1月25日(土)14時開演 トリフォニーホール
第660回トリフォニーシリーズ
マーラー/交響曲第9番ニ長調
指揮:佐渡裕
演奏:新日本フィルハーモニー交響楽団
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佐渡さんの聴衆へのアクションはいつも感心させられます。音楽ファン作りに腐心され、いつも頭を垂れています。この日も演奏前に解説がありました。曲というよりも自分がマーラーの9番を演奏する背景のお話でした。バーンスタインのお弟子さんであるところは皆が知るところです。1970年の大阪万博の年にニューヨーク・フィルを引きつれ、マーラーの9番を日本で演奏したことも話をされました。
僕もマーラーの9番への思い入れがあります。マーラーのレコードを初めて購入したのはワルターがニューヨーク・フィルを振ったモノーラル盤(今時こんなものを最初に購入しませんが)の第5番でした。
第9番はバーンスタインのニューヨーク・フィル盤を購入しました
昭和の人間の多くはこの9番のファースト・コンタクトはバーンスタインが多いのではないでしょうか。
さて、この日の演奏前に先週、佐渡さんは兵庫でマーラーの第8番を三日間演奏しています。この短期間に8番と9番を演奏するとは人間わざと思えません。
いまさらながら驚きます。大曲を短期間に立て続けに振るのは日本の指揮者では佐渡さんと沼尻さんのお二人が双璧です。
僕がこの曲を聴くのはウォン=日本po以来ですね。その前がブロムシュテットさんでしたね。
佐渡さんはきっとバーンスタインのような解釈をされるんだろうなと思って聞いていました。
第1楽章は美しい楽章です。帰り際、ほかのお客さんで御睡眠になっていた方がいらしたことを客席でお話になっていました。僕の隣の年配の女性もしっかり船を漕いでいらっしゃいました。聴きこむと本当に一音も逃したくない曲なのですけど、御睡眠される理由はわからないわけではありません。
第10番の1楽章も同じような展開(但し10番はかなり不協和音が加わりますが)になりますね。
第2楽章の冒頭の第2ヴァイオリンのアクセントも好きです。メリハリのある良い演奏です。
ハーディングが演奏した時もそうですが、僕は新日本フィルのマーラー演奏のうなる弦がとても好きです。対照的なのは名指揮者だった故マリス・ヤンソンスやルイージ、ブロムシュテットなどもそうですがマーラー演奏で必要以上にアクセントを付けず、水墨画のように濃淡だけで音楽を表現し、それも透明感があり、納得しながら聞くのですが、立体的な厚みのあるマーラーはさらに好きです。
そして、ハーディングにしても佐渡さんにしても強いアクセントを付ける演奏はこれも大好物です。
特に今回の演奏でも、第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンを出だしをワンテンポずらす音作りをさせていたのは印象的でした。
この手法で一番有名なのはカラヤンがベルリン・フィルでチャイコフスキーの弦楽セレナードの第1楽章冒頭で使う手法です。弦楽アンサンブルで厚みを付けて聴かせるのにかなり有効な手法ですね。
佐渡=新日本フィルもここを立体的に美しい音色に仕上げていました。
第3楽章・・・・・冒頭は楽しかったです。トランペットが高らかに鳴らすのですが、バッチリ違う音を出してくれました。佐渡さんが音を聞いた瞬間指揮台の上でずっこけていたのが印象的でした。その後引きずられずに第3楽章を完璧に鳴らし切られたのは「ブラボー」です。歌舞伎でいうなら、大向こうのかけ声で「成田屋」というところを「中村屋」と叫んだとお考えいただければいいです。
ここでバーンスタイン節が炸裂。後半のスピードは半端なく、下衆な言い方をすれば「かっこいい」といったところでしょうか。楽章後拍手があっても怒られない出来です。だれか拍手してくれないかなと心の中で叫んでいる自分がありました。
そして第4楽章アダージョ。マーラーの中でも屈指の旋律です。第2ヴァイオリンとビオラはすっきりと透明感のある音、一方で崔さん率いる第1ヴァイオリンは音を非常に動かし、弦を極限までうならせて演奏します。そのおかげで音にコントラストができ、構造物のような4楽章に仕上がっていました。非常に好ましいマーラー演奏でした。28分ぐらいでしたから、佐渡さんとして遅めのテンポをとっていますね。
昔からバーンスタインの実演を聴いてみたいと思い続けていましたが、現存する指揮者で佐渡さんはバーンスタインに比較的近い解釈で演奏をしてくれている(レニーほどねちっこくないですが)のではないかと思います。
この日の演奏は大満足です。佐渡さんならびに新日本フィルの皆さん誠にありがとうございました。
なお、僕の聴いたこの9番の演奏会で最も感動したのは、小澤さんがボストンで最後に振ったのを現地に聞いたものです。あの感動をもう一度経験したいと思い続けています。ゆったりと歌い上げる最終楽章の音のシャワーを浴びたいです。
最後に新日本フィルの副理事長は日枝久氏です。早くこの人を退任させる方向で動いてください(もう財界からお金をひっぱてくれる役目は終わります。フジテレビのメディアとしての光も完全に消えましたから)。新日本フィルにとって良いことはひとつもありません。
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