東京交響楽団(R.シュトラウスシリーズ第二弾)
5月12日(金)19:00 ミューザ川崎
R.シュトラウス/歌劇「エレクトラ」
(演奏会形式/全1幕)
エレクトラ=クリスティーン・ガーキー
クリテムネストラ=ハンナ・シュヴァルツ
クリソテミス=シネイド・キャンベル=ウォレス
エギスト=フランク・ファン・アーケン
オレスト=ジェームス・アトキンソン
オレストの養育者=山下浩司
若い召使=伊藤達人
老いた召使=鹿野由之
監視の女=増田のり子
第1の侍女=金子美香
第2の侍女=谷口睦美
第3の侍女=池田香織
第4の侍女/クリテムネストラの裾持ちの女=髙橋絵理
第5の侍女/クリテムネストラの側仕えの女=田崎尚美
合唱:二期会合唱団
指揮:ジョナサン・ノット
演奏:東京交響楽団
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ノット氏と東京交響楽団の「リヒャルト・シュトラウスシリーズ」第2弾です。「サロメ」に続き「エレクトラ」が演奏されました。
ノット氏のオペラは舞台で観劇することはできませんが、モーツァルト(ダ・ポンテ三部作)に続きこの演奏会スタイルのシリーズもホームランが続いています。
リヒャルト・シュトラウスも5作品程度を順番に実施する「つまみ食い」的遭遇になるとは思いますが、今回で2演目になるこのシリーズの水準の高さは舌を巻きます。
ノット氏は相当な情報量を奏者の皆さんに提示していることが出だしの音を聞いただけでもわかります。
音の連なりが有機的に編成されており、テクスチャーがかなりしっかりしています。
楽曲的には聴衆としてもよく理解できるものですが、音楽構成の難しさと指揮者の統率力、さらにはこの難しい音楽を歌ってくれる歌手を確保するという何重にも及ぶハードルがあるために、頻繁にオペラ公演できないのではないかと思います。
新国立劇場においても近年は演奏されておらず、小澤征爾さんが上野で公演して以来、在京プロ団体での演奏機会はなかったのではないでしょうか。
リヒャルト・シュトラウスのオーケストラ曲の演奏機会は結構あるのですが、オペラとなると、「ばらの騎士」「サロメ」「ナクソス島のアリアドネ」が演奏されるぐらいで他の演目を耳にすることがほとんどありません。
今回の「エレクトラ」などはもっと多くの演奏機会があっていいものではないかと思うのですが、レアな演目になっています。
CDで聴いていると案外わからないのですが、今回も実演で聴いていると本当に難しい曲だというのがよくわかりました。
東京交響楽団の説明ページでヴァイオリンが三群、ヴィオラも三群構成されているとのことで、排出される音の情報量も増加しています。
東京交響楽団のツィート
今回、ノット氏を得て東京交響楽団もこの演目にチャレンジできたのだと思います。
日本の指揮者でこの楽譜をきちんと読めても音を思い(頭の中のイメージ)通りに的確に再現させることは困難なのではないでしょうか。
今回の水準で音を提示いただいたことで、さらにこの曲への愛情を抱くことになりました。
演奏会形式でしたが、セミステージの形式で歌手も臨んでくれました。
圧巻は何といってもエレクトラを演じたクリスティーン・ガーキーです。強めの香水をプンプン聴衆に振りまきながら、出ずっぱりで歌い続けていました。最後、死に絶える姿は圧巻でした。
あと、こっそりハンナ・シュバルツが登場してくれました。声量は昔ほどはないにしてもとても渋い歌声でした。
歌手の皆さんが上手に歌い、表現されていましたが、特にガーキーの迫力と歌唱力のおかげで、素晴らしい演奏会となりました。
日本のクラシック界のリヒャルトの演奏会として歴史に残る大名演だったと思います。
東京交響楽団の音作りも素晴らしく、完璧な構成力で音楽を展開していました。この日の演奏は世界のどこに出しても「素晴らしい」と評価を受けるものでした。
この空間にいることのできた人々は大変な幸福者なのでしょうね。
もちろん日曜日のサントリー・ホールでの演奏はこれよりもさらに優れたものであったことは予想に難くありません。
このような水準の音楽を継続的に聴衆に提供いただく東京交響楽団の皆様にも感謝でいっぱいです。
次回はどの演目をやられるのでしょうかね。あまり時間の長い演目はできないでしょうが、どの演目が来ても「ノット詣」に向かうだけの話です。