映画『ミュンヘン』 (過去の批評アーカイブ9
2006年02月21日
映画『ミュンヘン』
スピルバーグの話題の映画。これは実話をもとにしたハードな現代史ドラマで、『シンドラーのリスト』路線の作品である。
それにしても、スピルバーグは本当にぶれない。なんだかんだいわれながらも、自分の撮りたいものをしっかり撮っている。
この映画は、「ファミリー」映画である。テーマはファミリー。敵は国家。
前年の『宇宙戦争』と同じく、敵は違っても、やはり家族を守るために戦う父親の話である。
原作は、主人公の実在の元イスラエル情報機関の工作員が書いていて、そのスタンスは、やはりイスラエル人、ユダヤ民族のアイデンティティを前面に出している。イスラエル国家に裏切られて散々な目にあった末の話であっても、やはり国家への熱い思いが言葉の端々から迸っている。
映画化されたこの工作員の主人公は、そうではない。まるでアメリカ人のリベラル派の元兵士といった印象で、ついはずみで引き受けた暗殺ミッションを、しだいに後悔していく、といった描き方をされている。
もっとも象徴的な場面は、マフィア的秘密組織の手引きで、世界各国のテロ組織が、一箇所のアジトにたまたま同居した一夜の、PLOのテロリストと主人公の対話である。仇敵同士だが、一対一の個人としては、互いに心を通わせた印象を受ける。しかし、その直後、この二人はそれぞれのミッションで顔を合わせ、撃ち合って、PLOのテロリストが主人公に撃ち殺される。
まったく、国家や民族が個人を押しつぶしたのだ、という描き方である。
主人公は、イスラエルの工作員であるが、実はもう一人の主人公は、マフィア的秘密組織のボスである。この二人は、どちらも家族愛で共通していて、どちらも国家から見捨てられ、国家に対抗して生きることになる。
冬季オリンピックが開催中でもあり、デンマークの風刺漫画の事件でホットな事態が進行中でもある今、必見の映画ではある。しかし、そこにこめられたメッセージは、個人尊重のリベラル一辺倒なものである。中東情勢にうとい人が観て、あっさり反国家・反民族の左翼イデオロギーに与するようになるのは明らかなように思える。
ともあれ、主人公の二人が、一途に家族を愛する姿に、感動の涙がこぼれることは請け合いである。そういう「ファミリー」映画として、いかにもスピルバーグらしい佳作であるといえる。
映画『ミュンヘン』
スピルバーグの話題の映画。これは実話をもとにしたハードな現代史ドラマで、『シンドラーのリスト』路線の作品である。
それにしても、スピルバーグは本当にぶれない。なんだかんだいわれながらも、自分の撮りたいものをしっかり撮っている。
この映画は、「ファミリー」映画である。テーマはファミリー。敵は国家。
前年の『宇宙戦争』と同じく、敵は違っても、やはり家族を守るために戦う父親の話である。
原作は、主人公の実在の元イスラエル情報機関の工作員が書いていて、そのスタンスは、やはりイスラエル人、ユダヤ民族のアイデンティティを前面に出している。イスラエル国家に裏切られて散々な目にあった末の話であっても、やはり国家への熱い思いが言葉の端々から迸っている。
映画化されたこの工作員の主人公は、そうではない。まるでアメリカ人のリベラル派の元兵士といった印象で、ついはずみで引き受けた暗殺ミッションを、しだいに後悔していく、といった描き方をされている。
もっとも象徴的な場面は、マフィア的秘密組織の手引きで、世界各国のテロ組織が、一箇所のアジトにたまたま同居した一夜の、PLOのテロリストと主人公の対話である。仇敵同士だが、一対一の個人としては、互いに心を通わせた印象を受ける。しかし、その直後、この二人はそれぞれのミッションで顔を合わせ、撃ち合って、PLOのテロリストが主人公に撃ち殺される。
まったく、国家や民族が個人を押しつぶしたのだ、という描き方である。
主人公は、イスラエルの工作員であるが、実はもう一人の主人公は、マフィア的秘密組織のボスである。この二人は、どちらも家族愛で共通していて、どちらも国家から見捨てられ、国家に対抗して生きることになる。
冬季オリンピックが開催中でもあり、デンマークの風刺漫画の事件でホットな事態が進行中でもある今、必見の映画ではある。しかし、そこにこめられたメッセージは、個人尊重のリベラル一辺倒なものである。中東情勢にうとい人が観て、あっさり反国家・反民族の左翼イデオロギーに与するようになるのは明らかなように思える。
ともあれ、主人公の二人が、一途に家族を愛する姿に、感動の涙がこぼれることは請け合いである。そういう「ファミリー」映画として、いかにもスピルバーグらしい佳作であるといえる。