週刊朝日のハシシタ連載中止でいえるただ一つの事実 | 作家・土居豊の批評 その他の文章

週刊朝日のハシシタ連載中止でいえるただ一つの事実

週刊朝日のハシシタ連載中止でいえるただ一つの事実

※この件についての私の過去ブログ記事
週刊朝日掲載の佐野眞一氏「橋下市長評伝」について
http://ameblo.jp/takashihara/entry-11383202388.html


橋下市長の出自記事について。
個人的には、彼の正体に大いに興味がある。自分も大阪府民だから、彼がもし人格的に問題があるとしたら、首長をやってほしくない。
公人、とくに権力者のプライバシーは、一般市民にとってときにその人物を評価する貴重な情報となる。次の首相候補となればなおさらだ。
記事を出した週刊朝日と、親会社の朝日新聞は、また別ものだ。
週刊誌というのは、大衆の欲求から生まれる。また、いわゆる報道と、ノンフィクションとは、これもまた異なるものだ。ノンフィクションは、ある人間の正体にぎりぎりまで迫ることができる。
私自身は、権力者の正体にぎりぎりまで迫ったノンフィクションをぜひ読みたい。
ところで、
ニコ生で橋下市長の記者会見を視聴した。。朝日新聞は不甲斐なさ過ぎる。終始、橋下ペースで圧倒されていた。お得意の論点すりかえで、問題が「血脈主義、優生思想」の人権侵害的議論になった。こうなると、朝日の側が世間的にも不利だ。下手すると、朝日は橋下支持率アップに貢献したかも?
もしかしたら、週刊朝日の橋下市長出自記事は、支持率下落の橋下氏や維新の会にとって、人気回復の格好のチャンスかもしれない。この件で、橋下側に世間の同情が集まれば、支持率もまた上がるのかも。
ちなみに、
橋下氏はほんとかうそか、あの佐野眞一を知らないらしい。「いくつの人か知らないが教育がたりない」とばっさり。かの佐野眞一を「単なるライター」扱いだ。「会う必要なし」と切り捨てて、あくまで親会社や編集長と話すると。
このひとは、記事の書き手をとことん見下す姿勢を崩さない。こうなると、佐野氏は橋下氏に公開取材を申し込めばいいのに。そうしたら、橋下氏は受けざるをえなくなるだろう。
この橋下市長出自問題、ツィッターTLでは、どうやら週刊朝日に分が悪そう。橋下氏の親会社攻撃にひるんで、朝日新聞側が手のひら返して逃げたからだ。なにせ、人権問題が全面にでると、雑誌の一つや二つ、簡単に廃刊になる。
それにしても、
橋下市長が週刊朝日の佐野眞一連載を中止に追い込んだのは権力による言論弾圧だが、朝日新聞の20日の紙面もいただけない。


作家・文芸レクチャラー土居豊ブログ「震災後の文学・芸術」

他人事みたいな記事だけだ。どうせなら、社としての主張を堂々展開したらいいのに。
週刊朝日はノンフィクションの大家、佐野眞一を結果的に使い捨てにして、自身は矢面に立たない。卑怯極まる姿勢だといえる。
問題の連載を中止に追い込んだ夜、橋下氏は、自身のツィッターで、勝ち誇ったように、また攻撃欲求に身をまかせるかのように、狂気じみた攻撃の言葉をツィートし続けた。

※橋下氏のツィート引用

「佐野のような大ばか者や、大谷昭宏氏、二木氏、住田弁護士、江川紹子氏、高村薫氏その他数多くのメディア芸者、有田芳生参議院議員もどうでも良い。」

「佐野の大馬鹿は、誰に聞いたか知らないが、僕の実父は、「頭がおかしかった」、「シャブを打っていたはずだ」と話す誰か知らない者の話をそのまま公にしている。こんな手法を許したら何でもありになる。」

「よくもこんなことを公にできたものだ。こういう話は、フィクションとして想像の世界でやれ。佐野は一度俺の前に出て来い。お前のその妄想、思い込みが何に基づいているか確認してやる。朝日新聞社グループよ、過ちには二つある。謝って何とか済む話と、謝っても済まない話だ。」

「今回の件は、謝って済む話ではないことは分かるだろ。それでも最後のところで謝罪と連載打ち切りにした。これでノーサイドにしてやる。」

「佐野さんね、僕はあんたが言うように危険人格かもしれないし、先祖や家系はしょうもないかもしれないけどな、自分のケツぐらい自分で拭けるぜ。うちの子どもも自分のケツは自分で拭けるように育てている。佐野よ、自分のケツぐらい自分で拭けるようになってから偉そうなことを言えよな。」


また、問題なのは新聞の姿勢だ。
これらのツィートをそのまま引用掲載する20日の朝刊。新聞は大阪市長の恫喝に屈して、御用機関となったのか?

※記事に引用された橋下氏のツィート
「“@t_ishin: …謝罪と週刊朝日での連載打ち切り。これでノーサイドだが、その前に一言、言わせてもらう。今回の件で僕の子どもにどれだけの影響があるか、じっくり想像しろ。”」


たとえ、橋下氏に政治的手腕があるとしても、一連のツィートのように、自らの怒りにまかせて、他者をコテンパンに攻撃する性質をみれば、とても国政を委ねる気にはなれない。大阪市長としても、大阪都知事?としても、こんな不安定な人物には任せたくない。
政治家たるもの、怒りにまかせてネットで世界中に罵詈雑言ツィートを垂れ流すのではなく、あくまで外向きには冷静な姿を保つべき。こんな切れっぷりを内外にさらすようでは、とても国政を担う資質はないと思う。

さて、まとめよう。
週刊朝日のハシシタ連載中止で、現実に起こったことは、一人のベテラン・ノンフィクション作家の書こうとした政治家評伝が、その政治家の恫喝によって、発禁にされた、という事実。
その評伝の中の差別表現によって心が傷ついた人がいたかもしれないし、誰もいなかったかもしれない。その表現を削除すれば解決することでも、作品全体を発禁にされた、という既成事実、
しかも、公開の場で恫喝が行われ、言論人達が尻馬に乗って恫喝を支持した事実は、この政治家へのいかなる批判も許されない、という空気となって、この政治家の権力を絶大なものにするだろう。
結果的に、佐野氏はハシゴをはずされた。文言の問題ならお詫び訂正で済む話だ。まさに権力による言論弾圧。しかも、公開の場で弾圧が進んだ恐るべき事態。
佐野氏は週刊朝日に裏切られた。だが、諦めずに単行本にしてほしい。権力による言論弾圧が衆人環視の中、進行した。恐怖政治。
最後に、微かな希望の光。
朝日は佐野氏を見捨てたが出版界はまだ腐ってない。



※橋下氏のツィート引用

「“@t_ishin: それと佐野がなんかやっかいな動きをしているとの情報をキャッチ。最小限の文言修正をやって週刊朝日の記事を単行本に替えて別出版社から出版するとの情報。しつこいね。それ、佐野が徹底的に人格批判している僕と同じ性格だ。」

どうやら、噂が本当なら、佐野眞一の描くノンフィクション「ハシシタ」は、単行本として読むことができそうだ。
完成を心待ちにしたい。