返した。

そんなこと無理なんだよ、と私は言った。

どうして、と彼女は言った。

どうしてもだよ、どうしてもあなたは誰かを傷つける。





傷だらけになって、ぼろぼろになって、裏切って、裏切られて、私は今日も生きていく。

あなたと二人で生きていく。


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彼が口にした言葉は、

空気に触れたとたん一瞬で凍って、

床に落ちて音を立てた。

かつーん。



私はそれを拾い集めて

手のひらの中で暖めて暖めて

でもみるみるうちにしおれて死んでしまった

へにゃ。


死んでしまった彼の言葉を握り締めて、

私はただただ泣く事しか出来なくて、

ねえ、私は此処にいるよ、

小さくて弱かったあのときみたいに。

うわーん。





夢から覚めた後の、

空っぽな感じ。

無理やり引き戻されてもう戻れない、

そんな感じ。

どうして今頃になってあんな夢を見たんだろう。

すっかり高く上ってしまった太陽が、

カーテンの隙間から覗いて私の眼を焼いた。


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二限目の体育の授業のときに、松本が倒れた。

私はそのとき、「今日の松本、隈凄いなー」とか「なんか体がぐらぐらしてるなー」とか思いながら彼を眺めていたのだけど、それがいきなりふらりと傾いたものだから、一瞬何が起こったのかわからなかった。

グラウンドに砂まみれになって横たわる松本をぼーっと見ていたら誰かが「せんせーい!松本君が倒れましたー!」なんて叫んでいて、ああ、松本倒れたんだ、なんで松本倒れたんだろう、松本大丈夫かな、なんて混乱した頭で考えていて、そしたらいつの間にか先生が二人組みで担架に松本を乗っけて運んでいって、そこで私はやっと状況を理解した。



松本が倒れた。




その後の授業を、私がどんな風に受けたのかは覚えていない。

それでも終業のチャイムと同時に、ぺっしゃんこの鞄をひっつかんで教室を飛び出したことだけは覚えている。






「松本!」


病室の戸を勢いよくあけると、奥の窓際のベットに松本が横たわっているのが見えた。

松本が居た部屋は六人分くらいのベットがあったけど、今は誰も使っていないらしく、病室には、ぴくりともしない松本と私の二人だけだった。


「ま、つもと、まつもと、松本、松本」


私は「松本」以外の言葉を知らない人間みたいに、ただ彼の名前を繰り返しながら、松本の傍に駆け寄った。

松本は一割くらい体の大きさを縮められた様に見えて、唇なんかアジの干物みたいに乾いてて、もともと細いのにさらに細くなった様な気がする手首は白い毛布の上に投げ出されていて、左腕には点滴の針が刺さっていて、私は松本はなにか重大な病気にかかってしまったんだととっさに思い込んだ。


いやだ松本死なないで、死なないで、死なないで。


私は無意識のうちに松本のベットの枕元にしゃがみ込んで、投げ出されている松本の左手を両手で握った。

私より少し大きな手のひらだったけど、かさかさに乾いていて骨ばってごつごつしていた。

午後の太陽の光は窓から柔らかく降り注ぎ松本の顔をより一層白くみせた。

そんな松本を見ていたら凄く不安になったので目をぎゅっと閉じた。

酷い耳鳴りがして、頭がガンガンする。

それらを振り払うように私は心の中で唱えた。


死なないで死なないで死なないで 「死なないで」












「死なないで、って何」


墓石のように静かだった病室に、松本の少し高い掠れた声が響いた。

はっとして顔を上げると、松本はベットに横たわったまま、濃い紺色の隈をくっつけた目で私をじっと見ていた。


「勝手に、殺さないでくれる」


微かに苦笑しながらそう言う彼を見て、私は今までで最も大きな安心の波が私を飲み込むのを感じた。

冷凍された牛肉のように固まった全身の筋肉が、一気に緩むのが分った。

私は痺れた喉から、一生懸命言葉を搾り出した。


「だって、松本、大変な病気だって、違うの?」


「誰が言ったの、それ」


「私が、勝手に、思った、ん、だけど」


そういうと彼はすこし驚いたような表情で私を見た。

私はなんとなく自分が勘違いをしていたことに気付いて、急に恥ずかしくなって顔を背けた。


「ああ、そうか、ごめん」


そういうと松本は可笑しくてたまらない、という風に仰向いたままこらえるように笑い出した。


「なんで笑うの」


ああ、やっぱり私は勘違いしていたんだ。

確信するとさらに、恥ずかしさで一杯になって、頬が熱くなるのが分った。

松本はまだ体を震わせて小さく笑っている。


「貧血でね、倒れただけ。ねえ、ごめんって。そんなに怒んないで」


怒ってない、私がそういうと松本は「僕が悪かったから」と絶対悪いと思っていない表情で言った。

私は徐々に、今にも死にそうだった松本を忘れて、いつもの松本を思い出していった。

私の知ってる松本が今、目の前にいる。

私はそれが、実はとても幸せなことなんじゃないかと、強く思った。


しばらくの沈黙の間に、私と松本の呼吸の音だけが聞こえていた。






「死ぬほど空腹になってみたかったんだ」


松本は、唐突に言い訳するみたいにぽつりといった。


「多くの日本人がそうなのかもしれないけれど、僕は『空腹で死にそうだ』と思ったことがないんだ」


そういってから少し考えて、「満腹で死にそうだと思ったことはあるんだけどね」と彼は笑った。


「きっかけは、なんだったのか分らない。でも僕は突然その事実に気付いて、それからそのことが酷く異様なことなんじゃないかと思ったんだ。空腹を知らないことがね。すごく怖くなった。海の向こうにはお腹をすかせて死んでいく子供達が沢山いて、それなのに僕は『これ以上食べたらもう死んでしまう』って言いながら最後の一口を生ごみとして捨てている。まあ、そのことはとりあえずはいいんだ。僕は、もちろん差別主義者ではないけれど平等主義者ではないし、世界なんてそんなもんだと思ってるからね。ただ、僕はその海の向こうの乾いた大陸で薄っぺらになって死んでいく記録されない子供達の気持ちになってみようとしたんだ。空腹で死んでしまいそうな子供達の気持ちに。まあ、今思えば当然だけど僕には全く想像できなかったよ。そしたら、なんていえば良いんだろうな、とにかく怖くなったんだ、うん。本当の空腹を知らないまま、海の向こうの子供達を分らないまま生きていくのが怖くなってしまった」


彼は天井を見つめたまま、焦点の合わない目で話した。

私は何故か、彼の話に口を挟んではいけない気がして、跪いたまま彼の横顔を眺め、何度も頷いた。


「何も食べないと決心したんだ。死にそうなくらい空腹になってやろうと。そうするしかなかったんだ。そうするしかなくて、僕は、この三日間実際に何も食べずに過ごした。さすがに水は飲んだんだけどね。でもそれも本当に少しで、本能的に体が危機感を感じて飲んだだけなんだ。少なくともそれによって空腹を満たすなんてことはなかった。そして僕は確かに空腹になった、担架で運ばれるほど空腹になった。だけど、まだ『死ぬほど空腹』って訳じゃないらしい」


彼はそんな風に話すことで、物凄く体力を使っているみたいに見えた。

少し息があがっていて、顔色も悪くなっているようだった。

それでも私は、「話はまた今度聞くから今日は休みなさい」とは言えなかった。

私はまた頷きながら、彼の話の続きを待った。


「死んでいく子供達の気持ちになろうと思ったんだ。本当に、馬鹿みたいなんだけど。しかしどうだろう、僕はすぐに病院に搬送され、清潔な衣服に着替えさせられ、ブドウ糖の水溶液を点滴された。友達の女の子が飛んできて、『死なないで』って泣きそうになりながら手を握ってくれて、しかもその手は暖かくてこんなにも柔らかい」


私はそのとき初めて、彼の手を握ったままだったことに気付いた。

慌てて離そうとすると、彼は私の手をぎゅっと握って離せないようにした。

私はただひたすらうつむいて、顔が熱くなっていくのを悟られないようにするしかなかった。


「逆に、馬鹿馬鹿しいほど幸せだと気付いたんだよ」


そう言って彼は長い長いため息をついた。

私がそっと顔を上げると、彼はすでに目を閉じていた。

長い睫が夕方の日差しに濃い影を作り、目の下の隈と境界が曖昧になっていた。

私はそれを眺めながら、彼の悲しみや諦めのようなものがそこに溶け込んでいるような気がして泣きたくなった。


馬鹿馬鹿しいほど幸せだと気付いた。


その事のどこがいけないんだろう。何も悪いことじゃない。むしろそれだけでもいいんじゃないか。そこにある幸せの存在に気付くことが出来ただけでも。


もう寝ても良いかな、疲れた、といいながら彼は私の手を自分の体に引き寄せた。

うん、おやすみなさい、私がそういうと彼は「死にたいくらい、幸せだ」と悲しそうに笑った。







「もしかしたら僕達は、この小さな島に、『幸せな人間』として隔離されているのかもしれないね」


私は眠りに落ちる間際の彼の言葉を黙って聞いていた。


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