ジャコビはどうして関西弁? | 作家・土居豊の批評 その他の文章

ジャコビはどうして関西弁?

「ぐーちょこらんたん」というTV番組の着ぐるみショーに行ってきた。NHK教育の人気番組だ。小さい子供のいる家庭なら、たいていあの軽快でユーモラスなテーマソングが流れているだろう。
そのキャラクターの一人、ジャコビは、どういうわけだか、関西弁でしゃべる。他の3人は、普通に共通語なのに。もっとも、ズズという主役の一人は独特の癒し系のしゃべりなのだが。
このジャコビ、主役の姉妹の遊び友達でボケ役といったキャラなのだが、考えてもみよ。果たして、ジャコビが東北弁でしゃべったら、もしくは薩摩弁で、名古屋弁で、そんなのありえるだろうか。と考えると、ある重要な意味が浮かび上がってくる。
何しろ、この番組は、NHK教育TVが全国の幼い子供たちに発信する最大級のメッセージなのだ。子供たちは、この4人の友情と成長のお話を見て、胸ときめかして毎日を過ごすのだ。
だから、基本的には、あくまでこのキャラたちは、共通語を話さなくてはならない。そうでなければ、文部科学省的に正しい日本語でメッセージが伝えられない。
ところが、唯一の例外として、関西弁だけは、共通語に次ぐ方言として、ジャコビのボケキャラを表現しやすいために、認められるのに違いない。
関西弁の小説を模索している私にとって、このことは、なにやら突破口のようにも見えてしまう。今や、ヨシモトとタイガースとタコヤキしかないように東京人に思われている大阪のアイデンティティーを、関西弁小説で回復してやろう、との野望を抱いているのだが、考えてもみよ。全国の幼児たちは、ジャコビを通じて、関西弁を怪しげではあるが習得しているはずなのだ。だから、関西弁で小説を書いても、ジャコビを知っている子供たちなら、おそらくは、そう読みにくく感じないはずだ。
もっとも「ぐーちょこらんたん」がいつまで続くかにもよる。願わくば人気が落ちませんように。そう念じて受信料も払っているのだ。
5月4日