「先生、この布をもらって来ました」
生徒の丸山さんが家紋の入った古布をもって来た。



紺地に大きな家紋が白抜きされている、紺地は藍染めであり、
まだ緑味が残っているということは布地は使ったものではない。
家紋は[蔦]の紋である。

形は長持ちを包んでカバーした木綿の油箪である。

「これをどこから?」
「三谷の鈴木さんからもらって来たのよ」



私を驚かせたのは布地である。
経糸も緯糸とも[手紡ぎ]の木綿糸である。
多分江戸末期か明治初めの物であろう、

三谷に嫁いで来たお嫁さんの油箪であろうが
きっと裕福な家庭のお嬢様の物であったろうと思われる。



10数年前に[江戸時代の三河木綿]を求めて三河一帯を
市役所の商工労政の職員と一緒に探し歩いたことがある。

それが今日の蒲郡の[三河木綿]復元と復興ルネッサンス事業の
始めであった。

[手織場]や[夢織人]を興す出発点は江戸期の手紡ぎ木綿布探しであった。
私達には、それが蒲郡の繊維の出発点であり、
根っこ(ルーツ)を置き忘れて来た蒲郡産地の原点探しだったのだ。

全部で数平方メートルある、丸山さんはこれを保存する気はない
私のファッションショー用衣装に何か作るつもりらしい。