文楽の嫌いな橋下氏に『絵本太功記』をお薦めする | 作家・土居豊の批評 その他の文章

文楽の嫌いな橋下氏に『絵本太功記』をお薦めする

文楽の嫌いな橋下氏に『絵本太功記』をお薦めする
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「また、文楽協会の補助金のうち2千万円を若手技芸員の育成に割り当てることに批判の矛先を向け「師匠が弟子を育てるのに公金をつぎ込むのはおかしい。伝統芸能への補助金支給は生活保障のため。その枠の中でやりくりすべきだ」と持論を展開した。」
橋下氏はこのように、下記参考記事の中では、文楽の師弟関係を批判した。
だが、伝統芸というのは、師匠が弟子を育てて、次代に受け継がれていくものだ。エンターテイメントのような、一代限りの芸とは、根本的に異なる。
たとえば、吉本の芸人の一発芸を、師匠が弟子に教えるために公金を投入する、というのは、明らかにおかしい。
だが、文楽にせよ、歌舞伎、能にせよ、今の師匠が弟子に芸を伝えるのは、師匠自身も、その師匠から伝えられた技を、次代に伝承する、ということだ。
つまり、極端にいうと、今の師匠は、自分自身の技になにも新しい要素を付け加えられなくても、自分が師匠から伝えられた技を、そのまま弟子に伝えられたら、それで使命を果たしたことになるのだ。
ようするに、伝統芸とは、伝承することが最大の目的だ。
だから、歌舞伎や能は、家そのもので技を守り、親子で芸を守ってきている。
文楽の場合は、家制度ではない。
そこが、歌舞伎と文楽の大きな違いなのだが、そういうことを、橋下氏はわかっているのだろうか?
それにしても、橋下氏は、知事時代、一度だけ文楽をみて「二度とみない」と言ったらしい。
どんな演目だったのだろう?
もし、その気があれば、『絵本太功記』をぜひ観てほしい。
秀吉がいかに権力者へのし上がっていくか、その一方、光秀がいかに破滅への道をたどるか、だれもが知る太閤記の物語が、文楽で見事に演じられている。
権力者への道を歩むなら、きっとこの演目から、学ぶべきことがたくさんあるはずだ。

それはともかく、この夏は、ぜひ、国立文楽劇場の夏休み文楽特別公演で近松門左衛門の『曾根崎心中』を観てほしい。
許されぬ愛の道行きは、歌舞伎でやると生々しいが、人形で観ると、この世ならぬ美しさが胸にせまる。近松と同時代を生きたシェイクスピアの『ロミオとジュリエット』と並ぶ、普遍的な愛の物語として、大阪が世界に誇るべき芝居なのだ。

※夏休み文楽特別公演
http://www.ntj.jac.go.jp/schedule/bunraku/2012/1490.html?lan=j


※参考記事
【激動!橋下維新】「全く了承じゃない」と一蹴 大フィル、文楽の補助金の復活 本格予算ヒアリング(産経2012年5月31日)
http://www.sankeibiz.jp/macro/news/120531/mca1205312322030-n1.htm


特集ワイド:橋下市長の補助金削減 文楽軽視、我慢ならん
(毎日新聞2012年06月01日)
http://mainichi.jp/feature/news/20120601dde012040013000c.html



作家・文芸レクチャラー土居豊ブログ「震災後の文学・芸術」