震災後3ヶ月、村上春樹のスピーチを読んで | 作家・土居豊の批評 その他の文章

震災後3ヶ月、村上春樹のスピーチを読んで

震災後3ヶ月、村上春樹のスピーチを読んで

【村上春樹さん「原子力、拒否すべきだった」(読売6月10日)
http://www.yomiuri.co.jp/national/culture/news/20110610-OYT1T00385.htm?from=top
【パリ支局】スペイン通信などによると、スペイン北東部のカタルーニャ自治州政府は9日、作家の村上春樹さんに今年のカタルーニャ国際賞を授与した。
村上さんはバルセロナでの受賞スピーチで、福島第一原発事故について「(日本では広島・長崎の原爆投下に続く)2度目の核の惨事だ」と指摘。「我々日本人は原子力エネルギーを拒否すべきだった。安易に効率を優先する考えに導かれるべきではなかった」と述べた。
村上さんは、原発に反対する人々がこれまで「非現実的な夢想家」と呼ばれてきたとしたうえで、「今や原子炉が地獄の扉を開けた」と語った。さらに、「我々は広島の原爆死没者慰霊碑に刻まれた言葉『安らかに眠って下さい。過ちは繰返しませぬから』を、再び心に刻むべきだ」と訴えた。】

震災後3ヶ月、村上春樹のスピーチを読んで、違和感を覚えました。
それというのも、大江健三郎氏が今回の原発事故について語った意見と、奇妙に一致しているように感じたからです。
奇しくも、ノーベル文学賞作家と、同賞候補作家が、今回の原発事故への意見で一致した見解を語っているのは、興味深いことです。
そして、スピーチの全文を読んでも、村上春樹の語っている意見が、その表題通りまさしく「非現実的な夢想」だということ、その点でも大江氏の意見と一致しているのも面白いと思います。

※参考【九条の会 発足7周年 記念講演会/平和 未来世代への決意(6月5日しんぶん赤旗)
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik11/2011-06-05/2011060501_01_1.html
作家の大江健三郎氏は、日本で原子力基本法が成立した1955年の前年に、米国の水爆実験で第五福竜丸が被ばくし、原水爆禁止運動の高揚があったと指摘。平和憲法のもとで原発をつくらせないという方向もあったことに注意を促しつつ、福島原発事故で人々が死の恐怖に脅かされている中で、あらゆる意味で平和を求めていくことが必要だと強調しました。そして、「これに反対(逆行)する動きにはっきりノーといい、平和な生活をする『決意』を確かめたい」と述べました。】

ちなみに、村上春樹氏のカタルーニャでのスピーチ全文は、以下のリンクで読む事ができます。
http://mainichi.jp/enta/art/news/20110611k0000m040017000c.html?toprank=onehour

「非現実的な夢想家として」というのが、スピーチのタイトルのようです。
村上氏が主張するように、今更、「核開発にノーをとなえるべきだった」と言っても、「現実」にはなにも影響しないでしょう。氏の意見に、なにかしら違和感を覚えるのは、「非現実的」という言葉が、逃げに聞こえるからだと考えます。
もちろん、「非現実的な夢想」は文学の仕事です。夢想的な意見が現実の政治に反映されることがあれば、すばらしいのですが。
もっとも、一番「現実的」であらなければならないはずの首相の発言が、この国で一番「夢想的」だというのも、文字通り悲しい現実だとつくづく感じます。
ともあれ、震災後3ヶ月。本当に、一刻も早く、被災地の「復旧」が進むことを切に願います。と同時に、これも夢想ですが、奇蹟が起こって、原発事故が終息することも祈ります。