報告)大阪4オケ共同記者発表会に出席した
報告)大阪4オケ共同記者発表会に出席した
※ネット配信
大阪4オケ 2022年度シーズンプログラム共同記者発表会
2021年11月17日(水)17:00
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大阪4オケ2022年度シーズンプログラム共同記者発表会に出席した。
まずは、それぞれのオーケストラの会見。
(1)大阪交響楽団
新たな指揮者3人体制は、いずれもオペラに精通した3人という形になった。
新常任指揮者の山下一史は、
「この楽団がこれまでに獲得した広いレパートリーを、これからは精査して、王道のレパートリーとする」
「最初の定期演奏会では、R.シュトラウスの総決算といえる『英雄の生涯』を、我々の決意表明として」
「大阪音大カレッジオペラの指揮者時代に知ったソプラノの石橋栄実と、『四つの最後の歌」を」
「シューマンの交響曲は是非、4曲ともやって、できれば録音もしたい」
「メンデルスゾーンの交響曲も、3、4、5番をやる予定」
「盟友というべきサックスの須川展也とも共演」
と、大阪の地での意気込みを語った。
(2)大阪フィルハーモニー交響楽団
オケの75周年と、指揮者の尾高忠明の就任5年目、75歳記念でもある。
昨年から来日中止だった海外指揮者たちを中心に組んだラインナップ。
(3)関西フィルハーモニー管弦楽団
指揮者の藤岡幸夫が熱弁をふるう。
「自分は貴志康一の親戚筋でもある。その貴志の交響曲「仏陀」を定期で改めて取り上げる。現代日本の作曲家の作品を演奏するのが使命」
「下野竜也さんが定期演奏会に登場する。以前から声かけしていたが、彼が京都響のポストを離れたから、ようやく実現した。
関西のオケにポストがあると、他の関西のオケを振らない慣習がある。これは良い慣習だ。東京では誰がどこの指揮者かわからないところがある。」
関西フィルのヨーロッパツアーは、2023年を目指している。
(4)日本センチュリー交響楽団
来季は来日アーティストを減らして、日本の若手と共演する方針。
秋山和慶は「英国もの」中心のプログラム。
久石譲は、自作とシューマンの交響曲。シューマンの交響曲4曲は録音も予定。
さらに九州交響楽団と合同演奏会でストラヴィンスキー『春の祭典』と、大編成が必要な自作の交響曲もやる。
飯森範親は、新たに指揮者兼任のパシフィック・フィルハーモニア東京と共用できる学生年間パスなど、東京と大阪で様々な取り組みをしていく。大阪の音楽シーンを開拓、盛り上げていくつもり。
漆原啓子と、モーツァルトのコンチェルト全集録音も予定。
今回、日本センチュリー響からは、特筆すべき発表があった。
来年度から、新理事長の方針である「お客様ファースト」の実践例として、
その1)
高齢者の会場離れに対応して、送迎バスを大阪駅からシンフォニーホールまで運行開始。
その2)
学生向けに年間パスポート、5千円で全公演聴き放題。
しかも、オーケストラ・アライアンスを組んだパシフィック・フィルハーモニア東京との共用パス。東京と大阪どちらでも全公演きける。
※詳細
日本センチュリー交響楽団イヤーブック2022−2023より
日本センチュリー交響楽団 学生年間パスポート
(概要)
5000円で1年間聴き放題
本パスポートは25歳以下の学生ご本人様に限りご利用
毎回事前にお席のご予約が必要(イヤーブックに掲載の全公演が対象)
限定100席
予約開始日は各公演、一般発売日の約2週間後
日本センチュリー交響楽団と、パシフィック・フィルハーモニア東京(旧・東京ニューシティ感変楽団)で使用できる
以下、質疑応答で出た話をいくつか書いておく。
質問:「4オケの4大シンフォニー」演奏会について、尾高忠明と藤岡幸夫に抱負を問う。
藤岡「4オケ演奏会のようなことは、東京ではできない。大阪だからできること。毎回、客席で勉強させてもらう機会」
尾高「最初、東京でこの4オケ演奏会の話を聞いて、半信半疑だった。違うオケ同士、知ることは大切だ」
質問:「若者をコンサートにどう呼ぶか?」
藤岡幸夫の回答
「関西フィルでは、定期演奏会で学生券1000円、毎回埋まっている」
飯森範親の回答
「学校での音楽教育をみても、いかに音楽を嫌いにさせないか、が重要。子どものお小遣い考えると、1回1000円じゃ高い」
尾高忠明の回答
「ウィーンの事例、子どもだけでなく市民にも安い席を提供。札幌では、市内の全小学生を招待した」
山下一史の回答
「ベルリンでは、演奏会の売れ残りチケットが誰でも5マルクで買える。ところが日本では、クレームを心配してできない。
また、日本は学生吹奏楽が盛んだが、それがオーケストラの客にはなぜかならない。吹奏楽部へのオケ側からのアプローチの工夫を」
ネット募集からの質問:「それぞれのオケを一言でいうと?」
山下一史&大阪響
「常任に招かれたきっかけの演奏会で、ものすごく熱い反応をみせてくれた」
「熱いオケ」
尾高忠明&大阪フィル
「これまで自分がやってきた曲でも、全くなかった響きを出してくれる」
「自分に今までないもの(気づかなかったもの)を表出するオケ」
藤岡幸夫&関西フィル
「3人の指揮者とこれだけ長い期間やっているオケも珍しい」
「パッションがあり、よく歌うオケ」
飯森範親&日本センチュリー響
「自分の信条はこの上なく美しい響きであり、このオケはハイドンマラソン、の成果が出ている美しい響きがある」
「美しい響きで必ず癒しの時間を与えるオケ」
そうして、時間ギリギリまで質疑応答があり、最後にフォトセッションをして、会見は終了した。
この会見は、ネット配信されていたので、本来ならオフレコにされそうな、爆弾発言もそのまま視聴されていただろう。はたして、ネット上での反応がこれからあるかどうか?そちらも楽しみだ。
ちなみに、その発言は、尾高忠明の言った言葉「学校の面白くない音楽鑑賞、きっとそれを聞いてきたのが橋下さんだったんだろう」
もちろん、12年前、橋下府知事時代から大阪の音楽団体が補助金を減らされたり潰されたりしてきたことを、皮肉った発言だ。
だが、そのきっかけで「大阪4オケ」演奏会が実現していったのだから、まさに災い転じて、だったともいえよう。
ところで、今回の会見でも話が出たが、在阪オケの定期演奏会での曲目や作曲家がかぶってしまう現象について。記者の質問も、オケ側の回答も、当たり障りのないものだったが、筆者は、なぜ来季以降、シューマンの交響曲がかぶっているのか、が気になった。しかも、シューマンの交響曲全集録音を、山下一史も、久石譲も企画中とのこと。これは、モロ被りといえる。もちろん、シューマンの交響曲全集のCDが複数、同時に作られようと、それは構わないのだが、はたして営業的に、いまの日本のクラシック音楽市場で、シューマンの交響曲がどの程度売れるだろうか?
それを考えると、非常に不安でもある。
もう一つ、今回も、「4オケ」演奏会について、また日頃の演奏会について、大阪の聴衆の温かさ、が強調された。
だが、はたして本当にそうなのだろうか?
大阪のクラシックファンがいくら演奏会会場で温かい拍手をしようとも、大阪府内としては、クラシック音楽団体とオーケストラに対する扱いは、このコロナ危機も一つのきっかけとなって、落ちる一方に思うのだ。
それは行政も、一般市民、世間の対応も、あまり変わらないように感じる。大阪では(でも、というべきか)、間違いなく、クラシック音楽やオーケストラへの風当たりは、厳しくなっている。
このまま、大阪府内の文化行政が変わらず、音楽や舞台への風当たりが厳しいままなら、これから何年後かの関西の音楽状況は、決して楽観はできないのだ。
※会見後、会場のセンチュリーハウス前から見た服部緑地の月の出。
※直近の、筆者による在阪オケ演奏会評
演奏会評) 日本センチュリー交響楽団&飯森範親、新倉瞳(チェロ)のファジル・サイ新曲関西初演!
https://ameblo.jp/takashihara/entry-12705404146.html
菅野祐悟のチェロ協奏曲、世界初演〜藤岡幸夫&関西フィル、宮田大のチェロ