ノワール その77 | それからの成均館

それからの成均館

『成均館スキャンダル』の二次小説です。ブログ主はコロ応援隊隊員ですので多少の贔屓はご容赦下さいませ。

㊟成均館スキャンダルの登場人物による創作です。

  ご注意ください。

 

 

 ジェシン達は大学進学を決めていた。休戦となった内戦が再開されることはなく、ソウルの街は日常を取り戻し、逆に発展を始めていた。

 

 そんなとき、ヨンハからレストランに誘われた。一年前に開業したレストランは、大病院を向かいに据え、昼と夜の価格帯を綺麗に分けたせいか、昼は病院関係者から家族連れ、夜は少し高級路線のものとして違う客層を取り込み繁盛していた。そのため、それこそジェシン達の下校時刻が夜の開店までの休業時間帯になっていて、ちょっと新メニューの試食に付き合えよ、というのが誘い文句だった。

 

 行ってしばらくすると、閉まっているはずの入り口から二人の男が入ってきた。

 

 ハ・インスと、今日も学校で顔を突き合わせたカン・ムだった。

 

 インスとは彼の父が経営するハ興業が警察の捜査を受けてから会っていない。両親と妹は逃亡し、インスは自宅で家宅捜索を堂々と受け、事情聴取も受けた後、カン・ムの家に厄介になっていた。父親同士が同郷で友人だったため、カン・ムの父親がインスの保証人になってくれたのだ。全くインスの父親の仕事と関わりなく生きてきていたからすんなりと通った話だった。

 

 あの後、インスの家族は発見された。海外逃亡・・・よりによって戦争相手の北の国へ逃げようとしていたため、厳しく取り調べを受けていた。これについては、親戚の多くが北に取り残されていたため、仕送りをしていたという経緯もあり、親族を頼ったというのが真相ではあるらしい。あんなに米兵相手の商売をし、それこそ養子あっせん業などもアメリカ相手だったくせに、と皆唖然としたものだ。

 

 まだ事件は終わっていない。彼らの組織がしていた斡旋業で、何人もが海外に養子に行った体になっているが、その中には『孤児』ではなく、相手の要求に見合う年恰好の子どもを、ただの迷子なのに、勝手に親のいない子として隔離し、養子に出していたことが分かった。また、体のいい使用人にするために養子として買われていった少年少女・・・この子たちはそれなりの年齢になっていたからだったらしいが・・・も何人もいる。拾った時は浮浪児でも、親と離れ離れになってしまっただけで、何年も探されている子だっていたのだ。まだその子たちの行方は全員分かっていない。

 

 売春宿の方も問題だった。生活のために体を売った女性もいたが、新たな売春婦を確保するために、博打場で父親や兄弟に借金を作らせ、娘に払わせる、という形をとった。余りに上手くいったために、手を広げた。勿論抵抗する娘も多かったから薬も使った。博打場だって客が基本負けるよう、いかさまが横行していた。利子を国で決まっているものとは比べ物にならないぐらい高く設定し、もとより後ろ暗い金の使い道故、借りる当てのない客は店から紹介される融資先しか道はない。そうやって女性の供給を確保し、女性を使い捨てするような商売をやるようになって、逆に売春宿は繁盛した、皮肉なもので。女性を商売道具としてしか見なかった男たちが、ユニをいかに雑に攫おうとしたか、その理由の一端がそこに在る気がした。

 

 人権侵害の最たるものである略取、暴行、そして薬事法、貸金業法、賭博に関する禁止法など、罪状は多岐にわたる。インスの母は先に釈放され、とりあえず無傷だったインスの祖父母・・・かつて妓楼を生業としてたが、インスの父にかつての妓楼を譲ると、ソウルの隅っこにこぎれいな家を建ててそこで優雅に暮らしていた・・・のところへ娘と共に移った。かつてのハ興業のシマは、賠償金などのために売り払われることとなり、半分ぐらいはヨンハの父の会社が購入したようだ。今、再開発が進んでいる。

 

 インスは母の元へは行かなかった。ずっとカン・ムの家に居候させてもらっていた。学校へも来なかったから、ジェシンが会うのは本当に久しぶりだった。背は少し伸び、ほっそりした頬になっていたインスだが、眼は相変わらず鋭かった。そして口元に湛えた笑みも、相変わらず、と言っていいほど不敵なものだった。

 

 「久しぶりだな。」

 

 その言葉も、相変わらず偉そうで、逆にほっとした。

 

 

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