ロッシーニ/歌劇「ウィリアム・テル」

 

ギヨーム・テル(ウィリアム・テル) ゲジム・ミシュケタ

アルノルド・メルクタール ルネ・バルベラ

ヴァルテル・フュルスト 須藤慎吾

メルクタール 田中大揮

ジェミ 安井陽子

ジェスレル 妻屋秀和

ロドルフ 村上敏明

リュオディ 山本康寛

ルートルド 成田博之

マティルド オルガ・ペレチャッコ

エドヴィージュ 齊藤純子

狩人 佐藤勝司

 

指 揮 大野和士

合唱指揮 冨平恭平

合 唱 新国立劇場合唱団

演 奏 東京フィルハーモニー交響楽団

 

 久しぶりに新国立劇場に来ました。5月の椿姫以来です。この後の魔笛にも行きたかったのですが、ノットさんのベートーヴェンの5番、「ばらの騎士」を聴くために「ウィリアム・テル」だけ聴くことになりました。

 大野さんの指揮を聴くのは3月の「トリスタンとイゾルデ」以来になります。大野さんはドイツのバーデン州立歌劇場音楽総監督を務めた後、20002年9月にベルギー王立歌劇場(モネ劇場)の音楽監督に就任し2008年に退任しています。

 新国立劇場の音楽監督になり、1年に1~2公演の演目をやられています。

 先に来シーズンのことを記載しておくと、ベルクの「ルル」とR・シュトラウスの「エレクトラ」をやる予定になっています。その「エレクトラ」08/09年シーズンにベルリン・ドイツ・オペラでやっています。

 

 大野さんのやりたい演目をそろそろやりだしているようです。

 オペラの中身より大野さんのことを少し記載したいと思います。

 小澤さん亡き後、日本の楽壇で世界というより、欧米で活躍してくれる指揮者は明らかに限られています。

 佐渡さんがベルリンフィルを振ったのち、間が開き、山田さんがいきなりバーミンガム市交響楽団の常任になったかと思うとニューヨーク・フィル、ベルリン・フィルを立て続けに振ることになりました。

 大野さんもコンスタントに海外でも指揮をされていますが、ロンドンや米国のビッグ5までには届きませんでした。ミラノ・スカラ座やニューヨーク・メトロポリタンに顔を出されましたが常連にはなれませんでした。

 

 そつなく演奏をされるのですが、「さらに」というところがないのかもしれません。

 都響の演奏も聴きに行くのですが、僕のカテゴリーでは大友直人さんのように丁寧でオーソドックスな指揮をされる便利屋さん的イメージなのです。この中にはほかに飯森範親さんなんかも含まれ、原田慶太楼さんも同じ集合体に入ります。

 いつもブログで書きますが、大らかな音、優しい音を展開する指揮者の方々で、意地悪い言い方をすると緩い音と言います。それと反対なのが秋山和義さんや小泉和裕さんのようにオーケストラをキリキリと引き締まった音を出す音楽を僕は好んでいます。アバドもそうですし、究極でいうとロリン・マゼールが引き出す音です。

 

 大野さんの音は常に緩やかで穏やかな音なのです。その最たるものが一昨年音楽監督をされている都響で演奏されたヤナーチェクのグラゴル・ミサ曲の音があまりにも緩くて演奏中(悲しくて)涙が出そうになったことです。歯切れを感じることができず、大好きな曲が荒らされた気分にすらなりました。

 3月の「トリスタンとイゾルデ」もきれいに音は鳴っていたのですが、うねりを欠けた演奏をされていたように思います。

 

 今回も、序曲から淡々と上手にオーケストラを鳴らしていたという感想です。

 ジェントルマンで素晴らしい指揮者なのですが、僕の琴線に触れることは最後までありませんでした。大野先生ごめんなさい。

 

 この「ウィリアム・テル」という演目はとても好きです。オペラは大体恋愛をテーマにしていますし、このオペラもその部分はあるのですが、フィデリオ、トスカ、ドンカルロといった民衆や隊士が立ち上がる演目がとても好きです。

 長い演目なので演奏機会は少ないのですが、楽しませてもらいました。

 

 ただ、今回気に入らなかったのはジェスレル側の軍服が今風なものだったことです。古い弓との協調性がなく違和感をずっと感じながら舞台を見ていました。そのほかの衣装は良いのですが、どうもそこが気に入りませんでした。

 歌手で一番気に入ったのはメルクタールを歌ったテノールのルネ・バルベラです。この人ヴェルディのオペラを歌わせたいです。米国人でロッシーニを歌わせてますが、オテロを歌えるんじゃないですか。

 とても張りのある良い声でした。

 

 ジェスレルを歌う妻屋秀和さんの声を聴いて、「ラインの黄金」をまた聴きたいと思いました。妻屋さんは本当に安定感のある歌手です。「ばらの騎士」も楽しかったのですが、ワーグナーで歌ってほしいです。

 安井さんにジェミをやらせたのも良かったですね。とても似合っていました。幅の広い歌手でいらっしゃることをつくづく感じました。

 

 今回のこの演目はいろいろ考えさせてもらいました。